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ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

しとやかな獣

2021年06月29日 | 星5ツです篇


一作として似たような作風の映画がない、パターンをとことん突き詰めていく小津とは真逆の映画監督川島雄三。その最高傑作の呼び声高い本作だが、正月映画として初公開された当時興行的に大ゴケしたというから、実に川島らしい。しかしながら、時代を先取りした斬新すぎる映像や演出を随所に発見できる1本でもある。

埋め立て地の上に築かれた晴海団地の高層階にある一室で展開される密室劇。2LDKの狭さを全く感じさせないカメラは休む暇なく動き回る。小津の定点カメラによるローアングルをまるでパロッたような(スカートの中を💖)見上げるカットもあれば、頭頂部をとらえる真俯瞰カット、それでもまだ足りないとばかりにドア横に開けた通気口からコソ泥一家の醜態を、観客にこれでもかとのぞき見させるのである。

巨匠系芸術映画ファンにとっては毎度お馴染みの余白演出は皆無と云ってもよく、全編速射砲のような会話で埋めつくされている。さらにロックのドラム演奏のように打ちならされる鼓。ポンポコ、ポンポコ、よーぉ。ゴーゴーダンスミュージックがいつの間にか狂言にすり変わってしまう演出は、ゴテ健作品をコケにでもしようとしたのだろうか。

そんな狂想曲のごとき人間ドラマが展開される中、カメラは突如として登場人物の顔にクローズアップする。元海軍中佐家長の時造(伊藤雄之助)が戦後間もない頃の貧乏生活を語り出したほんの一瞬、まるで掛け合い漫才のような場の雰囲気がシーンと静まり返るのである。貧乏が肌に染み込んだような生活は二度と御免だ、とばかりに…

水商売の娘(浜田ゆう子)のパトロンや、息子実の勤める芸能プロダクションから、何の悪気もなく金を着服しては贅沢三昧の生活をエンジョイしている厚顔無恥一家。しかしそんな前田一家をも上回る大悪党が…バツイチの子持ちながらツンとおすましそれは誰?複数の男を手玉にとる超小悪魔、若尾文子演じる三谷幸枝である。

そんな幸枝や幸枝に騙されたプロダクション社長(高松英郎)のモノローグが綴られる階段シーンは、まるでエッシャーの騙し絵のような趣。観客の平衡感覚を狂わせる絶妙のアングルで撮られており、これがなにがしかのメタファーであることは間違いないだろう。

成瀬巳喜男の映画に出てきそうな生まじめな税理士(船越英二)が団地の屋上から身投げしたことを知った時、したたかな女狐たちはおそらくすぐに悟ったはずである。物にあふれた現在の豊かな生活や、男たちから巻き上げた金で建てた旅館が、砂上の楼閣に過ぎなかったことを。そして自分が登っていたと思っていた階段が実は下り坂であったことを…

しとやかな獣
監督 川島雄三(1962年)
[オススメ度 ]




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