齢八十三を迎ふる老父いま安土城模型に取り組みてをり 丹人
よわいはちじゅう さんをむかふる ろうふいま あづちじょうもけいに とりくみてをり
安土城模型の完成には百十週数へて二年の歳月を費やすといふ
取り組みて五週目なれば天主閣の上層の姿の現はるもいとをかし
老父は来たる三月十日をもちて八十三歳となるに
心身の壮健にしていよいよ元気溌剌なれば
三月七日に老父を連れて
磐城湯本温泉の吹の湯旅館に一泊したれり
吹の湯旅館は十三層なる塔のありて
湯本温泉随一の高けさを誇りたれば
まさに湯本城天守閣なり
最上層に一室のみ設けられたる特別室は
松月の間なり
エレベーターにて最上層へ登れば
風神雷神の出迎へを受けるも
いとをかし
戸を開きて松月の間に入れば
八畳と十二畳の二つの間よりなる
床の間を背にして座して
南の障子を開ければ
空の色いよいよ青し
南窓に寄りて見降ろせば
手前に赤松と山桜の林あり
眼下には湯本の街並を貫きて常磐線と湯本川と国道六号が
川の字つくりて伸びてゆくさまを見るも
いとをかし
右方の彼方には小名浜の海まで見へたる
嗚呼
絶景かな
まさに湯本城の城主となりし心地するも
いとをかし
十三階特別室に八十三 五十三なる父子なりけり 丹人
じゅうさんかい とくべつしつに はちじゅうさん ごじゅうさんなるちちこなりけり
*画像:2009. 3. 8 安土城天主閣模型
*画像:2009. 3. 7 吹の湯(福島県いわき市湯本温泉) にて