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ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ヴィクター・フェルドマン・オン・ヴァイブス

2024-09-12 18:16:59 | ジャズ(ウェストコースト)

本日は西海岸の幻のレーベル、モード・レコードからの1枚です。ジャケットは先日の「レナード・フェザー・プレゼンツ・バップ」と同じく、ビル・ボックスの描いた眼鏡のおじさんシリーズですね。右手に酒瓶を、左手に指揮棒(?)のようなものを持ったデザインで、右下に"Champagne music for cats who don't drink"と小さく記載されています。何でもcatsは猫以外に”ジャズ狂”と言う意味のスラングがあるらしく、あえて直訳すれば"下戸のジャズ狂のためのシャンペン音楽"てな感じでしょうか?それでもよく意味がわかりませんが・・・

リーダーとなるのはヴィクター・フェルドマンです。後にキャノンボール・アダレイのバンドに抜擢され、そこでは主にピアノを弾いていますが、デビュー当初からヴァイブ奏者としても活躍しています。スタイルは異なりますがエディ・コスタと同じような感じですね。出身は英国ロンドンですが、1955年に渡米し、当初は西海岸に身を落ちつけました。彼のその後の経歴を見るとウェストコーストジャズとはあまり親和性がなさそうなのですが、白人ジャズマンの多いLAの方が移住には適していると判断したのでしょうか?

本作は1957年9月にモードに吹き込まれた彼のアメリカでのデビュー作です。翌1958年にコンテンポラリー盤「ジ・アライヴァル・オヴ・ヴィクター・フェルドマン」を発表しており、タイトルだけ見るとそちらの方がデビュー作っぽいですが、時系列的にはこちらの方が先ですね。本作でのフェルドマンは「オン・ヴァイブス」とあるようにヴァイブに専念しており、ピアノには西海岸を代表する黒人ピアニストのカール・パーキンスを起用しています。ベースはリロイ・ヴィネガー、ドラムはスタン・リーヴィです。さらに7曲中後半の3曲(レコードのB面)は管楽器が2本加わり、フランク・ロソリーノ(トロンボーン)とハロルド・ランド(テナー)が加わったクインテットです。

まず、前半4曲から。オープニングの"Fidelius"はフェルドマンの自作曲。フェルドマンは後にキャノンボール・アダレイに重用されたことからわかるように英国人ながら黒っぽいフィーリングの持ち主ですが、ここでもミルト・ジャクソンを彷彿とさせるファンキーなマレット捌きを見せています。ただ、続く"Squeeze Me"と"Sweet And Lovely"はどちらもスタンダード曲でいたって普通の演奏です。ウェストコーストらしい清涼感あふれる演奏と言えばそうですが、少し物足りないかな。4曲目"Bass Reflex"もフェルドマンのオリジナルですが、MJQ的典雅さを意識した(?)ちょっと不思議な旋律の曲です。

後半3曲はロソリーノとランドが加わることにより、雰囲気が変わります。5曲目"Chart Of My Heart"はボブ・ニューマンと言うよく知らないサックス奏者の曲、6曲目”Wilbert's Tune"はフェルドマンの自作曲でどちらもほのぼのした感じです。この2曲はまずまずと言ったところです。おススメはラストトラックの”Evening In Paris"。クインシー・ジョーンズにも同名の曲がありますが、全く別の曲でこちらはフェルドマンの書き下ろしです。ホレス・シルヴァーの"Nica's Dream"を彷彿とさせる熱血ハードバップで、西海岸No.1トロンボーン奏者ロソリーノの高らかに鳴るトロンボーン、ブラウン&ローチ・クインテットでも鳴らしたランドのテナーとフェルドマンのソウルフルなヴァイブが融合した名曲・名演です。全体の出来は正直可もなく不可もなくなのですが、オープニングの"Fidelius"とラストの”Evening In Paris"のおかげで鑑賞に値する1枚となっています。

 

 

 

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チャーリー・マリアーノ

2024-09-11 18:17:24 | ジャズ(ウェストコースト)

本日はチャーリー・マリアーノです。彼については以前「トシコ=マリアーノ・カルテット」で取り上げましたが、1959年に日本人ピアニストの秋吉敏子と結婚したことで日本のジャズファンにはよく知られています。60年代は一時期日本に住んでいたこともあるとか(余談ですが歌手のMonday満ちるは彼と秋吉の間に生まれた娘です)。もともとは東海岸ボストンの出身ですが、1950年代半ばは全盛期のウェストコーストジャズに身を投じ、スタン・ケントン楽団やシェリー・マンのバンドでプレイしました。

本作は1956年にベツレヘム・レコードに残された彼のウェストコースト時代の代表作です。ただし、録音自体はケントン楽団の東海岸ツアー中にニューヨークで録音されたもので、メンバーはケントン楽団の同僚であるマックス・ベネット(ベース)とメル・ルイス(ドラム)、東海岸で活躍していたジョン・ウィリアムズ(ピアノ)と東西混成のメンツです。

全8曲、うち6曲が歌モノスタンダードです。ほとんどが定番曲ばかりで一歩間違えればベタなマンネリの演奏になりがちなところですが、カルテットの質の高い演奏のおかげで実に聴き応えのある作品となっています。冒頭からアップテンポに料理されたロジャース&ハートの”Johnny One Note"、ミディアムテンポでゆったり聴かせる”The Very Thought Of You"、マイナーキーの佳曲”King For A Day"と軽快な演奏が続きます。バラード演奏も素晴らしく、後にプラターズによって全米No.1ヒットとなった”Smoke Gets In Your Eyes(煙が目にしみる)"、ジミー・ヴァン・ヒューゼンの名曲”Darn That Dream"をマリアーノが情感たっぷりに歌い上げます。2曲あるマリアーノのオリジナルは前者の”Floormat"がいかにもウェストコーストっぽい快適なミディアムチューン、後者の”Blues"がおそらく即興のブルース演奏です。ラストは再びスタンダードの”I Heard You Cried Last Night"をドライヴ感たっぷりに演奏して終わります。

マリアーノは当時ウェストコーストでプレイしていましたが、スタイル的にはチャーリー・パーカーの影響を強く受けたストレートなバップで、輝きに満ちたフレーズを淀みなく繰り出す様は素晴らしいの一言。個人的にはフィル・ウッズ、ハーブ・ゲラーと並んで”3大白人パーカー派アルト”と勝手に並び称しています。ピアノのジョン・ウィリアムズは”山田太郎”的な名前の特徴のなさがどうも過小評価に結びついていますが、スタン・ゲッツやフィル・ウッズ、ズート・シムズとも共演歴のある名手で、本作でも素晴らしいピアノソロを聴かせてくれます。マックス・ベネット、メル・ルイスも堅実なサポートぶりで、ワンホーン・カルテットの名盤として大いに推奨したい1枚です。

 

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マーティ・ペイチ・カルテット・フィーチャリング・アート・ペッパー

2024-09-02 18:56:52 | ジャズ(ウェストコースト)

ウェストコーストジャズを支えたレーベルと言えばまずパシフィック・ジャズとコンテンポラリーの2つが思い浮かびますが、それ以外にも小さなレーベルがいくつかあります。タンパ・レコードもその一つでロバート・シャーマンと言う人が1955年に設立したものの、たった3年で消滅した泡沫レーベルです。本ブログでは以前に「ア・スウィンギン・ギグ」と言う作品を紹介しましたが、一番有名なのはジャズファンから”タンパのペッパー”と呼ばれるアート・ペッパーの2枚の録音でしょう。それ以外ではピアニストのジェラルド・ウィギンスのトリオ作品や、ヴァルヴトロンボーンのボブ・エネヴォルセンのリーダー作もCD化されており、物好きな私はどちらも買ったのですが内容は特筆すべきものではありませんでした。

さて、”タンパのペッパー”は2種類あり、一つはそのものズバリ「アート・ペッパー・カルテット」でペッパーがラス・フリーマンのトリオをバックに演奏したもの。もう1つが今日ご紹介するアルバムでマーティ・ペイチのリーダー作にペッパーが客演したもので、昔からジャズファンや評論家の中ではこちらの方が評価が高いようです。厳密に言うとペッパーのリーダー作ではないのですが、ジャケットにもペッパーがかなり目立つ形で登場していますので当初から半ばペッパーの作品として売り出していたのでしょうね。ペイチはどちらかと言うとアレンジャーとしての評価が高く、メル・トーメの「シューバート・アレイ」を始めとした一連の名作群や、エラ・フィッツジェラルドの「エラ・スウィングス・ライトリー」等で素晴らしいビッグバンドアレンジを施していますが、ピアニストとしてもリーダー作、サイドマンを問わず多くの作品を残しています。本作ではバディ・クラーク(ベース)とフランク・キャップ(ドラム)を加えたトリオにペッパーを加えた編成です。録音年月は1956年9月です。

全9曲、スタンダードが4曲、オリジナルが5曲と言う構成です。演奏時間は全て2~3分台なので、全部で26分弱しかなく、じっくり腰を据えて鑑賞するという感じではないですね。ただ、短い演奏ながらもペッパーの輝きに満ちたソロを全編で聴くことができます。スタンダードですが"You And The Night And The Music"や"Over The Rainbow"と言った定番曲もありますが、個人的には"All The Things You Are"が出色の出来と思います。ペッパーのソロは原曲のメロディから大きく逸脱することなく、曲の輪郭を残しながらも、彼にしか表現できない美しいフレーズを散りばめることにより、おなじみのスタンダード曲から新たな魅力を引き出しています。

オリジナル曲だとまずはペイチとギタリストのビル・ピットマンの共作である”Sidewinder"が秀逸です。有名なリー・モーガンの曲とはもちろん別曲でウェストコーストらしい爽やかなメロディで、ペッパー→ペイチと鮮やかにソロをリレーします。続く"Abstract Art"もペイチ作の軽快なミディアムチューンです。他ではレーベルのオーナーのロバート・シャーマン自身が書いたメランコリックなバラード"Melancholy Madeline"やペイチ作のアップテンポのブルース曲"Marty's Blues"も一聴に値します。

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プレゼンティング・レッド・ミッチェル

2024-08-30 18:14:00 | ジャズ(ウェストコースト)

本日は西海岸で活躍したベーシスト、レッド・ミッチェルをご紹介します。ハンプトン・ホーズ、バーニー・ケッセル、ビル・パーキンスらの諸作品にサイドマンとして参加し、ウェストコーストジャズの屋台骨を支えると同時に自身でもリーダー作をいくつか残しています。本ブログでも先月にハロルド・ランドとの共同リーダー作「ヒア・イェ!」を取り上げました。今日ご紹介する「プレゼンティング・レッド・ミッチェル」はその4年前の1957年3月にコンテンポラリー・レコードに吹き込んだ作品です。

この作品、サイドマンに注目です。まずはジェイムズ・クレイ。テキサス出身の黒人テナーで、曲によってはフルートも吹きます。コアなジャズファンにはローレンス・マラブルの名盤「テナーマン」のジャケットにリーダーのマラブルを差し置いてデカデカと写っている人物として知られています。60年代に入るとリヴァーサイドにも2作リーダー作を残していますね。ピアノが女性ピアニストのロレイン・ゲラー。アルトのハーブ・ゲラーの奥さんです。今では珍しくないですが、当時はまだまだ女性の器楽プレイヤーが少なく、パット・モーランやパティ・ボウン、秋吉敏子らと並んで貴重な存在でしたが、翌1958年に30歳の若さで病死してしまいました。夫のハーブとはエマーシー盤「ザ・ゲラーズ」等で共演していますが、それ以外のジャズマンとの共演は少なく、貴重な録音です。ドラムのビリー・ヒギンズは60年代になるとリー・モーガン、ドナルド・バード、デクスター・ゴードンはじめブルーノートの大量の作品群に参加し、同レーベルのハウス・ドラマー的存在となりますが、生まれはロサンゼルスで50年代までは西海岸でプレイしていました。本作参加時は弱冠20歳でおそらく初のレコーディングではないかと思われます。

全7曲。うち2曲がミッチェルのオリジナル、1曲がスタンダードですが、残りの4曲は黒人バッパー達の名曲を取り上げており、ミッチェルが強いハードバップ志向を持っていたことが如実にわかります。チャーリー・パーカーの"Scrapple From The Apple"、マイルス・デイヴィスの”Out Of The Blue"、ソニー・ロリンズの"Paul's Pal"、クリフォード・ブラウンの”Sandu"がそれで、いずれのナンバーもジェイムズ・クレイのテキサステナーの流れを組むソウルフルなプレイ("Paul's Pal"だけはフルートですが)を大きくフィーチャーしています。ロレイン・ゲラーのスインギーなピアノソロ、ミッチェル自身のベースソロも良い味を出しています。

一方、ミッチェルの自作曲の"Rainy Night"と"I Thought Of You"はどちらもクレイがフルートを吹いており、ウェストコーストらしい小洒落た演奏ですが、少しパンチ不足な面も。本作中唯一の歌モノスタンダードである"Cheek To Cheek"も可もなく不可もなくと言ったところでしょうか。聴きどころは上述のバップナンバー、特に"Scrapple From The Apple"と”Sandu"ですね。

 

 

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スタン・リーヴィ/ジス・タイム・ザ・ドラムズ・オン・ミー

2024-07-22 18:52:01 | ジャズ(ウェストコースト)

本日はウェストコースト3大ドラマーの1人、スタン・リーヴィを取り上げたいと思います。スタンについては先月にも「グランド・スタン」をご紹介しましたが、本日UPする「ジス・タイム・ザ・ドラムズ・オン・ミー」は同じベツレヘム・レコードに1955年9月に吹き込まれた作品です。この作品、CDでは「今こそドラムを叩く時」と言う邦題がついていますが、ちょっと直訳過ぎますよね。勘の良い方ならおわかりと思いますが、ハロルド・アーレンの有名スタンダード"This Time The Dream's On Me"にひっかけているのは明らかです。

この作品、メンバーに注目です。トランペットのコンテ・カンドリ、トロンボーンのフランク・ロソリーノの2人はスタン・ケントン楽団時代からの盟友で、「グランド・スタン」にも参加しているので順当なチョイスですが、テナーがデクスター・ゴードンというのが面白い。ジャズファンならご存じとは思いますが、50年代のゴードンは重度の麻薬中毒のため、ほとんどを塀の中で過ごします。1955年に一時的に出所し、ベツレヘム盤「ダディ・プレイズ・ザ・ホーン」、ドゥートーン盤「デクスター・ブロウズ・ホット・アンド・クール」、そして本作の3枚を録音するのですが、結局クスリを断ち切れず今度は1960年まで活動を停止します。本作にゴードンが参加した経緯はよくわかりませんが、久々にシャバに出てきた名テナーにスタンが声をかけたのでしょうか?なお、リズムセクションにはルー・レヴィ(ピアノ)、リロイ・ヴィネガー(ベース)が名を連ねています。

アルバムはジョージ・ハンディ作のバップ曲"Diggin' For Diz"で幕を開けます。チャーリー・パーカーの伝説のダイヤル・セッションの収録曲ですが、実はこのセッションでドラムを叩いていたのはスタンなんですよね。約10年ぶりの再演というわけです。演奏の方はコンテ・カンドリ→ゴードン→フランク・ロソリーノが各々実力十分のソロを披露します。続く”Ruby My Dear"はセロニアス・モンク作の名バラードで、コンテ・カンドリのトランペットが全面的にフィーチャーされます。3曲目”Tune Up"はご存じマイルス・デイヴィスの名曲。前半3曲の選曲を見ると当時の西海岸のジャズメン達が東海岸のバップシーンを熱心に追っていたことがよくわかります。4曲目"La Chaloupée"はオッフェンバックのオペラ「ホフマン物語」の旋律をボブ・クーパーがアレンジしたものらしいです。この曲はいかにもウェストコーストジャズって感じの明るい曲です。

続いて後半(レコードだとB面)ですが、5曲目"Day In, Day Out"はビリー・ホリデイも「アラバマに星落ちて」で歌っていたスタンダード曲。ウェストコーストらしい軽妙なアレンジに乗ってメンバー全員が軽快にソロをリレーします。6曲目”Stanley The Steamer"はゴードンのオリジナル。曲名はリーダーのスタンに捧げられたものですが、ソロ自体は全編にわたってゴードンが担っており、彼のショウケースとでも言うべきナンバーです。ラストの"This Time The Drum's On Me"はオスカー・ペティフォードの"Max Is Making Wax"の焼き直しだそうです。各メンバーのソロの後、リーダーのスタンが”今こそドラムを叩く時!”とばかりに怒涛のドラムソロを聴かせます。

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