展覧会名:2020年度第3期コレクション展のうち展示室5 私は生まれなおしている──令和2年度新収蔵作品を中心に──
場所:愛知県美術館
期間:2020.09.19~12.06
訪問日:2020年10月8日
先日紹介の愛知県美術館におけるエジプト展は夫婦で行ったが、その後常設展へ一人で行った。常設展では4種類のテーマの展示会を実施していたが、そのうち新規コレクションについて紹介する。
愛知県はコロナ禍における文化芸術活動の緊急支援策の一つとして、若手アーティストの現代美術作品を重点的に購入することとしている。その第一弾として購入した作品を中心に近年蒐集した作品が展示されている。
その支援規模は、3年間で1億円である。この美術館は下記の方針に基づいて蒐集を行っているが、全般として2項、3項を配慮した作品が選ばれたとのこと。
1. 20世紀の優れた国内外の作品及び20世紀の美術動向を理解する上で役立つ作品
2. 現在を刻印するにふさわしい作品
3. 愛知県としての位置をふまえた特色あるコレクションを形成する作品
4. 上記の作品・作家を理解する上で役立つ資料
現在の若手の作品を蒐集するとしたら、こんな感じになるのかと興味を持った。
今年度蒐集作品の中から 8点示す。
1.木村充伯(静岡県) 「祖先は眠る(2匹の猿)」
自然光の木漏れ日の中で眠る2匹の猿。これは板の上に厚く油絵具で盛り上げたもの。とても幸せそうです。 ゆっくりと胸が膨らんだり萎んだり、本物のような毛並みが輝いています。この美術館で展示の最初はガチガチだったかもしれませんが、やっとリラックスできたようです。
「ただいま 睡眠中」
よく寝てる
緊張感が
溶けたかな
芸術品って
堅苦しいもの
よく寝てる
緊張感が
溶けたかな
芸術品って
堅苦しいもの
2.水戸部七絵 「I am a yellow」
(全体写真と 逆方向からの拡大(顔かたちが分かりやすい)
この作品も1と似たような創作方法で、油絵具をキャンバスに積み上げていった肖像画。 1が具象画とするならば2は抽象画か。
ある角度から見ると、確かに黄色顔のような塊が盛り上がっている。作家が白人種から黄色人種として軽く扱われたことに対するプロテストも意味しているとのこと。光の当て方によっては、不気味な陰影が現れるかもしれない。
ともに、2次元の絵画手法で3次元の創作をするというもの。1.は愛らしくいいなって思うし、2.はボリューム感で迫力がある。でもこの油絵具の塊を劣化させずに(例えば割れたりさせずに)うまく保管できるのだろうか。
3.本山ゆかり(愛知) 「画用紙(柔道_左/右)」
白い画用紙に簡単な線をさらっと書いたような絵。 これは実は、まず透明なアクリルボードにこれと鏡面対象の線画を描きその上に白い画用紙の色を塗って、アクリル面を透かして見るという手法で描いたもの。表面がアクリルのつるつる面となっている。従来の絵画では、絵具を積み上げて最後に載せたものが見えるのに対し、これは最初に描いたものが表現されるのが面白いと評価が高いとのこと。でもそれが結果としての表現でどう面白いかは理解できない。ただしアクリルがつるつるなので、下の写真のように周辺のレフレクションを絵に取り入れることができるのは面白い。
4.高山陽介 「無題(顔) 等」
(集いの場)
高山さんは山中のアトリエで、チェーンソーなどで木を刻んで彫刻を作っているそうだ。その方法で作り、色を付けたりビーズで飾ったりした頭像が並べられていた。
彼は、いろんな彫刻技術を学び、また3Dプリントという技術がある現在の中で、その対極の手作りの技術で素材と向き合う精神性が評価されているのだそうだ。 それはさておきこういった像を並べて彼は集いの場を作るのだが、確かにその空間を歩くことは、ハロウィンの祝祭に参加するようで楽しい。
5.横山奈美(岐阜県) 「Sexy Man and Sexy Woman」
ネオンサインは平面でデザインした図形を、支持構造を含めて3次元で表現しているものと理解し、それを改めて2次元で描くことで、キラキラ光るネオンに隠されているものを感じさせようとしたのが、この絵だそうだ。確かに挑発的な2人のネオンのラインを支持している構造ががっちりと描かれている。
このキラキラとしたネオンのぐにゃっと有機的な線と、暗いがっちりとした直線構造の対比が面白い。テーマがおしゃれと思った。
6.田島秀彦(岐阜県) 「Playroom(09-06)/ Playroom(09-07)」
(一般部)
(戦争部 白く見えているのがガラスファイバーを通ってきたレーザー )
大きな画面を碁盤目に区切り、タイルのようにいろいろな図柄を描かれている。全体としてはイスラムからアジアの文様である。作者は岐阜県の人だから焼き物に親しく、こういったタイルのデザインは慣れていたであろう。
それぞれの図柄はなにか幸せそうだし、全体も柔らかな暖かい光を感じる。しかし中央よりやや下に右から左に貫く水平線があり、そこでは戦争が起こっている。そこだけガラスファイバーが埋め込まれ、レーザーの鋭い光が飛び出している。
一見平穏な中に、戦争が続いているのが現代ということを認識させる作品である。
7.やましたあつこ(愛知県) 「ままごと」
(顔の拡大)
この作品を見て、見てはいけないものを見てしまったのではと一瞬思った。「ままごと」というなんと空々しい表題、秘密に包まれた世界である。伸びやかな柔らかい身体とそれを支えるようなネット、女性の秘密が溢れた作品である。
8.山下拓也(三重県) 「TALIONの子(TALION GALLERYの壁を使って蘭陵王の彫刻を
制作する。」
「美術館では いつでもハロウィン」」
早すぎた
あわてんぼうで
間違えた
でも美術館なら
いつでもハロウィン
早すぎた
あわてんぼうで
間違えた
でも美術館なら
いつでもハロウィン
最後に石膏ボードを切って組み合わせて作ったインスタレーション。これは製作過程を示す映像とセットになっていて、そこで勢いよく切り、組み立てていることがわかる。それを見ながら、この作品はねぶたみたいなもので、なんかのお祭りの時にガンガン作り、祭りが過ぎればクラッシャーなんかでぶっ壊し、その破壊過程も映像に撮る。結局歴史に残る作品は映像だけにするといった考え方はどうかなと思った。
ここにある作品は、確かにハロウィンの山車にできるように面白いけれども、とても刹那的だと思う。
終わりに
今回紹介したのは、最初に書いたように3年間1億円のうちの令和2年度第一弾で、全部を紹介したわけではない(10数点はあった?)。だから一点当たりはそれほどの金額ではないだろう。コレクション目標2と3というのもわかる感じがする。特に愛知および近県の作者を優先しているようである。
でもこの中で1点でも当たれば、1億円くらいは行くのが現代美術の世界。
それぞれ作品の製作過程をいろいろ工夫して一生懸命なのはわかった。でも観る人は結果しか見えないから難しい。
現代美術家は日本では育てられないから、彼らをアメリカに送り込むべきである。私としては、1と6の作品が好きだが、国際的に当たりそうなのは、女性陣という気がする。