
最近はめったにメガホンをとらなくなったリュック・ベンソンが、こんな傑作SFをこっそり撮っていたとは。監督のみならず脚本まで手掛けたっつうことは、映画の出来に相当な自信があった証拠。公開当時本作の評価が真っ二つに別れたらしいが、(姑息な根回しやレヴュー操作なしに)製作費の11倍もの興業収入を叩き出したというその数字がすべてを物語っている。自分的には間違いなく“押し”の1本だ。
アジア人相手のフッカー、ルーシー(スカーレット・ヨハンソン)が、新種の麻薬を腹部に埋め込まれ運び屋に。監視役の韓国マフィヤに暴行を受けたのがきっかけで、体内に麻薬が漏れだしたからさぁ大変。脳科学の権威も驚くハイパー脳力を身につけるのだ。携帯、FAX、TVにラジオ、電気製品なら全て遠隔操作OK、麻薬を奪い返しにきたマフィアの子分たちを指一本で吊天井、パソコンのウィンドウを2台同時に超速開閉なんてのは朝飯前…脳の活性化レベルが⤴するにつれ、それを呆然と見つめる男どものアホ面がさらにマヌケに見えてくる。
脳の活性化を特殊能力に結びつけるとはナンセンスとの批判を浴びたらしいが、日本の文豪のあの人や(架空の人物ではあるけれど)あのシャーロック・ホームズだってれっきとしたヤク中だ。(別に麻薬使用を奨励するわけではないけれど)ヤクで頭をキメたからこそ、素面では思いもつかない表現力や推理力を発揮することができたのではないか。それを特殊能力といわずに何と呼ぶのか、一度聞いてみたいものである。
普通のハリウッド映画なら、脳を活性化した主人公は必ずといっていいくらい金と権力に目が眩むところだが、リュック・ベンソンそんな野暮なシナリオを書くわけがない。麻薬のODで全知全能となったルーシーちゃん、脳科学者のノーマン(モーガン・フリーマン)に哲学の究極問題“生きる意味”を問うのである。するとノーマンがこう答える「身につけた知識を後世に伝えること。それ以外に意味はない」と。深いのか浅いのかよくわからないエスプリの効いた禅問答がツボなのだ。
さらに、アイン・シュタインでさえその答が出せなかった“時間”の本質について、こんなにも単純明解な回答をルーシーにされてしまうと、一瞬マジなのかもと錯覚してしまう絶妙のさじ加減。人類の祖先にETタッチした後にルーシーが遡る宇宙創世へのオデッセイは、まさに『2001年宇宙の旅』の壮大なパロディであり、宇宙物理学なんぞを持ち出してガチな突っ込みなんぞを入れたらそれこそナンセンス、ただ腹を抱えて(W)すればいいんです。
地球のみならず宇宙すべての真理を知り得たルーシーちゃん、『マトリックス』のネオのごとき光線を吐き出しながら悟りをひらいた後(これも多分パロディ)、終にはその上の○へとアップグレードしてしまう。合成麻薬の力恐るべし。しかし、あの亜空間でなぜマフィアのボスだけ人間の姿形で普通にいられたのか、ちょっと不思議ですけどね。
LUCY/ルーシー
監督 リュック・ベンソン(2014年)
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