
マシュー・マコノヒーはAIDSを罹患したカウボーイを演じた本作で、2013年の主演男優各賞を総なめにした。どちらかというとゴツい感じの体格が力石徹も真っ青のヒョロヒョロ状態、医者から余命30日を言い渡され、特効薬探しに奔走する実在の人物を怪演している。
テキサスのダラスといえばカウボーイの聖地、地元フットボールチームにもその名にが冠されるほど、男の中の男であることが何よりも求められる土地柄だ。AIDSにかかったというだけで周囲の仲間からはホモ扱い、差別待遇を受けるロン。しかし、あきらめが悪いのもカウボーイの気質なのか、図書館通いでAIDSのことを徹底的に調べあげ、まだ臨床試験段階の薬AZTの情報まで入手する。
しかしこのAZTは白血球及び赤血球の数を激減させるという致命的な問題を抱えていることが判明。それならばと、今ほど規制がきつくなかった国境をはるばる越えて、メキシコの無免許医師から副作用の少ないAIDS特効薬を大量入手することに成功、モーテルの一室を借りてダラス・バイヤーズ・クラブを立ち上げるのだが…
今や麻薬の一大密輸出国として有名なメキシコだが、本作で描かれているのはイモムシからの抽出エキスを元に作られた自然由来の体にいいお薬。この薬のおかげで寿命を大幅に伸ばすことに成功したロンは、バーボン&麻薬びたりだった生活からすっかり足を洗い、合成化合物入や遺伝子組み換えの食品を一切受けつけない筋金入りのヘルシー志向男へと変貌していくのだ。
それでは飽きたらず、製薬会社とベッタリであくまでも副作用バリバリのAZT普及を優先させたいアメリカ食品医療品局FDAと全面対決するロン。「なぜ体に悪い薬を売って、いいとわかっている薬を認可しないのか」と訴訟まで起こして、遂には自身への投与資格を勝ち取ってしまうのだ。権威というものを基本的には信じていないアメリカ人の気質が如実に表れた映画ともいえるだろう。
逆に権威を鵜呑みにしやすい日本人だったら、医者のいうがまま薬を投与されそのままポックリいってもけっして文句を言わない(というより言えないか?)人がほとんどだろう。単なる気分の落ち込みをうつ病だと診断しては薬、腰痛だといえば体にもふれずにまずは薬、そして薬の飲み過ぎで胃痛を訴えてもまた薬を処方しようとする毒ターたち。そんな白い巨塔の住人たちに喧嘩を売ったロンのテキサス魂が、マコノヒーの役者魂によって体現された1本である。
ダラス・バイヤーズ・クラブ
監督 ジャン・マルク=ヴァレ(2013年)
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