
アン・リー監督のゲイ・ムービー『ブロークバック・マウンテン』は、ノンケ鑑賞者の間で長いことネタにされていたことだけは覚えている。私自身(ゲイでもない)ジェイク・ギレンホールとヒース・レジャーが馬小屋でまぐわうシーンなどは気持ち悪さが先行して正視していられないほどだった。
時代も変われば変わるもので、英国版ブロークバック・マウンテンとも云われる本作の評価はすこぶる高い。本作が長編処女作となる監督フランシス・リーこそモノホンのゲイらしいが、主役2人はどちらもノンケだからだろうか、便所やはなれのトレーラーハウス、羊小屋で男同士がまぐわうシーンなどは、お世辞にも気持ちのいいものではなかった。
身体の不自由な父親に代わっていやいや牧場の仕事をひとりで切り盛りしているゲイの息子ジョニー(ジョシュ・オコナー)とそこに季節労働者として雇われるゲオルグ(アレックス・セカレアヌ)の恋物語。🐮や🐏の出産シーンがやたら多く登場するのは、穴に手をつっこむ所作で男同士のまぐわいを連想させてるのかと思いきや、どうもそうではなさそうだ。
それは、重労働で疲れはてた身体に大量のビールを流し込み、まるで排泄するように便所で見知らぬ男とまぐわうジョニーの、“生まれ変わりたい”という願望のメタファーだったのではないだろうか。聞けば、ロケ地の農場のすぐ近くにフランシス・リー監督の実家農場もあったそうで、「このまま家業を手伝わされていたら...」の仮定を元に書き上げた半自伝的シナリオらしいのだ。
仮死状態で生まれてきた子羊に死産で生まれた別の子羊の皮をはいで着せてやり、その母羊に授乳させる技術は、英国牧場伝統の習慣だという。(ジョニーの分身でもある)育児放棄された子羊を手厚く介抱するゲオルグの姿に、ジョニーの♥️はメロメロ恋に落ちるのである。このゲオルグのスパダリぶりを高評価するゲイがとても多いらしく、単館上映から劇場公開するまでにいたったのはこのジルベールたちのおかげだろう。
たき火を囲んで「へんたい」「ホモ野郎」とお互いを呼びあいながら、(その不味さには定評のある)ポットヌードルをほおばるゲオルグとジョニー。ゲオルグはそこに砂糖?を振りかけて食べていたらしいのだが、“愛”のトッピングさえあればあとは何もいらない、そんな演出が少し物足りなかったところではある。
ゴッズ・オウン・カントリー
監督 フランシス・リー(2017年)
オススメ度[

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