
批評家の評価は高かったが興行的には大ゴケした『ブレードランナー2049』。ナボコフ小説から引用したチューリングテスト、携帯呼び出し音にプロコフィエフ作曲『ピーターと狼』を使うなど、かなり古典文学やクラシック芸術に造詣が深い人のようなのだ、ヴィルヌーヴは。どこか高尚な雰囲気漂う作風は、アカデミー会員やカンヌ審査員受けするものの、一般観客にしてみれば「気取りやがって」と敬遠したくなる気持ちもわからないではない。正統派文系映画監督ドゥニ・ヴィルヌ―ヴの強味にして弱点といってもいいだろう。
そのヴィルヌーヴ監督長編2作目となる本作が公開されたのは2013年、あの問題作曲家リヒャルト・ワーグナー生誕200年にあたるのだ。それを記念してワーグナーの代表楽劇『ニーベルングの指環』が世界各国のオペラハウスで上演されたのも記憶に新しいことだろう。ヴィルヌーヴも当然そのことを情報として知っていたと思われ、何かの型で映画の演出にもりこんでやろうと虎視眈々狙っていたとしてもおかしくはない。
『ディア・ハンター』を思わせる何やら胡散臭い宗教観丸出しの映画冒頭シーン。巷では、地下倉庫を方舟、熱湯&冷水責めを大洪水に見立てたケラー=ノア説が有力らしいが、本作の魅力はそれだけにとどまらない。世界を支配する力を秘めた指環をめぐる、神々と人間その他との戦いを描いた『ニーベルングの指環』的演出を随所に発見できるからだ。
登場人物の設定等には若干ズレはあるものの、単なる創作サイコスリラーの枠にあてはめてしまっては、これぞヴィルヌーヴという味わい深さも半減、とてももったいない気がするのだ。で試しにWikiに書かれているあらすじを比べて見ると、出てくる出てくる…怪しい箇所が山ほど見つかるではないか。具体的に共通点を上げると下記のようになる気がする。尚、『ニーベルングの指環』からの引用については、何夜目からの抜粋かを( )書きで示しおいたので為参考にどうぞ。
『ラインの黄金』(R)
『ワルキューレ』(W)
『ジークフリート』(S)
『神々の黄昏』(G)
・調子外れなトランペット国歌演奏→小鳥の鳴き声を真似た調子外れな葦笛(S)
・ロキ刑事がはめているフリーメイソンの指環→黄金に輝くニーベルングの指環(R)
・子供を誘拐するアレックス→ラインの黄金を盗み出すアルベルヒ(R)
・頭巾を被せられ空家に監禁されるアレックス→魔法の隠れ頭巾を被ったところを拉致されるアルベルヒ(R)
・子供を誘拐されたショックで寝込むグレイス→ヴォーダンの怒りを買い眠らされるブリュンヒルデ(W)
・ハンマーを振り上げてアレックスを脅すケラー→ハンマーで無敵剣ノートゥングを鍛え上げるジークフリート(W)
・蛇が大好きな殺人鬼のミイラを地下室で見つけるロキ→大蛇と化し洞窟に眠るファーフナーと対決するジークフリート(S)
・真犯人と相討ちになり大量出血するロキ→竜の返り血を浴びて無敵になるジークフリート(S)
・ケラーや子供が飲まされる麻薬入ジュース→ジークフリートが飲まされる忘れ薬(G)
・ケラーが吹くホイッスル→ジークフリートが得意な角笛(S)
ね、そんな気がしてきたでしょう。
えっ、ロス(ト)チャイルドに挑むロックフェラー(ロキ&ケラー)の話しだって?単なる偶然でしょ偶然。
プリズナース
監督 ドゥニ・ヴィルヴーヌ(2013年)
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