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ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

マックス・ベネット・プレイズ

2024-11-07 19:12:23 | ジャズ(ウェストコースト)

本日は白人ベーシストのマックス・ベネットをご紹介します。あまりメジャーとは言えませんが、ベツレヘム・レコードを中心に50年代のウェストコーストジャズでそれなりに活躍した存在です。60年代から70年代にかけてはスタジオミュージシャンとしてポップスやロックの分野にも活動の場を広げ、ザ・モンキースやジョニ・ミッチェル、バーブラ・ストライザンド等の作品でベースを弾いていたようです。ジョニ・ミッチェルがジャズ~フュージョン畑のプレイヤーを起用した大名盤「コート・アンド・スパーク」にもトム・スコット、ジョー・サンプル、ラリー・カールトンと並んで彼の名前があります。

本作「マックス・ベネット・プレイズ」は1955年にベツレヘムに吹き込まれた1枚です。録音は2つのセッションに分かれており、1955年1月がロサンゼルス録音でフランク・ロソリーノ(トロンボーン)、チャーリー・マリアーノ(アルト)、クロード・ウィリアムソン(ピアノ)、スタン・リーヴィ(ドラム)と西海岸のオールスターメンバーから成るクインテット。同年12月のセッションがニューヨーク録音でカール・フォンタナ(トロンボーン)、デイヴ・マッケンナ(ピアノ)、メル・ルイス(ドラム)を加えたカルテットです。

全12曲、うち1月の西海岸セッションが8曲、12月の東海岸セッションが4曲です。まず、1月のセッションの方ですが、西海岸No.1トロンボーンのロソリーノ、パーカー派アルトとして絶賛売り出し中のマリアーノ、”白いパウエル”ことウィリアムソンが大きくフィーチャーされており、1曲目のロソリーノの自作曲”Rubberneck”、急速調のスタンダード"Jeepers Creepers"”Sweet Georgia Brown"では彼らのソロを存分に堪能できます。一方、”Just Max""T.K."ではロソリーノらはアンサンブルに回り、ベネットがピチカートソロでリーダーとしての面目を施します。一風変わっているのがヘレン・カーと言う女性ヴォーカル入りが2曲あること。”They Say"はあまり聞いたことない曲ですが、マリアーノとロソリーノのソロを挟んでスインギーに、”Do You Know Why"ではバラードをしっとり歌います。

一方、12月の東海岸セッションの方ですが、メンバーの知名度という点では西海岸に比べると一段落ちますね。カール・フォンタナは正直この作品ぐらいでしか名前を見かけないですし、デイヴ・マッケンナもズート・シムズの作品等に参加していますがお世辞にもメジャーとは言えません。ただ、スタンダードの”Taking A Chance On Love””Sweet Sue"あたりも悪くないですし、何よりベネット自作の”Blues"が良いです。他が全て3分前後の短い曲の中で唯一5分を超える演奏で、マッケンナのピアノソロに続き、フォンタナが歯切れの良いトロンボーンソロを聴かせます。"S'Posin'"は再びベネットのベースソロが大きくフィーチャーされます。

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アート・ペッパー/インテンシティ

2024-10-29 18:24:15 | ジャズ(ウェストコースト)

アート・ペッパーについては本ブログでもたびたび取り上げてきました。ウェストコーストを代表する天才アルト奏者として高い評価を受けていたペッパーですが、麻薬中毒のため1950年代半ばに一度シーンから姿を消します。1956年に「ザ・リターン・オヴ・アート・ペッパー」でカムバックを果たし、その後は「モダン・アート」「ミーツ・ザ・リズム・セクション」等の代表作を次々と発表し、キャリアの全盛期を迎えますが、その栄光の日々も1960年に一旦ピリオドが打たれます。この年に再び麻薬所持の罪で捕まったペッパーは、その後10年以上にわたって引退同然の状態となります。厳密には1964年や1968年に散発的に復帰して録音も残しているようですが、本格的なカムバックは1975年の「リヴィング・レジェンド」まで待たないといけません。

今日ご紹介する「インテンシティ」は1960年11月にコンテンポラリー・レコードに吹き込まれた1枚で、長期休養前の最後の作品です。ただ、一説ではペッパーは既に入獄していて、仮釈放中に吹き込んだ作品とも言われています。ワンホーン・カルテットでリズムセクションはドロ・コーカー(ピアノ)、ジミー・ボンド(ベース)、フランク・バトラー(ドラム)。全員が当時西海岸でプレイしていた黒人ジャズマンですが、演奏の方は特に黒っぽいと言うことはなく、あくまで主役のペッパーをサポートする役割に徹しています。

全7曲、オリジナル曲は1曲もなく、全てが歌モノスタンダードと言う構成です。しかもそのうちオープニングトラックの"I Can't Believe That You're In Love With Me"や4曲目"Long Ago And Far Away"、7曲目”Too Close For Comfort"はオメガテープ盤「ジ・アート・オヴ・ペッパー」でも演奏されるなど、ペッパー自身何度も取り上げているお馴染みの曲です。それ以外もコール・ポーター”I Love You"はじめ”Come Rain Or Come Shine"”Gone With The Wind"と定番中の定番とも呼べるスタンダード曲がずらりと並んでおり、はっきり言って目新しさは一つもありません。ペッパーは本作の直前に「スマック・アップ」と言う作品を発表しており、そこではオーネット・コールマンの曲を取り上げるなど新たな姿勢を打ち出していたのですが、本作ではあえて原点に立ち戻ったのか、それとも麻薬でヘロヘロでオリジナル曲を作曲する余裕がなかったのか・・・

以上、下手をするとありきたりでつまらない内容になってもおかしくないところを、聴く者を納得させるクオリティに仕上げているのはさすがペッパーと言ったところです。この頃の彼は心身とも麻薬に蝕まれており、コンディション的にはベストとは程遠かったと思うのですが、それでも美しいトーンで閃きに満ちたアドリブを次々と繰り出す様は圧巻ですね。とりわけ高速テンポで仕上げた"Long Ago And Far Away"が出色の出来です。録音の少ないドロ・コーカーも随所でキラリと光るピアノソロを聴かせてくれます。ペッパーの代表作に挙げられることはまずない作品ですが、全盛期の最後の1枚として聴いておいて損はない1枚です。

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アート・ペッパー/ジ・アート・オヴ・ペッパー

2024-10-07 21:01:42 | ジャズ(ウェストコースト)

アート・ペッパーの全盛期が1950年代後半にあったことは衆目の一致するところと思いますが、この頃の彼は主にコンテンポラリー・レコードから名作群を発表する一方、マイナーレーベルにも少なからぬ作品を残しています。以前に同ブログで紹介したジャズ・ウェスト盤「ザ・リターン・オヴ・アート・ペッパー」、イントロ盤「モダン・アート」、他にタンパ盤「アート・ペッパー・カルテット」、そして今日ご紹介するオメガテープ盤「ジ・アート・オヴ・ペッパー」等がそうです。特にオメガテープはアート・ペッパーのこの作品でしか名前を聞いたことがないような希少レーベルです。しかもそれらマイナーレーベルへの録音は1956年夏から1957年春頃にかけての短期間に集中しており、いかにペッパーがこの時期に多くのレコーディングセッションをこなしていたかがわかります。

精力的な活動の理由としては、麻薬中毒による2年間の収容生活から復帰したペッパーがブランクを取り戻すべく心機一転張り切ったというのもあるでしょうが、裏の理由としてはクスリ代欲しさの小遣い稼ぎの意図もあったのかもしれません。この頃のペッパーはキャリアの中では比較的安定して活動していた時期ではありますが、それでも麻薬の悪癖を完全に克服できたわけではなく、常時クスリを必要としていました。コンテンポラリーはウェストコーストジャズを代表するレーベルではありましたが、おそらくそこからの収入だけでは足りなかったのかも、と邪推してしまいますね。

本盤は発売当時はLPではなく、オープンリールと言う8ミリテープのような媒体で発売されたもので、長らく幻の音源扱いでしたが、今ではCDで手軽に聴くことができます。録音年月は1957年4月。メンバーは西海岸を代表する黒人ピアニストであるカール・パーキンス(ピアノ)に同じく黒人のベン・タッカー(ベース)、ドラムにはチャック・フローレスと言う布陣で、タッカーとフローレスは「モダン・アート」にも参加しています。

収録曲は全12曲。もともとは2枚のアルバムに分かれていたものをCD1枚にまとめたため、かなりのボリュームです。オープニングの"Holiday Flight"とラストトラックの"Surf Ride"は1952年録音の名盤「サーフ・ライド」からの再演で、5年の月日を経て円熟した演奏となっています。それ以外は基本的に歌モノスタンダード中心ですが、こちらも"Too Close For Comfort”"Long Ago And Far Away""I Can't Believe That You're In Love With Me"など他のペッパー作品で聴かれる曲が収録されています。ペッパーのお気に入り曲だったのでしょう。中では"Long Ago And Far Away"が出色の出来栄えと思います。

それ以外でおススメはまずコール・ポーターの”Begin The Beguine"。スイング時代のアーティ・ショー楽団で有名な曲で、スモールコンボのバージョンは少ないですが、ここではペッパー流の見事な解釈で魅惑のミディアムチューンに仕上がっています。また、ペッパーは黒人ジャズメンの曲もちょくちょく取り上げますが、本作ではバド・パウエルの”Webb City"がそれに当たります。ハードドライビングなチャック・フローレスのドラム演奏に乗せて、ペッパーとカール・パーキンスがノリノリの演奏を繰り広げます。"Body And Soul"のバラード演奏やラテンナンバーの”The Breeze And I”も捨てがたいです。全部で65分弱という異例のボリュームのためさすがに後半にスタンダード曲が続くあたりややダレるのは否めませんが、それでも全体的なクオリティはさすがで、全盛期ペッパーの充実ぶりがよくわかる1枚です。

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ザ・リターン・オヴ・アート・ペッパー

2024-09-26 18:52:09 | ジャズ(ウェストコースト)

アート・ペッパーのキャリアが麻薬によってたびたび中断したことはジャズファンなら皆ご承知のことと思います。中でも一番長いのが60年代から70年代前半にかけてのブランクで、10年以上もの間表舞台から姿を消します。1975年に古巣のコンテンポラリーに「リヴィング・レジェンド」を発表して以降、再び怒涛の勢いでアルバムを発表し、奇跡のカムバックと呼ばれたそうですが、私個人的には70年代以降のジャズはほとんど聴かない(自分は70年代生まれのくせに!)ので、晩年のペッパーの演奏についてはよくわかりません。

ただ、ペッパーはそれ以前にも何度か麻薬絡みで収監されており、一般的に彼の全盛期と目される1950年代にも約2年間を塀の中で過ごしています。今日ご紹介する「ザ・リターン・オヴ・アート・ペッパー」はその際の復帰作で、1956年8月6日にジャズ・ウェストと言うマイナーレーベルに吹き込まれたものです。この時点でペッパーはスタン・ケントン楽団での活躍で西海岸随一のアルト吹きとしての評価を確立していましたが、ソロとしてのキャリアはまだあまりなく、実質的にこの後の5年間が彼の黄金時代となります。

メンバーはジャック・シェルドン(トランペット)、ラス・フリーマン(ピアノ)、リロイ・ヴィネガー(ベース)、シェリー・マン(ドラム)と言った西海岸を代表する面々。ジャック・シェルドンは先日ご紹介した「マイ・フェア・レディ」では歌を歌っていましたが、本職はトランぺッターで本作でもなかなかブリリアントなプレイを聴かせてくれます。ペッパーは自身のリーダー作にトランぺッターを起用することはあまりないですが、シェルドンとはウマが合ったのか1960年の「スマック・アップ」でも共演しています。

全10曲、うちスタンダードは2曲のみで後は全てペッパーのオリジナルです。アルバムはまずオリジナル曲の"Pepper Returns"から始まりますが、聴いていただければわかるようにほぼ”Lover, Come Back To Me"のパクリです。ただ、演奏の方は素晴らしく、のっけから絶好調のペッパーのアドリブに、シェルドンもパワフルなソロで絡みます。続く2曲はスタンダードで、まずベイシー楽団のレパートリーである”Broadway"をペッパー&シェルドンで軽快に料理した後、続く”You Go To My Head"はペッパーがワンホーンで絶品のバラードプレイを聴かせます。

中盤は”Angel Wings"”Funny Blues””Five More"”Minority"とペッパーのオリジナルが続きますが、正直あまり特筆すべきものはないです。ちなみに”Minority”はジジ・グライスの有名な曲とは全く別のマイナーキーの曲です。特筆すべきはペッパーのワンホーンによる美しいバラード”Patricia"。ペッパーには妻に捧げた”Diane"と言う名の名バラードがありますが、この曲は娘のパトリシアちゃんのために書かれたそうです。ペッパーの優しいアルトの音色が胸に沁みます。”Mambo De La Pinta”は曲名から想像つくようにラテンムード全開のホットな演奏。ラストの”Walkin' Out Blues”はペッパー得意の即興のブルースです。この後、ペッパーは1960年までの間に計10枚のリーダー作を録音。生涯で最もクリエイティブな時期を過ごしますが、本作はその皮切りとなる記念碑的な1枚です。

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ヴィクター・フェルドマン・オン・ヴァイブス

2024-09-12 18:16:59 | ジャズ(ウェストコースト)

本日は西海岸の幻のレーベル、モード・レコードからの1枚です。ジャケットは先日の「レナード・フェザー・プレゼンツ・バップ」と同じく、ビル・ボックスの描いた眼鏡のおじさんシリーズですね。右手に酒瓶を、左手に指揮棒(?)のようなものを持ったデザインで、右下に"Champagne music for cats who don't drink"と小さく記載されています。何でもcatsは猫以外に”ジャズ狂”と言う意味のスラングがあるらしく、あえて直訳すれば"下戸のジャズ狂のためのシャンペン音楽"てな感じでしょうか?それでもよく意味がわかりませんが・・・

リーダーとなるのはヴィクター・フェルドマンです。後にキャノンボール・アダレイのバンドに抜擢され、そこでは主にピアノを弾いていますが、デビュー当初からヴァイブ奏者としても活躍しています。スタイルは異なりますがエディ・コスタと同じような感じですね。出身は英国ロンドンですが、1955年に渡米し、当初は西海岸に身を落ちつけました。彼のその後の経歴を見るとウェストコーストジャズとはあまり親和性がなさそうなのですが、白人ジャズマンの多いLAの方が移住には適していると判断したのでしょうか?

本作は1957年9月にモードに吹き込まれた彼のアメリカでのデビュー作です。翌1958年にコンテンポラリー盤「ジ・アライヴァル・オヴ・ヴィクター・フェルドマン」を発表しており、タイトルだけ見るとそちらの方がデビュー作っぽいですが、時系列的にはこちらの方が先ですね。本作でのフェルドマンは「オン・ヴァイブス」とあるようにヴァイブに専念しており、ピアノには西海岸を代表する黒人ピアニストのカール・パーキンスを起用しています。ベースはリロイ・ヴィネガー、ドラムはスタン・リーヴィです。さらに7曲中後半の3曲(レコードのB面)は管楽器が2本加わり、フランク・ロソリーノ(トロンボーン)とハロルド・ランド(テナー)が加わったクインテットです。

まず、前半4曲から。オープニングの"Fidelius"はフェルドマンの自作曲。フェルドマンは後にキャノンボール・アダレイに重用されたことからわかるように英国人ながら黒っぽいフィーリングの持ち主ですが、ここでもミルト・ジャクソンを彷彿とさせるファンキーなマレット捌きを見せています。ただ、続く"Squeeze Me"と"Sweet And Lovely"はどちらもスタンダード曲でいたって普通の演奏です。ウェストコーストらしい清涼感あふれる演奏と言えばそうですが、少し物足りないかな。4曲目"Bass Reflex"もフェルドマンのオリジナルですが、MJQ的典雅さを意識した(?)ちょっと不思議な旋律の曲です。

後半3曲はロソリーノとランドが加わることにより、雰囲気が変わります。5曲目"Chart Of My Heart"はボブ・ニューマンと言うよく知らないサックス奏者の曲、6曲目”Wilbert's Tune"はフェルドマンの自作曲でどちらもほのぼのした感じです。この2曲はまずまずと言ったところです。おススメはラストトラックの”Evening In Paris"。クインシー・ジョーンズにも同名の曲がありますが、全く別の曲でこちらはフェルドマンの書き下ろしです。ホレス・シルヴァーの"Nica's Dream"を彷彿とさせる熱血ハードバップで、西海岸No.1トロンボーン奏者ロソリーノの高らかに鳴るトロンボーン、ブラウン&ローチ・クインテットでも鳴らしたランドのテナーとフェルドマンのソウルフルなヴァイブが融合した名曲・名演です。全体の出来は正直可もなく不可もなくなのですが、オープニングの"Fidelius"とラストの”Evening In Paris"のおかげで鑑賞に値する1枚となっています。

 

 

 

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