JR西日本の福知山(JR宝塚線)の線列車脱線事故では、制限速度時速70キロを大幅に超えた無謀な運転が直接の事故原因であることはほぼ間違いないとされている。だが、運転手はなぜそのような猛スピードを出していたのか。
事故直前、伊丹駅でオーバーランしたため、停車位置の修正などでダイヤ上からは1分30秒もの遅れが生じ、これを取り戻すためスピードを出したのではないかと推測されている。
しかしながら、伊丹-尼崎間には加速できる区間が実質10キロほどとれる。そうするとその区間を通常速度より毎時15キロほど上まわる速度で走行すれば、1分30秒の遅れは十分回復できることになる。
それでは、わずか1分半の遅れを取り戻すために、運転手はなぜ通常速度を毎時30キロも上まわる猛スピードの運転をしていたのだろうか。
見方を変えて考えるならば、通常速度より毎時15キロほど上まわる速度で走行しても、遅れは1分半しか取り戻せないのだ。運転手は遅れが更に拡大していくことを考慮し、ここで1~2分の余裕を積み増してこうとしたのかもしれない。謎はますます深まっていく。
一方、JR西日本のダイヤ編成には行き過ぎがあったのではなかろうか。特に、事故車輌が尼崎駅で乗継をすることになっていたJR神戸線、JR京都線、JR琵琶湖線を通して走る快速列車は、姫路と長浜を結ぶ我国有数の中距離列車といえよう。このような中距離列車と、芦屋駅や尼崎駅などで分単位、秒単位の精密さで繋がるダイヤを編成しても、なかなか編成した通りにはうまくいかないだろう。
乗継がうまくいかなければ乗客は苦情をいうだろう。その苦情を受けての改善策を安易に運転手のダイヤ遵守だけに押し付けていたのだとしたら、JR西日本は安全をないがしろにしていたということになる。1997年に新しく開通したJR東西線との接続の問題も絡んでいるかもしれない。
産経新聞 (夕刊掲載)
JR西 乗り継ぎ時間厳守「指示」
尼崎駅、2分50秒 余裕なし
2005年5月14日
兵庫県尼崎市のJR脱線事故で、JR西日本は尼崎駅で東海道線新快速電車の乗り継ぎ時間を厳守するよう福知山線の運転士に指示していたことが十四日、関係者の話で分かった。同駅で福知山線の上り電車から新快速に乗り継ぐには、階段などを使ってホームを移動する必要があるため一分以上かかり、少しの遅れで乗客の乗り継ぎ時間がなくなる。この結果、ダイヤ全体が大幅に乱れることを防ぐ「指示」だ。事故電車の高見隆二郎運転士(23)=死亡=は、「指示」を守ろうと超過スピードで電車を運行した可能性もあり、「指示」が事故を誘引した疑いもあるという。
関係者の話によると、同社は利用客の利便性を確保する目的で、福知山線の運転士に対し、「乗り継ぎに支障がないように」と指導。尼崎駅では平成九年三月の東西線(尼崎-京橋間)の開通を機に、新快速が停車するようになり、乗り継ぎ駅として多くの客が利用するようになったため、新快速との接続については乗り継ぎ時間を順守するよう厳しく指示しているという。
同駅では、福知山線の上り電車は通常五、六番ホームに入るが、上り新快速は北側にある八番ホームに発着する。乗り継ぐには、階段やエスカレーターなどを使ってホーム間を移動しなければならず、通常一分程度はかかる。
事故電車の快速電車のダイヤは、尼崎駅に午前九時二十分十秒に到着予定。乗り継ぎの姫路発長浜行き新快速は九時二十三分発で、設定された乗り継ぎ時間は二分五十秒。電車が一分以上遅れると新快速に乗り遅れる客が出る可能性もある。乗り遅れると、次の新快速まで十分以上待たなければならず、利用客への影響は大きい。
事故当日、電車は、直前の伊丹駅をオーバーランのため一分半遅れて出発。尼崎駅までの運転時間を短縮しなければ、新快速にスムーズに接続できない状況にあり、運転士に相当の心理的圧迫があったとみられる。こうしたことから同社は、福知山線のダイヤに余裕をもたせるよう再編成し、今月末に国交省に提出する「安全性向上計画」に盛り込む。同社の丸尾和明常務は「現実的な遅れをベースにダイヤの見直しをしたい」としている。
事故直前、伊丹駅でオーバーランしたため、停車位置の修正などでダイヤ上からは1分30秒もの遅れが生じ、これを取り戻すためスピードを出したのではないかと推測されている。
しかしながら、伊丹-尼崎間には加速できる区間が実質10キロほどとれる。そうするとその区間を通常速度より毎時15キロほど上まわる速度で走行すれば、1分30秒の遅れは十分回復できることになる。
それでは、わずか1分半の遅れを取り戻すために、運転手はなぜ通常速度を毎時30キロも上まわる猛スピードの運転をしていたのだろうか。
見方を変えて考えるならば、通常速度より毎時15キロほど上まわる速度で走行しても、遅れは1分半しか取り戻せないのだ。運転手は遅れが更に拡大していくことを考慮し、ここで1~2分の余裕を積み増してこうとしたのかもしれない。謎はますます深まっていく。
一方、JR西日本のダイヤ編成には行き過ぎがあったのではなかろうか。特に、事故車輌が尼崎駅で乗継をすることになっていたJR神戸線、JR京都線、JR琵琶湖線を通して走る快速列車は、姫路と長浜を結ぶ我国有数の中距離列車といえよう。このような中距離列車と、芦屋駅や尼崎駅などで分単位、秒単位の精密さで繋がるダイヤを編成しても、なかなか編成した通りにはうまくいかないだろう。
乗継がうまくいかなければ乗客は苦情をいうだろう。その苦情を受けての改善策を安易に運転手のダイヤ遵守だけに押し付けていたのだとしたら、JR西日本は安全をないがしろにしていたということになる。1997年に新しく開通したJR東西線との接続の問題も絡んでいるかもしれない。
産経新聞 (夕刊掲載)
JR西 乗り継ぎ時間厳守「指示」
尼崎駅、2分50秒 余裕なし
2005年5月14日
兵庫県尼崎市のJR脱線事故で、JR西日本は尼崎駅で東海道線新快速電車の乗り継ぎ時間を厳守するよう福知山線の運転士に指示していたことが十四日、関係者の話で分かった。同駅で福知山線の上り電車から新快速に乗り継ぐには、階段などを使ってホームを移動する必要があるため一分以上かかり、少しの遅れで乗客の乗り継ぎ時間がなくなる。この結果、ダイヤ全体が大幅に乱れることを防ぐ「指示」だ。事故電車の高見隆二郎運転士(23)=死亡=は、「指示」を守ろうと超過スピードで電車を運行した可能性もあり、「指示」が事故を誘引した疑いもあるという。
関係者の話によると、同社は利用客の利便性を確保する目的で、福知山線の運転士に対し、「乗り継ぎに支障がないように」と指導。尼崎駅では平成九年三月の東西線(尼崎-京橋間)の開通を機に、新快速が停車するようになり、乗り継ぎ駅として多くの客が利用するようになったため、新快速との接続については乗り継ぎ時間を順守するよう厳しく指示しているという。
同駅では、福知山線の上り電車は通常五、六番ホームに入るが、上り新快速は北側にある八番ホームに発着する。乗り継ぐには、階段やエスカレーターなどを使ってホーム間を移動しなければならず、通常一分程度はかかる。
事故電車の快速電車のダイヤは、尼崎駅に午前九時二十分十秒に到着予定。乗り継ぎの姫路発長浜行き新快速は九時二十三分発で、設定された乗り継ぎ時間は二分五十秒。電車が一分以上遅れると新快速に乗り遅れる客が出る可能性もある。乗り遅れると、次の新快速まで十分以上待たなければならず、利用客への影響は大きい。
事故当日、電車は、直前の伊丹駅をオーバーランのため一分半遅れて出発。尼崎駅までの運転時間を短縮しなければ、新快速にスムーズに接続できない状況にあり、運転士に相当の心理的圧迫があったとみられる。こうしたことから同社は、福知山線のダイヤに余裕をもたせるよう再編成し、今月末に国交省に提出する「安全性向上計画」に盛り込む。同社の丸尾和明常務は「現実的な遅れをベースにダイヤの見直しをしたい」としている。