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ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ドン・バグリー/ジャズ・オン・ザ・ロック

2024-09-29 07:53:31 | ジャズ(クールジャズ)

本日はかなり通好みのチョイスで白人ベーシストのドン・バグリーをご紹介します。と言っても誰やねんそれ!と言う方は多いと思います。私もぶっちゃけそうでした。スタン・ケントン楽団で長年ベーシストを務めたそうですが、スモールコンボでの活動は限られており、サイドマンで目にする機会もあまりありません。本作は1957年9月にサヴォイ傘下のリージェント・レコードに吹き込まれたものですが、サヴォイ系特有のセンスのかけらもないジャケットのせいもあり、普通であればスルーするところです。

ただ、思わず食指が動いたのは参加メンバーを目にしたからです。まず、パーカーの後継者として絶賛売り出し中だったアルトのフィル・ウッズに、ベツレヘム等にリーダー作を残している渋好みのギターのサル・サルヴァドール、個性派ピアニストでヴァイブもよくするエディ・コスタ、そしてメンバー中唯一の黒人で名ドラマーのチャーリー・パーシップ。おそらくリーダーのバグリーが一番無名なのでは?と思えるぐらいの興味深いメンツが集まっています。

全6曲。全てバグリーのオリジナルで構成されています。オープニングの"Batter Up"からまずパーシップのドラムを露払いにしてフィル・ウッズが哀愁漂うアルト・ソロを披露し、コスタのピアノ→サルのギター→バグリーのベースソロと続き「意外と悪くないかも?」と思わせてくれます。続く"Come Out Swingin'"もマイナーキーの曲で、コスタのバピッシュなピアノソロで始まり、ウッズ→サル→バグリーとソロを受け渡します。

3曲目"Odd Man Out"はバラード曲でバグリーとコスタのピアノとのデュオです。バグリーの2分近いベースソロが堪能できます。続く"Bull Pen"はまたしてもマイナーキーの曲ですが、ここではコスタがピアノをヴァイブに持ち替えて流麗なマレット捌きを見せてくれます。5曲目"Hold In There"は本作のハイライトといえるドライブ感満点のナンバーで、テーマ演奏のあと、サル→ウッズ→コスタのヴァイブとそれぞれたっぷり時間を取ってソロをリレーして行きます。ウッズ、コスタの好調ぶりは相変わらずですが、ここでは2分以上に及ぶサルのギターソロにも注目ですね。ラストは再び哀愁漂う"Miss De Minor"で終わり。

全体的にマイナーキーの曲が多いですが、"Hold In There"のようにガツンと来るアップテンポの曲もあり、硬派ジャズファンも満足させてくれる内容と思います。リーダーのバグリーは随所でベースソロを取りますが、どちらかと言うとウッズ、コスタ、サル・サルヴァドールの方が目立っていますね。特にウッズは同じ年に代表作である「スガン」「フィル・トークス・ウィズ・クイル」、「ウォーム・ウッズ」を発表していた頃で、脂の乗り切ったプレイを聴かせてくれます。

 

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サージ・チャロフ/ブルー・サージ

2024-09-20 15:06:56 | ジャズ(クールジャズ)

本日は白人バリトンサックス奏者のサージ・チャロフをご紹介します。名前からしておそらくロシアとか東欧系でしょうね。サージ(Serge)はセルゲイの英語読みと思いますが、ここでは洋服の生地のサージとかけているそうです。と言われても私はピンと来ないのですが、ジャケットで美女が寄りかかっている服の青い部分がそうなのでしょうね。

1940年代にウディ・ハーマン楽団に所属し、スタン・ゲッツやズート・シムズらと並んで”フォー・ブラザーズ”と呼ばれるなど名を馳せたらしいですが、その頃の録音はあまり残っていないので詳しいことはよくわかりません。50年代以降も決して作品に恵まれているとは言い難く、出身地であるボストンのストーリーヴィル・レコードに「サージ・アンド・ブーツ」含め2枚、キャピトル・レコードに「ボストン・ブロウアップ」と本作の2枚を残すのみです。理由の一つとして挙げられるのは麻薬。この時期の多くのジャズマンと同様に彼もジャンキーで、40年代後半から50年代前半にかけてをほぼ棒に振ります。1954年以降に活動を再開し、上記の作品群を残すのですが、今度は病魔に蝕まれ、1957年に脊椎のガンで33歳の生涯を閉じました。

そんな薄幸の人生を送ったチャロフですが、バリトンサックス奏者としての評価は高く、評論家筋からはジェリー・マリガンを超える、とも言われていたとか。個人的にはテナーやアルトと違って、バリトンと言う楽器自体があまり細やかなアドリブ表現に適さないような気がするのですが、言われてみれば比較的滑らかなプレイと言う気もします。ただ、ペッパー・アダムスのようにゴリゴリとハードに吹くのを身上とするタイプもいますので、どちらが良いかは好みの問題ですね。

本作「ブルー・サージ」は1956年3月の録音。チャロフはこの1年4ヶ月後に亡くなるのですが、この時点ではまだ元気だったのか快活なプレイを聴かせてくれます。収録はハリウッドのスタジオで行われ、当時は西海岸でセッション・ピアニストとして活躍していたソニー・クラークがピアノで参加しています。ベースは同じくウェストコースターのリロイ・ヴィネガーですが、ドラムがフィリー・ジョー・ジョーンズと言うのが意外な人選です。当時のフィリー・ジョーはご存じマイルス・デイヴィス・クインテットの一員でしたが、この頃ちょうどツアーでロサンゼルスに滞在中で声がかかったようです。全員が黒人によるリズムセクションですが、かと言ってそれほどハードバップ色が強いわけではなく、リーダーであるチャロフの個性が前面に出ています。

全7曲、うちジャズ・オリジナルは2曲だけで、あとは歌モノスタンダードです。”All The Things You Are"”I've Got The World On A String"”Stairway To The Stars"等の定番スタンダードもありますが、個人的にはオープニングトラックの"A Handful Of Stars"を推します。あまり他では聞かない曲ですがミディアムテンポのほのぼのした曲調で、チャロフの暖かみのあるバリトンにクラークも軽快なソロで華を添えます。バラードの"Thanks For The Memory"も良いですね。ここではチャロフが低音でじっくり歌い上げます。

オリジナル曲のうち1曲はウディ・ハーマン楽団の同僚だったアル・コーン作の"The Goof And I"。アップテンポの曲で、クラークの躍動するピアノソロに続きチャロフがバリトンとは思えない高速アドリブを披露します。チャロフの唯一のオリジナル曲である”Susie's Blues"はブルースと言うよりバップナンバーで、チャロフのバピッシュなプレイが堪能できます。クラークも何だかんだこういう曲の方が生き生きしていますね。

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ジミー・ネッパー/ア・スウィンギング・イントロダクション

2024-09-04 18:51:12 | ジャズ(クールジャズ)

昨日に続きアルト奏者ジーン・クイルとトロンボーン奏者の共演作をご紹介します。ただ、今回はクイルはサイドマンで、リーダーはジミー・ネッパーと言う白人トロンボーン奏者です。ネッパーは決してメジャーとは言えませんが、50年代後半から60年代初頭にかけてチャールズ・ミンガスのバンドに在籍し「ティファナ・ムーズ」「ブルース&ルーツ」「ミンガス・アー・アム」はじめ10枚以上の作品群に参加していることから、名前を目にしたことがある方も多いと思います。その時のエピソードで有名なのは、ミンガスと口論になったネッパーが殴られて歯を折られたということ。それって立派な傷害事件やん!と思いますが、ミンガスはかなり血の気の多い人物だったようでこの手のエピソードには事欠かないようです。ちなみに事件が起きたのは60年代に入ってからで、1957年の録音の本作ではまだ歯は無事です。

ミンガスはまた同時代のジャズの中では比較的前衛的な音楽志向の持ち主で、上述の一連の作品群でも独特のミンガス・ワールドを展開しています。ネッパーもそれらの作品ではソロにアンサンブルにとミンガス・サウンドの一翼を担っているのですが、ベツレヘムに吹き込まれた本作では意外とオーソドックスなプレイです。メンバーはネッパーとクイルの2人に加え、リズムセクションはビル・エヴァンス(ピアノ)、テディ・コティック(ベース)、ダニー・リッチモンド(ドラム)と言う顔ぶれ。ここでビル・エヴァンスの名前が出てくるとは意外ですが、この頃のエヴァンスはまだマイルス・デイヴィスのバンドに抜擢される前の駆け出しの時期で、プレイそのものもそこまで際立った個性は見せていません。

全9曲。アルバムはヴィクター・ヤング作曲のスタンダード”Love Letters"で始まります。後にエルヴィス・プレスリーもヒットさせたキャッチーなメロディの曲を、ネッパー→クイル→エヴァンスが軽快にソロをリレーして行きます。実に気持ちのいいナンバーで本作のベストトラックと言っていいでしょう。3曲目”You Stepped Out Of A Dream"と続く”How High The Moon"も定番スタンダード。前者はアップテンポ、後者はスローで演奏されていますが、どちらもストレートアヘッドな演奏です。ネッパー、クイルとも快調ですがエヴァンスのソロはまだ控え目です。

ネッパーのオリジナルも3曲あります。2曲目”Ogling Ogre"はタイトルも変ですし、曲も少しとぼけたような感じでミンガス門下生っぽいと言えばぽいです。6曲目”Idol Of The Flies"と8曲目”Avid Admirer"はどちらも熱い曲で、前者はややエキゾチックな旋律、後者はもろビバップです。パーカーの直系のアルトを聴かせるクイルに引っ張られるようにネッパーも熱いプレイを見せます。

以上の6曲がクイル、エヴァンスの参加曲で、残りの3曲はクイルの代わりにジーン・ロウランドと言う白人トランぺッター、ピアノもビル・エヴァンスからボブ・ハマーというよく知らない人に代わっています。5曲目”Gee, Baby, Ain't I Good To You"ではいきなりロウランドがヴォーカルを披露したりして、ちょっと全体の中で浮いてますね。7曲目”Close As Pages In A Book"と9曲目”Irresistible You"はどちらも歌モノスタンダードですが、ロウランドのトランペットはやや中間派風のオールドスタイルな感じです。これはこれで悪くはないですが、個人的にはクイル&エヴァンス入りの方を強く推したいと思います。ズバリ名盤と言っていいんじゃないでしょうか?

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ズート・シムズ/ズート

2024-05-26 16:25:48 | ジャズ(クールジャズ)

ズート・シムズには自身の名前を冠したアルバムが2つあります。1つは先日ご紹介したリヴァーサイド盤「ズート!」で、もう1つが今日ご紹介するアーゴ盤「ズート」です。違いは!があるかないかだけですね。録音時期も近く、リヴァーサイド盤が1956年12月、本作がその少し前の10月です。ワンホーンカルテットでリズムセクションはジョン・ウィリアムズ(ピアノ)、ノビー・トター(ベース)、ガス・ジョンソン(ドラム)です。内容的にはリヴァーサイド盤がかなりスイング色の強いオールドファッションな内容だったのに対し、本作はオスカー・ペティフォードやディジー・ガレスピーの作品を取り上げるなど、バップ色の強い曲も含まれています。ただ、ハードバップかと言うとそうでもない。ズートの音楽スタイルは、スイングジャズをベースにそこにバップのエッセンスを加えたものですが、なかなかジャンル分けが難しいですね。本ブログでは一応クールジャズにカテゴライズしていますがそれもなんか違う気がします。まあ、ジャンル分けはあくまで参考ということで・・・

全8曲。うち歌ものスタンダード3曲、メンバーのオリジナル2曲、他のジャズマンのカバーが3曲という割合です。スタンダードはガーシュウィンの”The Man I Love”、ロジャース&ハートの”Blue Room”、チェット・ベイカーの歌で有名な”That Old Feeling”で、ズートのまろやかなトーンのテナーと歌心溢れるアドリブが堪能できます。オリジナル2曲はズート作のスインギーな”55th And State"とドラムのガス・ジョンソンの"Gus's Blues"ですが、出来はまあまあと言ったところ。おススメは他のジャズマンのカバー3曲ですね。まずは冒頭の"9:20 Special"。1940年代のベイシー楽団のアルト奏者アール・ウォーレンの曲をノリノリで演奏します。やはりズートはこういうスイング調の曲が一番合っていますね。オスカー・ペティフォードの”Bohemia After Dark”では、ズートが珍しくアルトで急速調のソロを吹いています。ラストのディジー・ガレスピーの”Woody'n You”はマイルス、ビル・エヴァンス、MJQ、レッド・ガーランドらも名演を残していますが、本作もそれらと比べても引けを取らない素晴らしい演奏です。スイングだろうがブルースだろうがバップだろうが、どんなスタイルでも悠々とブロウするズートがカッコいいですね。

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エディ・コスタ・クインテット

2024-05-23 20:38:51 | ジャズ(クールジャズ)

モード・レコードというレーベルがあります。演奏スタイルのいわゆるモード・ジャズとは何の関係もなく、むしろモード・ジャズという言葉が誕生する前の1957年にわずか半年だけ存在した幻のレーベルです。ただ、短期間に集中的に録音したため30枚前後のカタログがあり、CDでも何度も再発売されているのでジャズファンの間では結構知られています。このレーベルの特徴はジャケットデザイン。エヴァ・ダイアナという女性画家が描いたアーティストの水彩画で基本的に統一されており、これがまた味があるとマニア心をくすぐるようです。今日ご紹介する「エディ・コスタ・クインテット」もその水彩画シリーズの一つです。

コスタについては以前にコーラル盤のところでご紹介しましたが、ピアニスト兼ヴァイブ奏者として50年代のジャズシーンで活躍したものの、1962年に自動車事故で亡くなった夭折のジャズマンです。モード・レーベルは西海岸を拠点としていたため、基本的にはウェストコーストの白人ミュージシャンの録音が多いですが、本作はリーダーのコスタはじめアート・ファーマー(トランペット)、フィル・ウッズ(アルト)、テディ・コティック(ベース)、ポール・モティアン(ドラム)と東海岸のミュージシャンが名を連ねています。なお、ジャケットでのコスタはヴァイブを演奏していますが、7曲中5曲はピアノを演奏しており、ヴァイブは2曲のみです。どちらもバラードで1曲はデイヴ・ブルーベックの”In Your Own Sweet Way"、もう1曲はロジャース&ハートの"I Didn't Know What Time It Was”です。コスタのヴァイブの後ろでピアノが伴奏していますが、どうやらフィル・ウッズが弾いているらしいです。ただ、出来自体は正直可も不可もなくといったところ。オリジナル曲の方が良いですね。中でもおススメはオープニングのフィル・ウッズ作の"Get Out Of The Road"。力強いハードバップ調の曲でファーマー→コスタ→ウッズとエネルギッシュなソロをリレーします。その他ではコスタのオリジナル"Blues Plus Eight"やラストのファーマー作"Stretch In F"もドライヴ感たっぷりの演奏。特に後者ではコスタが彼独特のうねるようなタッチのピアノソロを披露します。モード・レコードには他にも良い作品がいくつかありますので、定期的に取り上げたいと思います。

 

 

 

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