これまで何度も紹介してきた、東京新聞朝刊の「本音のコラム」欄。文芸評論家の斎藤美奈子氏がますます意気軒昂、舌鋒鋭く、かつリズミカルに、与党の安保法制案について発言しています。2編続けて引用します。
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六つの事態 (6月3日付)
日本語で「事態」を含む熟語といえば、緊急事態、非常事態、異常事態くらいである。ところが今国会で政府与党が成立を目指す安保関連法案は「事態」の大安売り。
①武力攻撃発生事態とは「おいおい、ほんとに攻撃されちゃったぜ」状態。従来の政府見解で武力行使(反撃)が許されるのは、このように「実際に攻撃された」ときだけだった。それが専守防衛の意味である。
その伝でいくと、②武力攻撃切迫事態は「どう考えても攻撃されるにちがいないぞ」状態、③武力攻撃予測事態は「場合によっては攻撃されるかもしれないな」状態か。
以上は、個別的自衛権(自分たちの安全)にかかわる「事態」だが、集団的自衛権(よそんちの安全)に関係する「事態」はさらにややこしい。
④重要影響事態は「もしかしたら、わが家もヤバイことになるんじゃないか」状態、⑤存立危機事態は「このままだとわが家は絶対やられてしまうぞ」状態、⑥国際平和共同対処事態は「うちは安全だけど、まぁ付き合いもあるし」状態?
④と⑤の差は誰も(答弁に立った大臣も)わからないのに、④⑥なら戦闘の手伝い(他国軍の後方支援)ができ、⑤なら武器をもって戦闘に参加できる(集団的自衛権の行使)。①以外は攻撃されていない状態なのだ。それでも戦争に近づきたがる。そのほうが異常事態だよ。
小細工はたくさん (6月17日付)
安倍晋三首相と橋下徹大阪市長の共通点は、人の話は死んでも聞かず、自分の主張はどこまでも押し通し、批判されればすぐに切れるが人の批判は好きなことだ。そんな王様な2人がそれぞれの家来(菅義偉官房長官・松井一郎大阪府知事)を従え、3時間にわたる会談をもったという。
「与党の強行採決にしたくない」とばかり裏で抱き込み工作に走る首相も姑息(こそく)。一度は引退を表明したのに、首相に呼ばれてほいほい出て行く市長も軽薄。それを政局談議として解説する政治評論家も低級なら、素知らぬふりを決めこむニュースショーも卑怯(ひきょう)。
安保法制は日本の行く末を決める重大法案なんでしょ。片方では違憲だとして体を張ってる市民や学者もいるのに、こんな小細工で戦争への道筋をつけられたくない。
55年前(1960年)の6月17日、在京七紙(産経・毎日・東京・読売・東京タイムズ・朝日・日経)は合同で「暴力主義を排し議会主義を守れ」と題する共同宣言を発表した。60年安保闘争のさなかで流血事件が起きたことを憂慮した内容だったが、岸信介内閣の責任を問わない体制寄りの姿勢だったため「新聞が死んだ日」と後に評された。
だが、いま読むと、主張の半分は正しい。数を頼み、破綻した論理で採決を目指すこと自体が暴力だ。党利党略はもうたくさん。
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次に、読者の投稿欄より引用します(5月26日付)。
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「不戦」守る努力こそ 大学講師 関 巌 70 (千葉県袖ケ浦市)
明治以降、近代国家となった日本が、外国と初めて戦争をした1894年の日清戦争から始まって日露戦争、第一次世界大戦、そして日中戦争から太平洋戦争に続く15年戦争の終わる1945年の52年間で、実に半分の25年間も日本は他国へ行って戦争をしていた。
いずれの戦争でも、多くの命が失われた。15年戦争だけでも約300万人の戦争による犠牲者を出した。
父が戦死した三カ月後の45年に私は生まれた。それから今日まで70年間、日本は一度も他国での武力行使をせず、一人も戦争による死者を出していない。
日本が70年間、戦争をしないで平和にやってこられたのはなぜか。憲法九条があり、自衛隊が専守防衛に徹してきて、他国での武力行使をしてこなかったからだと思う。
死者を一人も出さなかったことが何よりの証拠だ。これ以上の証拠があるだろうか。
日本人は「水と平和」はただで手に入ると思っていて何もしない。それを「平和ボケ」と言う人がいる。だから軍備を強化せよ、と主張している。
安倍政権は今、自衛隊が他国で武力行使が可能になるような安保関連の法整備を急速に進めようとしている。
しかし、憲法第十二条は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」とある。憲法が定めるこの不断の努力こそが、「平和ボケ」ということではないだろうか。
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