太鼓台文化・研究ノート ~太鼓台文化圏に生きる~

<探求テーマ>①伝統文化・太鼓台の謎を解明すること。②人口減少&超高齢者社会下での太鼓台文化の活用について考えること。

「これからの地域社会と太鼓台文化」について~香川県観音寺市を一例として~

2019年04月20日 | 随想

観音寺市は瀬戸内海中央部、四国・愛媛県東部(東予地方)に隣り合わせ、燧灘に面しています。現在の人口は6万人弱、人口は減り続け、高齢化率(65歳以上の人口割合)も毎年上昇を続けています。大合併前は、豊浜町・大野原町・観音寺市の3つの市・町が行政単位でした。この旧・3地区の文化的共通点として特筆されるのは、お祭りの奉納物“ちょうさ”(太鼓台)が、各地区毎に大人用110台余りが大切に継承されていて、全国的に眺めても(太鼓台は西日本にのみ分布する伝統文化であるが‥)、最も太鼓台の密集した地域であることです。

全国津々浦々、ご他聞に漏れず〝地域活性化〟と〝伝統文化の後世への継承〟は喫緊の課題となっています。ここ観音寺市でも、市民の間からようやく将来の在り様を危惧する声が上がり始めました。太鼓台などの伝統文化を保有する地域は、観音寺に限らず、将来の地域と文化の在り様に、大いに悩んでいるのが現状だと思います。本論では、このような地方都市・観音寺を例にして、「地域社会と太鼓台文化」について述べてみたいと思います。ここでは観音寺市を例示していますが、皆さんが住む◇◇◇と読み替えて、一緒に考えていただきたいと思います。

これからの時代は、人口減少や超・少子高齢化がますます進み、間違いなく若い世代の少ない〝高齢者社会〟となります。地域の中では、コミュニティの維持や伝統文化の継承など、従来からの密接な生活基盤の活性化や発展が、大変に難しくなってきます。特にこれと言った特徴のない地方の小さな町では、都会よりも人口減少・高齢化は早まっており、既に65歳以上の高齢者が多い〝高齢者社会〟となりつつあり、私たちの周囲の自治会でも、高齢化率が40%以上を超えているところが目立つようになってきました。地域の活力や伝統文化・太鼓台の伝承等に対し、既に赤信号が灯りつつあると言っても過言ではありません。地域も伝統文化も、後継者が少なくなり高齢者ばかりになってしまえば、盛大な太鼓台祭りを今に誇る〝太鼓台・先進地〟も、自分たちの伝統文化や地域社会を維持していくことさえ困難になってくるのも、当然のことです。

「地域社会の活性化と、太鼓台文化の伝統継承」については、その双方が成り立っていくように、私たち自身が早急に取組まなければならない大変大きなテーマです。私たちの地方には〝太鼓台しか、ない〟と決して悲観せず、パワー溢れ、地域活性化に益する〝太鼓台が、ある!〟と楽観して、かなり思い切った<飛躍的?な思考>をしていかなければならないと思います。古くからこの地方では、幾多の人々が、厳しい日々の生活や政治・宗教に優先して、地域の〝宝物・象徴・よすが〟として、日常の中に太鼓台を棲(す)まわせてきました。人々の原風景の中には、等しく伝統文化・太鼓台が存在しています。この地方はこれまでのように、太鼓台が豪華になることばかりを優先して考えるよりも、自分たちの足下を照らし、太鼓台文化そのものを深く掘り下げ、伝統文化を見直すことによって、太鼓台文化を、一致団結できる地域活性化の〝起死回生の妙案〟にしていくことを考えるべきではないでしょうか。この地域で生きている太鼓台を、年に数日、お祭りの時期だけに活用するだけでは、余りにももったいない話だと思います。太鼓台文化圏では2300万の人々が生活しています。私たちもその中の一員です。〝先人からの賜り物・太鼓台〟があることに、安心と感謝の気持ちを持って、文化圏の人々と手を携えて、この文化を更に掘り下げていかねばならないと考えています。

(以下は、2019.4.24(水)に香川県観音寺市室本町の「つくも塾」で開かれた講演会のレジメと補足の資料等です)

                                                      

「これからの地域社会と太鼓台文化」について

1.そら寒い近未来の地方社会
(1)超少子化・超高齢化・人口減少・勤労者不足・後世へのツケ・地域間格差・限界集落等々‥厳しい現実  
①「超少子・高齢社会」が容赦なく地域を覆う。人口減少は今後も続き、殆んど改善する見込みはない。
②高齢化率(65歳以上)は次第に高くなり、既に4割近くに達している。(地方の自治会では超えているところが多い)
③深刻な「老齢者社会」が始まる。(特に地方では、人口減少による影響が都会より相当早く出てくる)
医療や社会保障費の増・災害や安全への備え・老老介護・独居老人等、課題が山積している。今後のコミュニティの存続や伝統文化継承の危機にも直面している。更に、私たち現役世代が地域を支えきれなくなってくる等が、大きな社会問題となってくるものと思われる。
(2)厳しい近未来、予測される危機打開への「起死回生の妙案」は、果たしてあるのだろうか?
①私たちは、地域社会の総力を結集して「妙案」を探し出し、「目標」を定め、地道に確実に、「前進」していくしかない。
[選定の要素]
(a)地域の誰にも身近な存在であり、且つ地域のよすが・宝物・象徴として大切にしているもの。
(b)豊浜と大野原と観音寺の市内3地域の老若男女全てが、心を通わせ、一つになれるもの。
(c)政治や信仰の問題を超越し、人々の心の奥深くへ自然に入り込めるもの。
 ※以上を全て満たすものが、互いに意見もまとめ易く、協力し易く、実行もし易い。
②[妙案は、太鼓台]‥親しまれている太鼓台を活用することで、困難を打開し、地域も活性化できる-身近な太鼓台文化を、多方面で究める。太鼓台やコミュニティは、これからも地域社会の中で無くしてはならない、この地方では必要不可欠の存在。
 
2.地域の現状を私たちの世代は、どのように認識し、計画を立て、打開いくべきなのか。「太鼓台文化の活用」と「前進」について考える。
①地域社会と太鼓台とは車の両輪。上手く噛み合わないと、どちらも衰退・消滅の憂き目にあう。高齢者社会=老齢者社会に突入しようとしている今、大きな曲がり角にある。
②双方活性化を思考する心構えとしては、これまで以上に、かなり思い切った「飛躍的思考」が必要になってくる。
・「太鼓台のふるさと・先進地」を積極的に受け入れ、「太鼓台文化・日本一」(決して「太鼓台が日本一」ではない)を目指し、努力する。
・「太鼓台文化・貢献都市=観音寺」を掲げ、常に観音寺が太鼓台文化に貢献している姿勢を鮮明にし、且つ発信し続ける。
・強いリーダシップを得るためには、文化圏各地との距離を縮めていくことが必須となる。(相互理解や相互信頼の推進)
・太鼓台文化圏は思いのほかバラバラな文化圏であり、抱えている弱点も多く、先頭に立つ旗頭となる自治体(トップランナー)が出てこない。
③何を実施し、文化圏各地へ貢献していくのか。どのようにして各地から好感を得、観音寺のリピーターとなっていただくのか。
・「学びの大切さ」を発信していくことが重要。各地間の偏見や我田引水は、文化の理解不足や無関心・欠如から生じている。そこを解消し、各地が互いに尊重されなければ、太鼓台文化圏としての団結や発展は期待できない。
・「太鼓台文化専門図書館(室)」開設や「ウェブ発信」の開始等は、かなり簡単に始められると考えている。
・学びを支援する仕組みづくり(太鼓台文化の出前講座)や信頼される情報提供は、他地方のためだけでなく、観音寺の人々にも絶対に欠かせない。
・この文化圏に人知れず遺されている貴重な太鼓台文化遺産を「常設展示」して、「歴史・伝統を愛でる贅沢」を、観音寺から各地へ向けて発信・提供できないか。これは、各地に眠る歴史遺産に陽の目を当て、文化に誇りを持つための一助になる。
④文化圏各地が「究極の観音寺応援団」になっていただくことと、それに見合う「観音寺からの貢献」は、表裏一体の関係にある。
 
3.太鼓台文化圏と共に生き、私たちの地域と文化圏各地が「共に輝く時代」へ- (まとめ)
特徴の乏しい地方都市・観音寺で、この地域が大同団結して力を発揮できるもの。
それには、全ての市民が「太鼓台のふるさと・先進地」と自負する伝統文化・太鼓台に向き合うしかないのではなかろうか。
地域皆がこぞって心を寄せ合えるものがある幸せに、私たちは感謝したい。
厳しさ増す近未来に、この地域には「太鼓台しかない」のだと思う。
いや、「太鼓台がある」と訴えたい。
2,300万人規模の同一文化圏の人々との間に、好感・信頼・貢献の精神的交流を活発にしたい。
信頼感あふれる「協調と共生」の関係を連帯して構築していきたい。
そのためには、他地方の太鼓台や地域事情に精通し、共通する太鼓台文化を真剣に学ぶ必要がある。
先頭に立つ文化圏の旗頭(トップランナー)としての強い気概を持ち、広大な地域と繋がっていかなくてはならない。
「地域が活性化する」というのは自分たちだけでなく、関係する全ての地方にも活性化が連動していって、初めて言えるのではなかろうか。
各地と観音寺「双方、共に輝いて」こそ、広大な文化圏の存在意義や太鼓台文化の真の解明につながってくるものと思う。
私たちは、絢爛豪華な現状を謳歌するだけに太鼓台を使ってはならない。自分達の太鼓台を、行き過ぎて自慢してはならない。
待ち受ける近未来の困難にこそ、観音寺も文化圏の各地も、運命共同体として共に考え、互いの太鼓台を活かせる活性化策を講じるべきだと思う。

[補足資料]

人口ピラミッドの推移。戦後のベビーブームで生まれた70歳世代が、頭でっかちとなり、ますます増加していく状況がよく理解できる。

日本の総人口の長期的推移。この種の統計は各機関のもので多少の違いはあるが、このグラフはとても分かり易いと思う。

何回も出てくる「太鼓台文化圏」の略地図。本稿で出てくる「観音寺市」は、香川県の西端で燧灘に面している。太鼓台密度(1台の太鼓台に対する人口割合)は極めて高く、530人を割っている。(2019.4.1の人口60,292人、大人太鼓台約114台。因みに香川県全体では、人口約96万人・太鼓台約370台で、約2,600人/台となっている)

下の略地図は、2016年にユネスコ無形民俗文化遺産に登録された、太鼓台と同様な祭礼文化の「山・鉾・屋台行事」の分布地(新聞発表から私製したもの)です。上の太鼓台文化圏の略地図と見比べていただきたい。そう、そっくり太鼓台部分が抜けていると思いませんか? 決して、伝統文化のユネスコ登録が羨ましいとか、登録を望んでいるとかを言うつもりはありません。私は、太鼓台文化が「欠け落ちている理由」や、ものの見事に「無視されている?根拠」を、突き詰めたいのです。太鼓台文化は、他の祭礼奉納文化と比較して、何が不足し、なぜ説得力に欠けているのか。そこの部分が、とても重要なこの文化のキモなのだと考えています。言わば、2,300万人に支えられている伝統文化な訳です、太鼓台文化は。でも、正確な納得のいく歴史は、全く明らかではありません。もういい加減で、この不条理な伝統文化の扱いから脱却すべきではないでしょうか。そのためには、何が必要なのか-。この文化に関わる一人ひとりが、真剣に考えなければならないテーマだと思います。

こちらもよく出てくる「太鼓台の発展想定図」。現時点での私たちの地方の太鼓台は、最も発達しきったカタチである。但し、その恩恵に見合う文化的貢献は全く不十分で、「これから」であると言わざるを得ない。

※本件記事と関連する発信として、講演に用いたプロジェクター画像がありますので、ぜひご覧ください。

(終)

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