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意思による楽観のための読書日記

ジョン・モリスの戦中ニッポン滞在記 *****

筆者のジョン・モリスは戦後のBBC日本語部長であり、1938年から1942年7月までの戦中は日本の外務省により招かれた外務顧問であり、東京文理大学や慶應義塾大学で英文学を教えていた経歴を持つ。パールハーバー、英米との宣戦布告後は、多くの外国人が敵性外国人として拘束される中、外務省により招聘されたという身分から、特高から尾行されながらも拘束は免れていたという。

1895年イギリス生まれで、ケンブリッジ大学を第一次大戦の兵役をはさんで卒業、、インドに渡航、旅行や探検、登山に従事、ケンブリッジ大学でマスターの学位を得たのち、1935-38年にはイギリス陸軍で少佐となり退役。1938-42年7月まで日本滞在、帰国後の1942年11月頃に本書を執筆した。

執筆内容は、政治や経済はもとより、家庭、家、電話、お手伝い、和食、和服、日本語、教育、メンタリティ、文学など多岐にわたる。吉原の芸妓や売春、相撲や能の世界、検閲制度の実態など、モリス自らが見聞きし実体験した内容が感想とともに記されている。内容は分析的、示唆的であり外国人の視点からの日本の戦時社会論となっている。

分析は日本軍国主義と軍隊批判、ナチス批判の姿勢が明確であり、よくこれで特高の取り調べをかいくぐれたと感心する。ナチスのシステムを「末期がん」と評価する記事を書いて、ドイツ大使館に目を付けられ、ゲシュタポのブラックリストに名前が載せられた。在日ドイツ人、イタリア人についても観察、枢軸国のほころびについても分析して見せている。

1942年11月時点でのモリスの分析は、日本の敗戦は、その国力より必至であるが、欧米諸国による日本戦力分析は過小評価が過ぎており戦争は長引くとする。一般の日本人は実際に世界で起きていることの事実が知らされていないため、戦争の実態を知ることになるのは本土が戦争に巻き込まれて初めて敗戦に瀕していることを知ることになるだろうと予言。占領軍による日本統治は日本の敗北と連合国の勝利の実態を全国民が明白に実感する期間だけで十分であるとする。その後の日本非武装化、国際社会への復帰の機会という順で進む必要があり、その際、天皇は軍隊により進む道を惑わされたとして、社会の復興に役立てるのが得策とする。加えて、アメリカが再び孤立主義に陥ったり、イギリスが自国とは無縁のズデーテン割譲を認める、というような指導者を選ばないことが重要とする。こうした彼の意見は戦後の占領政策に対しても強い影響力を発揮したというのが解説した小田部雄次の見立てである。

読みごたえがあり、現代の世界情勢分析にも通じる貴重な一冊、強く推奨できる。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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