
一見するととても真面目な映画のように思える作品だ。母親の突然死によりショックを受けた父親が、母親が最後に残した伝言(遺言)が気になって、奇妙な行動をとり始める。その葬儀に出席した息子は、父親のことが心配で身重の妻が待っている家になかなか帰ることができない。その伝言とは果たして....
(二流)画家としての仕事にかまけて家庭を一切振り返らなかった父を反面教師にしている息子だったが、妊娠ノイローゼ気味の妻を気遣うあまり、母親が死んだことすら伝えず妻に嘘をついている。そんな父親と息子が母親が携帯に残した伝言を聞いて和解するヒューマンドラマ...のような体裁をしているのである。
しかし、このブルガリア人女流監督が撮った、きっついブラックジョークをかました過去2作品を鑑賞済の方はきっとこう思われるにちがいない。「そんな安っぽい感動もんなわけないやろ」と。で、その正体は?ヒント1は、身重妻の旦那へのお願い事と亡き母親の伝言メッセージが対になっている点。ヒント2は、親子が立ち寄ったレストランで隣席の夫婦が交わしていた会話(喧嘩)?である。
ヒント2の方から解説すると、妻らしい女がレストランの従業員に「(料理の)味が変だわ。このチーズは動物性?それとも植物性?」としつこく問いただし、夫の方が「今そんなこと気にしなくてもいいだろう」となだめるのであるが妻は全く譲らず、結局2人は料理に手をつけないまま金を払って店を出ていってしまうのである。
ヒント1を言い換えれば、ちゃんと母親の伝言どおり素直に行動していれば、息子が警察沙汰を起こすこともなかっただろうし、画家の父親もおそらく怪しげなスピリチュアルにひっかからなかったであろう、ということなのだ。つまり、犬も食わない“女の小言”を無視すると、後でとんでもないとばっちりを受けますよ、という教訓がシナリオの中にしれっと隠されているのである。
裏を返すと本作は一種のフェミニズムムービーなわけで、それを(女性がほとんど登場しない)認知症の親父と気の弱い息子だけの会話だけで表現した、この女流監督のセンスを高く評価すべき作品だと思うのである。「たかが“女の小言”だと思ってあっさり聞き流したりすれば、本作に隠された真のメッセージすら気づけずに映画を見終わってしまうことになるのですよ」、という監督の“小言”を聞きながら。
マルメロの伝言
監督 クリスティナ・グロゼヴァ、ペタル・ヴァルチャノフ(2019年)
オススメ度[


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