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遠山を望むが如く

しんちゃんの雑録

「大阪都構想」における残念な大阪の区割り

2020-10-18 00:18:37 | 日記
東京と大阪のどちらが好きかと聞かれたら,私は迷わず大阪を選ぶ。
大阪の方が食べものが美味しいからだ。
食材として美味しいものは東京に集まっているが,大阪の方が安いなりに美味しく作ろうという努力を感じる。
というか,大阪(関西)の方が出汁使いが上手であると思う。
立ち食いそば(うどん)で比べても,出汁が効いているので大阪ではツユまで美味しくいただけるのが東京と違うところだ。(塩分が気になるので全部は飲まないが)
1000円以内で食べられるランチの満足度は大阪の方が高いし,ふらっと入った居酒屋の付け出しも,大阪の方が当たりが多いと思っている。(チェーン店は除く)

そんな大阪がなくなるかもしれない。
11月1日にいわゆる大阪都構想(大阪市の廃止と特別区の設置)の住民投票が行われ,投票率に関係なく1票でも賛成が多ければ可決されるのだ。
その4つの特別区への割り方が,地図・地理オタクの私から見ればあまりにひどく,看過できない。

現在24ある行政区の特別区への区割り案はこうだ。
(人口,面積はWebサイト「都道府県市区町村」(https://uub.jp/)による)

『淀川区』:東淀川区,淀川区,西淀川区,此花区,港区
 人口60万人,面積67.2km2

『北区』:福島区,北区,都島区,旭区,鶴見区,城東区,東成区
 人口77万5千人,面積48.5km2

『中央区』:中央区,西区,浪速区,西成区,大正区,住之江区,住吉区
 人口72万4千人,面積65.4km2

『天王寺区』:天王寺区,阿倍野区,生野区,東住吉区,平野区
 人口64万1千人,面積44.2km2

人口はどの特別区も70万人前後になるようそろえられている。
人口や区税収入の格差がなるべく出ないように配慮されたことによるらしい。

変動係数(ばらつきの程度を表し,数値が小さい方がばらつきは小さい)で示すと,区割り再編の前後で33%から12%まで激減している。
一方,東京23区では54%とばらつきが大きい。(人口が少ない千代田区と中央区を除いても48%)
ちなみに,面積の変動係数も48%から21%と小さくなり,面積もそろえられている。

人口は社会的要因でいずれ大きく変動するため,そろえておく必要があるのか疑問である。
表面上は平等にしておかなければならないとは,まるで学校のクラス替えのようだ。
むしろ,選挙区の割り方と同じ発想なのではないだろうか。
地域特性よりも,単純に人数(有権者数)で割るだけで,自治体を分断している小選挙区と同じように思える。

私が残念に思う理由は,この割り方のせいで大阪の歴史と文化が消失するのではないかということだ。

大阪の歴史は古い。
古来,上町台地と呼ばれるなだらかな丘上にまちが作られてきた。
仁徳天皇が造った(その後何度も遷都されている)難波宮も,豊臣秀吉が造った大坂城も,上町台地の北端にあった。
その上町台地の西側に秀吉が拓いた町が大坂である。

明治に入り,大坂は大阪と改称され,市制施行時には東西南北の4区に分けられた。
現在の北区の南側(旧北区;旧大淀区と合併して現北区)・西区・中央区(旧東区と旧南区が合併)である。
その東西南北4区を中枢として徐々に周辺の町村を合併して拡大し,現在の大阪市になった。

とはいえ,大阪市の面積は225.3km2しかなく,政令指定都市の中で4番目に小さい。(最小は川崎市の143km2
東京23区の約3分の1,横浜市の約半分しかない。
東京のように副都心が点在するほど広くなく,大阪の都心は大阪(旧4区)でしかない。
したがって,この中心エリアを有する特別区が「大阪」を継承することになる。

このエリアは『北区』と『中央区』に割り振られる。
それぞれ現行の北区と中央区を拡大したような印象だ。
大阪府の真ん中ら辺にあるのに「大阪府北区」とは何事だ,という意見はさておき,都構想で現状行政を変えると言う割りには安易なネーミングである。
両区にある大阪2大ターミナルの名を入れて『梅田区』と『難波区』,あるいは大衆的な意味で『キタ区』と『ミナミ区』とする方が,分かりやすく大阪らしいと思うが。

東京にも北区と中央区はあるし,平成の大合併でも東西南北の字を入れた自治体名が多いが,外の人間からすれば,その自治体が都道府県のどの辺に位置するかが分かるよりも,個性を感じられる名前の自治体の方が,行ってみようかと興味を覚える。

『天王寺区』にはもう1つのターミナルである天王寺・阿倍野があるので,他の特別区よりは分かりやすい。
しかし,「天王寺」とは聖徳太子が建立した四天王寺に由来しており,それは上町台地に位置しているので,その東側に広がるエリアを指すには違和感を覚える。
個人的には『阿倍野区』の方がふさわしいと思うのだが。

『天王寺区』と『中央区』の割り方で残念に思う点が2つある。
1つは,住吉区のみ『中央区』にあること。
阿倍野区,東住吉区,平野区の3区は,住吉区から分区してできたが,今回の区割りで住吉区とその他3区とが行政的に完全に分断されてしまう。
それで住民(各区民)は納得できるのだろうか。

もう1つは,通天閣・新世界(浪速区)と動物園(天王寺区)・あべの(阿倍野区)が別の行政下になること。
通天閣と天王寺動物園は大阪市の名所であるし,新世界とあべのは人情味のある大阪らしいイメージがあって,街歩きと一杯飲みが楽しいエリアである。
あべのハルカスができてこのエリアも脚光を浴びているようだが,これらが別々になって同時に発展することができるのだろうか。

最も残念に思う特別区は『淀川区』だ。
構成される現行5区は,いずれも大阪中枢と繋がっており,横断的に繋がる交通網がない。
淀川区と東淀川区の間は阪急電車が通っているので往来は容易だが,淀川区から西淀川区の間はバス路線のみである。
さらに此花区へ延びるバスは1路線しかない。
此花区と港区とは,JR大阪環状線で繋がっているのみである。
つまり,特別区内の移動は,自家用車に頼るしかないだろう。

また,『淀川区』の特徴は,河川や海に囲まれていることだ。
堤防は相当長く,水害や津波などへの災害対策に対する費用が,他の特別区より膨大に必要であろう。
また,交通網の整備も特別区で独自に行うとすれば,東西に長いため費用がかかる。
ごみ焼却工場や埋立処分場もあるため,他の特別区と軋轢を生じるかもしれない。

新大阪駅があり,USJ(ユニバーサルスタジオジャパン)や海遊館も存在し,さらにカジノ(IR)誘致に成功すれば,観光業により発展する可能性はある。
しかし,観光客が特別区内を通過しない,宿泊施設も貧弱となれば,巨大観光施設からのゴミ処分など負の資産ばかり受けて,利益や恩恵を受けられないだろう。
まして,このところの新型コロナ禍により観光業は大打撃を受けており,また南海トラフ地震による影響も大きく受ける可能性もあり,観光依存は将来的に不安定要素が大きい。

さらに,『淀川区』のエリアは「大坂」から川を1つ2つ渡ったところにあるため,大阪の歴史や文化が他の特別区に比べて希薄である。
新しい大阪(大阪都)にすがるしかないが,どこまで影響力を行使できるだろうか。

以上のことから,「大阪」を継承可能な特別区は『北区』と『中央区』であるが,安泰なのは『北区』だけであろう。
つまり,「大阪」は現状から縮小して存続するだけである。
大阪府(都?)という名称には「大阪」が残るが。

小さくなった大阪で,大阪ならではの「美味いもん」が存続されるだろうか。
というよりは,大阪人の気概(大阪の文化)が受け継がれるだろうか。

大阪の中枢は,先に述べたように旧4区であり,そこから放射状に発展してきた。
したがって,大阪を分割するとしたら,その中枢を含めなければ成り立たない。
ちょうど,私鉄が大阪の中枢部から放射状に延びており,沿線の街づくりもできている。
つまり,『阪急沿線区』,『阪神沿線区』,『京阪沿線区』,『近鉄沿線区』,『南海沿線区』の5区に分けるとすれば,地域特性も大阪文化も損なわずに存続できるのではないだろうか。
この分け方で,特別区間の人口も面積も2倍以上変わることもなかろう。
さらに,将来的には沿線郊外の隣接自治体を取り込むこともできるかもしれない。

今さらそのような変更はできない。
「大阪都構想」とは,机上で案出されたものに過ぎないのであろう。
市民生活上の動線を考えずに作られたとしたら,それが一番残念だ。

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