goo blog サービス終了のお知らせ 

ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ジョー・パス/フォー・ジャンゴ

2025-05-11 18:13:19 | ジャズ(その他)

ジャンゴ・ラインハルトと言うギタリストがいます。ベルギーのフランス語圏生まれで主に1930年代から40年代にかけてパリを拠点に活躍しました。名前がフランスっぽくないですが、それは彼がロマ系(俗に言うジプシー)だからです。当時のヨーロッパではアメリカ伝来のスイングジャズが大ブームでしたが、彼はそこにジプシーの伝統音楽の要素を持ち込み、”ジプシー・スイング"と呼ばれるスタイルを確立。また、それまでリズムを刻む伴奏のための楽器としか見なされていなかったギターで華麗なソロを取り、主役の座に押し上げた点も革命的とされています。

以上は全てWikipediaで調べたものです。私もジャンゴ・ラインハルトの名前自体はジャズを本格的に聴く前から知っていましたが、実際の演奏はまともに聴いたことがありません。何せ彼の全盛期はビバップよりさらに前のスイング時代。1953年には43歳で亡くなっています。残されたレコードもあるにはありますが、音は悪いですし、youtubeで聴ける演奏の方も正直古臭いなあと言うのが正直なところです。ただ、同じように短命で録音も少ないチャーリー・クリスチャンと同様に後世のギタリストに与えた影響は大きかったらしく、ジャズの世界はもちろんのことジェフ・ベックやジミー・ペイジと言ったロック・レジェンド達も彼からの影響を公言しているとか。ジャズの世界ではモダン・ジャズ・カルテットの「ジャンゴ」とジョー・パスの本作「フォー・ジャンゴ」が代表的です。

ジョー・パスは1929年生まれ。20代の頃は麻薬中毒でまともな音楽活動ができませんでしたが、1962年に麻薬更生施設”シナノン”の入所者だけを集めた異色の作品「サウンズ・オヴ・シナノン」に参加。そこでの演奏が注目を集め、1963年にパシフィック・ジャズに初リーダー作「キャッチ・ミー」を発表。その翌年の1964年10月に吹き込んだのが本作です。カルテット編成ですがピアノはおらず、ギターでもう1本ジョン・ピサーノが参加。ただし伴奏のみでソロは取りません。ベースはジム・ヒューアート、ドラムは英国出身のコリン・ベイリーです。

全10曲。おそらくどれもがジャンゴ絡みの曲と思われます。オープニングトラックは上でも述べたMJQの"Django"。ジョン・ルイスがジャンゴを追悼して書いた曲だそうで、物悲しげな旋律をパスが哀愁たっぷりに弾きます。続く"Rosetta"はスイング時代の名ピアニスト、アール・ハインズの書いたスインギーな佳曲です。3曲目"Nuages"は発音はニュアージュでフランス語で「雲」の意味。ジャンゴの代表的なオリジナル曲の一つで、美しいバラード演奏です。4曲目"For Django"は本作中唯一のパスのオリジナル曲。やや哀調を帯びたミディアムチューンです。5曲目はコール・ポーターの有名スタンダード”Night And Day"。アップテンポの演奏でお馴染みのメロディをパスが超絶技巧を駆使して弾き切ります。 

続いて後半(B面)。6曲目はジャンゴ作の”Fleur d'Ennui”。発音はフルール・ダンニュイで、邦題のとおり「哀愁の花」と言う意味ですが、タイトルから想起されるほどアンニュイな感じではなく、意外と軽快でスインギーな演奏だったりします。7曲目は”Insensiblement”。発音はアンサンシブルマンでフランスの作曲家ポール・ミラスキ(クリフォード・ブラウン「パリ・セッション」の名曲"Chez Moi"を書いた人)による美しいバラードです。ジョー・パスと言えば速弾きの印象が強いですが、このアルバムはバラードが良いですね。8曲目”Cavalerie”と9曲目"Django's Castle"はどちらもジャンゴの自作曲。前者は発音はキャヴァルリで「騎兵」と言う意味。ミディアムテンポの演奏でドラムとの絡みもあります。後者はまたしても美しいメロディのバラードで、個人的には本作中でも一番好きな曲です。ラストの”Limehouse Blues”は英国産のブルースでジャンゴも愛奏していた曲らしいです。2分強の短い曲でパスがお得意の速弾きを披露して終わります。以上、ジャンゴの没後に書かれた1曲目と4曲目を除いて全てジャンゴ自身の録音が残されていますが、youtubeで聴き比べても正直ジョー・パスの方が録音もはるかに良くて聴きやすいです。オリジナルの演奏には当然敬意を表しますが、ジャンゴ・ラインハルトの入門にはこちらの方が良いのではないかと思います。

 

コメント

ヴァイ・レッド/バード・コール

2025-05-07 18:30:52 | ジャズ(その他)

本日は珍しい女性サックスプレイヤーを取り上げたいと思います。90年代に世界的に活躍したキャンディ・ダルファーを始め、2000年代以降は日本でも小林香織、矢野沙織等多くの女性サックスプレイヤーが活躍していますが、モダンジャズ全盛期の1950〜60年代には女性のサックス奏者はほとんどいませんでした。もちろん女性ヴォーカリストはたくさんいましたし、ピアノ奏者のパット・モーラン、ユタ・ヒップ、ロレイン・ゲラー、秋吉敏子、オルガン奏者のシャーリー・スコットら鍵盤楽器にはそこそこ女性プレイヤーはいたのですが、サックス含め管楽器奏者は本当に少ないです。成功したと言えるのはトロンボーン奏者のメルバ・リストンぐらいではないでしょうか?

今日取り上げるヴァイ・レッド(本名エルヴァイラ・ルイーズ・レッド)もお世辞にもメジャーとは言えませんが、リーダー作としてユナイテッド・アーティスツ盤の本作とアトコ盤「レディ・ソウル」の2枚を残しており、同時代の女性プレイヤーの中では最も活躍した1人です。本作は1962年5月21日と22日にロサンゼルスで録音され、作曲家でジャズ評論家として有名なレナード・フェザーが全面的にプロデュースした1枚です。パーソネルは21日のセッションがヴァイ、カーメル・ジョーンズ(トランペット)、ロイ・エアーズ(ヴァイブ)、ラス・フリーマン(ピアノ)、リロイ・ヴィネガー(ベース)、ヴァイの夫でもあったリッチー・ゴールドバーグ(ドラム)から成るセクステット。22日のセッションがヴァイ、ハーブ・エリス(ギター)、フリーマン、ボブ・ウィットロック(ベース)、ゴールドバーグのクインテットです。全員が西海岸を拠点に活躍していた名手揃いで、ヴァイのデビュー作を盛り上げています。

全10曲、アルバムタイトルが示唆するように全て"バード"ことチャーリー・パーカー絡みの曲で構成されています。と言っても半分以上は有名スタンダード曲なんですが、一応パーカーによる演奏が残されている曲のようです。前半(A面)5曲は5月22日のセッションで、スタンダードの"If I Should Lose You"で始まりますが、いきなりヴァイがアルトではなくヴォーカルを披露します。少し酒焼けした感じのハスキーヴォイスでお世辞にも美声とは言えませんが、味があるっちゃありますかね?一方、本職のアルトの方はパーカーばり、とまではさすがに行きませんがなかなかよく歌うソロを聴かせてくれます。チェット・ベイカーの伴奏で鳴らしたラス・フリーマンのピアノソロもキラリと光っています。2曲目はガーシュウィン「ポーギーとベス」の”Summertime”で、お馴染みの哀愁たっぷりの旋律をヴァイがヴォーカルとアルト両方で歌い上げます。3曲目はパーカーの代表曲である"Anthropology"。オリジナルは器楽曲ですが歌詞が付けられており、ハーブ・エリスのギターをバックにヴァイがまず歌い、その後エリスのギターソロ→フリーマン→ヴァイのアルトと続きます。4曲目"All The Things You Are"と続く"I'd Rather Have A Memory Than A Dream"は歌なしのインストゥルメンタル曲。特に前者は6分超えと本作でも最長の演奏で、ヴァイが渾身のアルトソロをたっぷり披露。その実力を見せつけます。その後のエリス→フリーマン→ボブ・ウィットロックのベースソロも良いですね。後半はレナード・フェザーが書いた美しいバラードで、オリジナルはサラ・ヴォーンがパーカーやガレスピーの伴奏入りで歌った曲のようです。ここではヴァイの官能的なアルトソロが堪能できます。

後半(B面)は5月21日のセッションでカーメル・ジョーンズとロイ・エアーズが新たにフロントラインに加わりますが、中でも前年にカンザスシティからLAにやって来て”西海岸のクリフォード・ブラウン”として売り出し中だったカーメル・ジョーンズに注目ですね(ちなみにオリジナルジャケットでは”カンザス・ローレンス”の変名で記載されています)。6曲目”"Now's The Time"は言わずと知れたパーカーの名曲ですが、この曲も歌詞が付けられており、まずヴァイがヴォーカル&アルトソロを披露し、その後カーメル→エアーズ→フリーマンとソロをリレーします。7曲目"Just Friends"はドライブ感たっぷりの演奏で、ヴァイのヴォーカル→カーメルのカップミュート→エアーズとソロが続きますが、アルトはお休みです。8曲目"Perhaps-Cool Blues"はパーカーのオリジナル曲2曲が1つに合わさった曲。具体的にはエアーズが"Cool Blues"、ヴァイとカーメルが”Perhaps”のメロディを同時に演奏しますが、同じパーカーの曲と言うこともあってか特に違和感はありません。そもそも原曲のメロディを演奏するのは最初と最後だけで、他は全てアドリブでエアーズ→カーメル→フリーマン→ヴァイのアルトと白熱のソロを展開して行きます。9曲目"I Remember Bird"は唯一パーカーが生前に演奏していない曲で、この曲もレナード・フェザーの作曲です。後にキャノンボール・アダレイ、フィル・ウッズ、ソニー・スティットら名だたるアルト奏者が演奏していますが、初出は実はこのアルバムのようです。ヴァイのアルト→カーメル→エアーズの順でソロを取ります。ラストの”Old Folks”はスタンダードのバラードでヴァイのアルト→エアーズ→カーメル→フリーマンとムードたっぷりのソロをリレーしてアルバムを締めます。以上、リーダーのヴァイ・レッドはもちろんのこと、ラス・フリーマン、カーメル・ジョーンズ、ロイ・エアーズ、ハーブ・エリスらサイドマンの演奏も充実しており、女流プレイヤーとか全く関係なく普通に楽しめる名盤だと思います。

コメント

テリー・ギブス/フーテナニー・マイ・ウェイ

2025-04-23 19:04:09 | ジャズ(その他)

本日は少し変わったところで白人ヴァイブ奏者テリー・ギブスによるフォークソング集をご紹介します。ギブスについては以前インパルス盤「テイク・イット・フロム・ミー」を取り上げました。日本ではそこまでメジャーではないですがアメリカではかなり知名度があり、生涯で50枚以上のアルバムを残しています。50年代はサヴォイやエマーシーを中心に多くのリーダー作を発表していますが、本作「フーテナニー・マイ・ウェイ」は1963年にタイム・レコードに吹き込んだものです。

タイトルにあるフーテナニー(hootenanny)とは聴衆も一緒に歌うフォークコンサートのことで、1973年生まれの私は正直全く知らない言葉でしたが、日本でもフォークソングブームの昭和40年代にはあちこちで行われていたそうです。ただし、本作に収録されているフォークソングはボブ・ディランやピーター、ポール&マリーのようなコンテンポラリー・フォークではなく、19世紀から歌い継がれているようなトラディショナル・フォークが中心です。

メンバーはテリー・ギブス(ヴァイブ)、アル・エプスタイン(テナー&フルート)、ジミー・レイニー(ギター)、アリス・マクレオード(ピアノ)、ウィリアム・ウッド(ベース)、アル・ベルディング(ドラム)と言う顔ぶれです。正直誰やねん!と言う人が多いですが、あえて言うならジミー・レイニーは白人ギタリストとしてそこそこ有名(過去ブログ参照)です。また、アリス・マクレオードはこの2年後の1965年にジョン・コルトレーンと結婚し、アリス・コルトレーンと改名しましたのでそちらの名前だと知っている人が多いかもしれません。ちなみにアリスはコルトレーン作品にも何枚かピアニストとして参加しており、そこでの演奏は完全にフリージャズですが、本作では普通のジャズピアノを弾いています。その他、アル・エプスタインはおそらく白人でベニー・グッドマン楽団出身のマルチリード奏者。本作ではテナーまたはフルートを吹いていますが、もっぱら伴奏のみでソロを取る場面は一度もありません。ベースとドラムは全く知らない人です。

全10曲。全てが作者不詳のトラディショナル・ソングですが、知っている曲と知らない曲が半々と言ったところですかね。オープニングトラックは"Joshua Fit The Battle Of Jericho"。「エリコの戦い」の邦題で知られる黒人霊歌で、ジャズだとコールマン・ホーキンスのライブ盤が圧倒的に有名です。ソロはギブス→アリス・マクレオードの順でこれ以降ほとんどの曲が同じパターンです。2曲目は"John Henry"。あまり知らない曲ですがこれも黒人霊歌で19世紀の鉄道建設工事で活躍した伝説の黒人ヒーローを歌った曲のようです。3曲目"When Johnny Comes Marching Home(ジョニーが凱旋するとき)"は南北戦争で歌われた行進曲で映画などでもよく使われるので日本人でも皆知っている曲と思います。ジャズだとジミー・スミスが「クレイジー!ベイビー」で演奏していました。この曲ではジミー・レイニーのギターソロも聴けます。4曲目"Michael(漕げよマイケル)"も黒人霊歌で日本でも音楽の教科書で使われるなどすっかりおなじみの曲です。ただ、本作のバージョンは少しアレンジが違ってアップテンポの曲調で別の曲のように聞こえます。この曲もレイニーのソロありです。5曲目"Polly Wolly Doodle"は童謡だそうで、確かに口ずさみやすい曲です。私は聞いたことないですが日本語でも「ほがらか村長さん」と言う童謡になっているそうです。

続いてB面。6曲目”Tom Dooley"は19世紀のフォークソングらしいですが、キングストン・トリオが1958年に歌って全米1位になった曲です。7曲目"Greensleeves"も超有名曲ですが、こちらはアメリカではなくイングランド民謡で、クラシックの世界ではヴォーン=ウィリアムズが「グリーンリーヴス幻想曲」を作曲しました。ジャズでもコルトレーン、ジミー・スミス、ウェス・モンゴメリー等カバー多数です。8曲目"Boll Weevil"は綿花につくワタミゾウムシと言う害虫のことで、黒人労働者の間でブルースとして歌い継がれ、1961年にはR&B歌手のブルック・ベントンが全米2位の大ヒットを放っています。この曲は本作中収録時間が一番長く(6分弱)、ギブスだけでなくアリス・マクレオードが2分半にわたって迫力あるピアノソロをたっぷり披露します。後のアリス・コルトレーン時代とは全く違いますが、個人的には本作の演奏の方が断然良いと思います。9曲目"Down By The Riverside"もポピュラーな黒人霊歌。ゴスペルでも定番ですし、ドド・グリーンはじめジャズバージョンも多いです。最後の"Sam Hall"は良く知らない曲ですが、原曲はイングランド民謡とのこと。ジャズとトラディショナルソングの組み合わせだとジョニー・グリフィン「ケリー・ダンサーズ」が有名ですが、本作も地味ながら充実の内容と思います。

 

 

コメント

スタンリー・タレンタイン/ザ・スポイラー

2025-04-04 17:56:15 | ジャズ(その他)

1960年代ブルーノートの顔とも言えるスタンリー・タレンタインですが、デビュー当初は彼の力強いテナーを全面的にフィーチャーしたワンホーン形式の作品がほとんどでした。ただ、1960年代も半ばになると路線転向を余儀なくされます。この頃はスモールコンボによるいわゆるハードバップ系のジャズは完全に時代遅れとみなされ、ブルーノートのジャズマンもモード/新主流派路線、フリー系路線、あるいはR&B風のソウルジャズ路線と枝分かれしますが、タレンタインはスタイル的にどれも合わなかったらしく、ビッグバンド形式の大型編成に活路を見出します。

皮切りは1965年の「ジョイライド」で、オリヴァー・ネルソン率いるビッグバンドを従えた超名盤です。続いて翌1966年にデューク・ピアソンをアレンジャーに迎え、「ラフ・ン・タンブル」そして今日ご紹介する「ザ・スポイラー」を吹き込みます。ピアソンとの共演は1967年の「ア・ブルーイッシュ・バッグ」「ザ・リターン・オヴ・ザ・プロディガル・サン」でも続きますがなぜかこれらはお蔵入りし、2000年代まで発売されません。1968年にはサド・ジョーンズをアレンジャーに起用し、「ザ・ルック・オヴ・ラヴ」「オールウェイズ・サムシング・ゼア」をリリースしますが、収録曲はほとんど当時のポップヒットばかりであまりジャズ色は強くありません。さらに70年代に入るとタレンタインはフュージョンに転身し、どんどんジャズのメインストリームから外れていくので、この「ザ・スポイラー」あたりが私のような保守的ジャズファンが楽しめる最後の作品でしょうか?

本作の録音年月日は1966年9月22日。総勢9人の小型ビッグバンドで、タレンタイン以外のメンバーはブルー・ミッチェル(トランペット)、ジュリアン・プリースター(トロンボーン)、ジェイムズ・スポールディング(アルト)、ペッパー・アダムス(バリトン)、マッコイ・タイナー(ピアノ)、ボブ・クランショー(ベース)、ミッキー・ローカー(ドラム)、ジョゼフ・リベラ(パーカッション)という布陣です。アレンジャーのデューク・ピアソンはピアニストとしても有名ですが、ここでは指揮に専念しており演奏には参加していません。

オープニングトラックはデューク・ピアソン作曲の"The Magilla"。のっけからパーカッション全開の賑やかな曲でタレンタインがノリノリのファンキーなテナーを披露、ブルー・ミッチェルのトランペット→ジェイムズ・スポールディングのアルトがそれに続きます。ちょっとジャズ・ロック的な雰囲気もあるキャッチーで楽しい曲だと思います。続く”When The Sun Comes Out”は一転バラードでハロルド・アーレン作のスタンダード。ゆったりしたホーンアンサンブルをバックにタレンタインがじっくり歌い上げます。3曲目"La Fiesta"はチック・コリアで有名な曲がありますが、こちらは全くの別曲でアルマンド・ボーサと言うパナマのミュージシャンの曲だそうです。これぞラテンと言った情熱的なナンバーでソロはタレンタイン→ペッパー・アダムス→マッコイ・タイナーの順です。こちらも1曲目同様ダンスフロアでも映えそうな曲ですね。

4曲目”Sunny"はR&Bシンガーのボビー・ヘブが歌い、同年に全米2位となった大ヒット曲です。この曲は翌年にソニー・クリスも「アップ・アップ・アンド・アウェイ」で取り上げていましたし、ジャズマンの間でも人気だったようですね。タレンタインがソウルフルなテナーを聴かせた後、ミッチェル→マッコイ・タイナーもソロを取ります。5曲目"Maybe September"は再びバラードで、同年に公開された「ジ・オスカー」と言う映画の挿入曲です。美しいバラードでトニー・ベネットが好んで歌っていたようです(ビル・エヴァンスとの共演もあります)。ラストの"You're Gonna Hear From Me"はピアニスト兼作曲家で後にロンドン交響楽団の首席指揮者にもなったアンドレ・プレヴィンの曲。プレヴィンが音楽を手掛けた1965年の映画「サンセット物語(Inside Daisy Clover)」の挿入曲でフランク・シナトラやナンシー・ウィルソン、ディオンヌ・ワーウィックも歌ったそうですが、インストゥルメンタルではこのタレンタインのバージョンが決定版だと思います。実に魅力的なメロディを持った名曲で、マッコイ・タイナーの短いソロを挟みながらタレンタインが朗々と歌い上げます。ずばり名曲・名演です。タレンタインのブルーノート作品の中ではあまり取り上げられることはありませんが、なかなか充実の内容と思います。

コメント

フランク・ウェス/サザン・コンフォート

2025-04-02 21:37:53 | ジャズ(その他)

本日はフランク・ウェスを取り上げたいと思います。彼は何といってもカウント・ベイシー楽団での活躍が有名ですよね。1950年代半ばから1960年代前半までの10年間不動のメンバーとして在籍し、同じファーストネームのフランク・フォスターとのツインテナーはトランペットのサド・ジョーンズ&ジョー・ニューマンと並んで黄金期ベイシー楽団の顔的存在でした。ウェスはまたテナーだけでなくフルートの名手としても知られており、ベイシー楽団以外ではミルト・ジャクソンのかの有名な”Opus De Funk”等でも印象的なフルートを吹いています。

今日ご紹介する「サザン・コンフォート」はそんなウェスが1962年3月にプレスティッジ・レコードに吹き込んだ作品です。メンバーはオリヴァー・ネルソンがアレンジを担当する8人編成の小型ビッグバンドで、フロントラインを組むのはベイシー楽団でも同僚だったアル・アーロンズ(トランペット)です。他に主にアンサンブル要員でアレンジャー兼任のネルソン(テナー)とジョージ・バロウ(バリトン)、リズムセクションはトミー・フラナガン(ピアノ)、ジョージ・デュヴィヴィエ(ベース)、オシー・ジョンソン(ドラム)、レイ・バレト(コンガ)と言う布陣です。

内容の方ですがフロントがフランク・ウェスとアル・アーロンズの2人ならさぞベイシー楽団風のスイングジャズ、と思いきや全く違うのが面白いところ。オープニングトラックのネルソン作"Southern Comfort"からコンガがチャカポコ鳴るラテン風の賑やかなリズムをバックにまずウェスがファンキーなテナーソロを披露し、アル・アーロンズの力強いトランペット→名手トミー・フラナガンのピアノソロとリレーします。続くアーヴィング・バーリンのスタンダード"Blue Skies"も力強いハードバップ風の演奏で、フラナガン→アーロンズ→ウェスの熱いブロウと続きます。最初の2曲が思ったよりファンキーな演奏で意表を突かれますね。3曲目"Gin's Beguine"はややクールダウンし、ウェス自身が書いたラテン風のミディアムチューン。実にリラックスした雰囲気の名曲で、まずアーロンズが味わい深いミュートトランペットでテーマメロディを吹き、ウェスの歌心溢れるテナーソロ→再びアーロンズのミュート→フラナガンの軽やかなタッチのピアノソロとリレーして行きます。何となく夏の夕暮れの情景が思い浮かぶ名曲だと思います。

後半(B面)1曲目"Blues For Butterball"はトランペッターのボビー・ブライアントが書いた必殺のファンキーチューン。2000年以降にクラブシーンでも使われたらしく、ノリノリのリズムに乗ってウェス→アーロンズ→フラナガンと熱のこもったソロを展開します。次のウェスの自作曲"Summer Frost"は箸休め的なスローナンバーでここまでテナーを吹いてきたウェスが幻想的なフルートソロを披露します。続く"Dancing In The Dark"もウェスは引き続きフルートを吹き、フラナガンのピアノソロを挟みながら定番スタンダードを軽快に料理します。ラストトラックのネルソン作"Shufflin'"はベースが主役で、ウェスやアーロンズは専ら伴奏に回り、ジョージ・デュヴィヴィエがピチカートソロをたっぷり聴かせます。以上、後半はやや落ち着いた感はありますが、前半4曲はどれも名曲・名演揃い。ベイシー楽団と打って変わってファンキーなテナーを聴かせるウェスに、スモールコンボではあまり耳にすることのないアル・アーロンズのブリリアントなトランペットが予想外の素晴らしさです。どんな時も安定の仕事ぶりのフラナガンもさすがですね。

コメント