燈子の部屋

さまざまなことをシリアスかつコミカルかつエッセイ風に(?)綴る独り言的日記サイトです

『BRAIN VALLEY』/『神は沈黙せず』

2005-10-13 16:06:01 | 本棚
この秋は積読本の消化!のはずが、本屋に行くとつい新刊に手を伸ばしてしまう。
全て読了するまでは買わないぞ、という決意はどこへ行ったのか……。

瀬名秀明著『BRAIN VALLEY』は、買った週に速攻で読み終えることができた。
近頃の私には、なかなか珍しい出来事である。
読みながらちらちらと思い浮かべてしまったのは、山本弘著『神は沈黙せず』。
一昨年に新刊で買い、積読にすることなく読了したが、感想は書けずにいた。
比較するつもりはなかったのだが、両作品をつい並べてみたくなった。

『BRAIN VALLEY』と『神は沈黙せず』は、何といっても構想が似ている。
中心となるテーマは「神」についてであり、
そこに、UFO、超常現象、怪奇現象、超能力、宗教、科学など、
数多くのテーマがどどん!と詰め込まれている。
そして、一人の傲慢な男が「神」になろうとする……。

娯楽小説という点では、『BRAIN ~』のほうが面白く、勢いがあると思う。
そもそも舞台設定からして、辺ぴな山奥に建てられた、脳の総合研究施設である。
そして、閉鎖的な村、そこで行われている伝奇的な秘儀。
設定が型通りであればあるほど、書くのは難しくなるような気がするが、
それを最後まで読ませる力は凄いなあと思う。
文庫の帯には瀬名氏が次のように書いている。

「『BRAIN VALLEY』は私が20代最後に書いた長篇小説だ。
 いま読み返してみると、実験の生々しさや科学への複雑な感情が強く込められている。
 この奇妙なリアル感はあの年齢だったからこそ、書けたのだと思う。
 本作の登場人物の多くは中年だが、紛れもなくこれは若き人々のための物語だ。
 科学の先端がいつまでも若いのと同じように。」


その娯楽性を失わせることなくリアリティーを与えているのが、
土台となる知識や情報の豊富さである。
巻末の主要参考文献のジャンルをみると、
脳神経、てんかん、霊長類学、動物行動学、臨死体験、体外離脱現象、
エイリアン・アブダクション(宇宙人による誘拐)、
カオス、複雑系、人工生命、コンピュータ、そして学術文献など幅広い。
けれども、それらが決して鼻につかないのは、ストーリーの中で、
大人がこどもに向けて説明する手法がとられているからだろうか。
専門外の読者にもわかるようにという配慮はあからさまではあるが、
そのお陰でつまづかずに読めたのは確かだ。

参考文献の豊富さでは、『神は~』も負けていない。
著者の山本氏は「この世に氾濫するトンデモないものをウォッチングする団体」――
即ち「と学会」の会長だそうで、取り上げるデータ量はハンパではない。
両作品は、構想こそ似ているけれども、知識や情報の扱い方が全く違うのだ。
『BRAIN ~』では、物語の流れを損なわない程度にエッセンス化されているが、
『神は~』は、データベースの膨大な情報をそのまま提供している感じで、
データそのものに興味があるか、活字を追うのが好きな人でないと読みにくい。
私は、読んでも読んでも読み終わらないほど長い物語が好きだが、
面白くなければそれまでで、積読のなかにはそういう本もある。
『神は~』のデータ部分は、正直言って、読みにくいと思った。
詳しく知りたい気持ちもあったから、飛ばすことはしなかったが、
読みやすさはどうしたって『BRAIN ~』のほうだ。

しかし。。。

好みという点では、『神は~』のほうだ。
最後にヒロインが自らの信仰に気づく場面がある。

「そう、これは信仰だ。理由なんかない。
 人は正しく生きる能力があり、正しく生きるべきである――そう信じたいから信じるのだ。
 なぜなら、それが唯一の希望だから。」


そこにあるのは、「人間として正しく生きよう」というモラル。
神がそう言っているからでも、教祖がそう命令しているからでも、
他人からの借り物でもない、自分で見つけた自分のモラル。
「正しく生きる」とはどういうことか、具体的に言ってしまえば、
正義を護るとか、愛や善に従うとかいうことになるのだろうけれど、
戦争の大義名分もそれであるから、ややこしい。
でも、その時その時で、自分が正しいと思うことをするしかないのだ。

『BRAIN ~』は、残念ながら、最後にきて収拾不能状態になっている。
「神」とは「脳のなかの幽霊」みたいな存在なのか?
含みを残したまま、足をすくわれたような感じだ。
テンポよく、面白く読めたのに、そこが悔しい。



『BRAIN VALLEY』

 瀬名秀明著
 新潮文庫 2005年10月
 上巻 528頁 743円 (税込) ISBN978-4-10-121431-3
 下巻 488頁 705円 (税込) ISBN978-4-10-121432-0

 第19回日本SF大賞受賞

 1997年12月 角川書店刊行
 2000年12月 角川文庫収録


『神は沈黙せず』

 山本弘著
 角川書店 2003年10月
 四六判 497頁 1,995円(税込)
 ISBN978-4-04-873479-0


(次を読む)


4 コメント

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神さまと 幽霊と 正しさ (Ray)
2005-10-13 17:32:08
先日、美輪明宏(漢字、合ってます?)さん と

爆笑問題さん 森本毅郎さんと、

数学者のなんとかさん(外国のかた)と YOUさんとがご出演の

神さまについての検証?みたいな番組、見たんです

(途中から、だったのですけれど)



その話は 長くなるのでー



だけれども 神さまは脳のなかの幽霊?っていう感覚に

私も、賛成です





ところで、私事で すみません



私、「正しく生きる」って 無理なような気がしています

(私も一時、目指したこともありましたけれどー)



燈子さんもおっしゃるように 

正しさの基準?が 時代や国や人種や宗教によって違うと想うからです



正しさと悪さは 紙一重な気も、するんです



だからー

正しさや悪や もろもろを超えたものー



清さ?みたいなものが 大事なんじゃないかって

ここ数年前くらいから 思い始めて居ます



それ(清さ)は ひょっとして?

愛、、っていうものに 繋がるんじゃないかなー

、、なんちゃって



正しさ。。だと 我が強くなっちゃうな、って

正しさ。。って 悪を裁く立場かな?とか



裁くことなんて ほんとうはどうかな?正しさかな?とか



だから、清く生きたいって、想うんですけれどー

なかなか できませんアーア

今日は さらさらとした快晴な日でしたー





また、勝手な話、すみません



こういうことをコメントするから、まだまだ私って

だめなんだって 思います



返信する
Rayさんへ (燈子)
2005-10-17 13:01:55
>先日、美輪明宏(漢字、合ってます?)さん と

>爆笑問題さん 森本毅郎さんと、

>数学者のなんとかさん(外国のかた)と YOUさんとがご出演の

>神さまについての検証?みたいな番組、見たんです

>(途中から、だったのですけれど)



私もその番組を見ていました!

美輪明宏さん(漢字、合ってますよ^^)の話は結構好きだったりします。

ちなみに、数学者の方はピーター・フランクルさんです。

蛇足ですが、昔、渋谷でひとだかりしているところを覗いたら、

フランクルさんが本を売っていたので、私も買ってサインを頂きました(*^_^*)



「正しさ」についてですが……

「絶対的な正しさ」というものはこの世にないのではないかと思います。

それを求めてしまうと、正しく生きることは不可能だと思うんですよね。

結局は、各人が属する社会で正しいとされていることが「正しさ」なのかなー、と。

「絶対的な正しさ」に近いのは、基本的人権を護ることくらいではないかと。



「その時その時で、自分が正しいと思うことをするしかない」――と書いたのは、

行動するその時点で「正しくない」と思うことはしたくないということで、

決して「私が正義よ!」と言っているわけではないです(笑)

ああ、うまく言えないわ~! もどかしい~!

「愛」に基づいて生きることが「正しく生きる」ことに繋がる……

と言えばいいのかなあ。。。(抽象的だな~)



うわー、日記にすればよかったかなー??

まとまりがなくなってきた。。。



>こういうことをコメントするから、まだまだ私って

>だめなんだって 思います



全然だめじゃないですよー!

こうやって話が膨らんでいくのは大好きです^^

どうか気兼ねなくコメントくださいまし~



返信する
そうそう! (Ray)
2005-10-17 21:45:28
夕方のころ 小降りだった雨が 夜になったら激しくなってきました。。(少し寒いよ?)



いつも ご丁寧なお返事を ありがとうございます~



そうそう!そうなんです! それ、言いたかったんですっ! 



>「絶対的な正しさ」というものはこの世にないのではないか



↑ 同感です~☆





そして 清く生きることが? 愛につながり? そして燈子さんがおっしゃるように



>「愛」に基づいて生きることが「正しく生きる」ことに繋がる……



このときの「正しく」は 正しさに含まれる愛ではなくって

愛に含まれる正しさっていう《感じ》です

、、って まぁたわかんないことをすみません、、





>決して「私が正義よ!」と言っているわけではないです(笑)

私の言葉が稚拙なばかりに まぎらわしい印象を与えるような文章になってしまって すみませんでした

(燈子さんの文章から 「私が正義よ!」という印象は持ちませんでした♪

 だって 燈子さんのお人柄がそんなんじゃないから♪)



いずれにしても 大事なことは 思いやりと謙虚かなーって

  ↑ 

嗚呼 わが身にできていないこと!





>どうか気兼ねなくコメントくださいまし~



ありがとうございます~☆





追伸~☆



《ペンギンの憂鬱》 って 題名見ただけで 読みたくなります



返信する
わかったことが あるんです! (Ray)
2005-11-08 19:13:13
燈子さんとの会話で 自分の言葉が足りないことや

文章の力がないことを情けなくおもうんですけれどー



わかったことがあるんです!



燈子さんのおっしゃる

>「その時その時で、自分が正しいと思うことをするしかない」



それに同感しながらも 私、違う部分をうまく書けなかったんです



私の過去は 

辛すぎて苦しすぎて生きてゆこうとする希望が奪われて

(今になってみれば 耐えるって

 今に比べるとラクだとおもうのですけれど)



そんな暗いなかで自分で自分を立て直すためにやっていたことを

今、、こうして 

生活の環境、だけ、は 少しばかり平安になった今もやっているから、、

おかしくなるんだっていうことが



ー燈子さんの私へのお返事を拝見していて わかったんです!



そっかー もう普通に近い生活になっているんだから

そんな方向へ気持ちや思考をまわすこと、ないんだ



そうやって 「今」っていうことを中心?で考えることも大切で 

そうやることで 素直にもきっとなれるんだって

素直に感じることにつながってゆくんだ、、って



ーわかってきたんです!



 ☆~ありがとうございます~☆





それにしても



>正しさの基準?が 時代や国や人種や宗教によって違うと想う



なんて 長々と書かずに 燈子さんみたいに



>「絶対的な正しさ」というものはこの世にないのではないかと思います。



、、って書けば ピタリ!なのに!!



どうも私の言葉の選びかたは ムダがありすぎるみたいです



それも誤解の原因だなぁ、、と。。





そっかー



闇のなかでは できないことも

少しばかり明るいなかだと できることもあるし

明るいなかに移ることができたら

闇のなかでしていた思考のクセ?を見直して

改めてみることも いいんですねー



どうも。。

闇のなかで得たことは真理では?という自惚れがあって

なかなか考え方を改められない。。



それに 自分を立て直すためにやっていたことだから

本来の目的でやっていたことではないから

なおさら、、だなぁと。。



《正しさ》について  ↓お書きしてしまったことも



(正しさ。。だと 我が強くなっちゃうな、って

 正しさ。。って 悪を裁く立場かな?とか



 裁くことなんて ほんとうはどうかな?正しさかな?とか)



感情がプラスされてくる傲慢さについて書きたかったのでした

えっと。。燈子さんのおっしゃる

>戦争の大義名分もそれであるから、ややこしい。

っていうお話を受けて それに少し自分の考えをくわえて書かせていただいたつもり、、だったのでした



あー ほんとうに最近おもうのは

苦労して得た事だけが 大切だったり 真理だったりするんじゃなくって

ラクをして得たことのなかにも ちゃあんと真理はある、大切なことはある

、、っていうことなんだなぁ。。って 想います



、、ながながとすみませんでした。。



気がついたことが 嬉しかったので

ちょっと。。燈子さんに聞いていただきたかったのでした



ありがとうございます



(このコメントのお返事は どうかご心配なさいませんように。。



長く書いていたので また何か間違えて

途中で投稿されない?と ひやひやしながら打ってました



ありがとうございました



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