「グルメ」とはフランス語の"gourmet"に由来しており,カタカナ日本語としてもずいぶん定着してきた言葉である。
しかし,その意味が正しく伝わっていないことがずっと気になっている。
"gourmet"とは,元来ワインの鑑定士や商人の召使い*という意味から始まり,ワインに精通している人,ひいては料理全般に精通している人を指すようになった。
日本語の「食通」とほぼ同義である。
「食通」とは,大辞林(第三版)によれば「おいしいものをたくさん食べていて,おいしいものについて詳しいこと。また,その人」とあるが,「おいしい」には人の主観が含まれるので,大辞泉(デジタル版)にある「料理の味や知識について詳しいこと。また、その人」の方が明快である。
ここで,「おいしいものを食べる人」の類義語に「美食家」という言葉がある。
こちらは「ぜいたくでおいしいものばかりを好んで食べる人」という意味であり,その料理の値段や味には価値を見出すが,その料理や食材に対する知識については大して関心をもたない。
料理全般に対する知識に優れる「食通」とは似て非なるものである。
また,食べるという行為を趣味として楽しむ人を「食道楽」という。
このように,食の享楽を求めたり,食い意地の張っているような人を,フランス語では"gourmand"(グルマン)と表し,"gourmet"とは明確に区別されている。
日本語の「グルメ」には"gourmet"と"gourmand"が混同されている上に,人ではなく料理そのものに対しても用いられている。
この場合の「グルメ」とは贅沢料理や高級食材を用いた料理のことを指している。
おいしいこと自体にランクはない(好みにはランクはある)はずだが,安い食材を使った料理を表す「B級グルメ」という言葉に,「グルメとは本来高級なもの」といった意識が透けて見える。
つまり,「グルメ」は料理や食材の一部に過ぎない「高級品」のみが対象にされている傾向があると感じており,それが健全な食生活を営むことを阻害しているのではないかと考えている。
例えば,ステーキ。
松阪牛などの高級和牛の霜降り肉は確かにおいしいが,たいていの店では付け合わせの野菜が貧弱であり,品質的にも栄養的にも肉と釣り合っていない。
スーパーモデルにずだ袋を持たせるようなものだ。
また,今の時期はカニやブリなどが冬の味覚として人気が高いが,冬にはネギやホウレン草,大根などの冬野菜もおいしい。
冬になると,露地もののホウレン草はミネラルが豊富で甘みを有することから,特に寒い日の夕採りものがあれば食べたくなる。
大根はブリとの相性は抜群で,みずみずしい新鮮なものをすり下ろし,身の照り焼きやカマの塩焼きにたっぷり添えて食べると,ブリ自体の旨みも増し,胃もたれも起こさない。
ブリのアラと大根を一緒に煮るブリ大根は,ブリの旨みを十分に吸った大根が主役になるが,スカスカの大根を使ってはおいしくならない。
新鮮な大根の甘みが,ブリの旨みと味の相乗効果をもたらすのであろう。
いわゆる高級食材というものは,確かにおいしい。
しかし旬のものにも,安くておいしいものはたくさんある。
「新鮮な旬の食材をつかってその味を最大限に引き出すよう適切に調理して食べる」
それが"gourmet"ということではないだろうか。
「和食」が世界無形文化遺産に登録されているが,決して日本の豪華料理が評価されたわけではない。
この"gourmet"への意識を高めるによって,「和食」の評価がますます上がり,新鮮な旬の食材の需要が増す。
そこに,零細な日本の農業が持続的に発展する鍵があるのではないかと考えている。
<参考資料>
*語源由来辞典,http://gogen-allguide.com/
しかし,その意味が正しく伝わっていないことがずっと気になっている。
"gourmet"とは,元来ワインの鑑定士や商人の召使い*という意味から始まり,ワインに精通している人,ひいては料理全般に精通している人を指すようになった。
日本語の「食通」とほぼ同義である。
「食通」とは,大辞林(第三版)によれば「おいしいものをたくさん食べていて,おいしいものについて詳しいこと。また,その人」とあるが,「おいしい」には人の主観が含まれるので,大辞泉(デジタル版)にある「料理の味や知識について詳しいこと。また、その人」の方が明快である。
ここで,「おいしいものを食べる人」の類義語に「美食家」という言葉がある。
こちらは「ぜいたくでおいしいものばかりを好んで食べる人」という意味であり,その料理の値段や味には価値を見出すが,その料理や食材に対する知識については大して関心をもたない。
料理全般に対する知識に優れる「食通」とは似て非なるものである。
また,食べるという行為を趣味として楽しむ人を「食道楽」という。
このように,食の享楽を求めたり,食い意地の張っているような人を,フランス語では"gourmand"(グルマン)と表し,"gourmet"とは明確に区別されている。
日本語の「グルメ」には"gourmet"と"gourmand"が混同されている上に,人ではなく料理そのものに対しても用いられている。
この場合の「グルメ」とは贅沢料理や高級食材を用いた料理のことを指している。
おいしいこと自体にランクはない(好みにはランクはある)はずだが,安い食材を使った料理を表す「B級グルメ」という言葉に,「グルメとは本来高級なもの」といった意識が透けて見える。
つまり,「グルメ」は料理や食材の一部に過ぎない「高級品」のみが対象にされている傾向があると感じており,それが健全な食生活を営むことを阻害しているのではないかと考えている。
例えば,ステーキ。
松阪牛などの高級和牛の霜降り肉は確かにおいしいが,たいていの店では付け合わせの野菜が貧弱であり,品質的にも栄養的にも肉と釣り合っていない。
スーパーモデルにずだ袋を持たせるようなものだ。
また,今の時期はカニやブリなどが冬の味覚として人気が高いが,冬にはネギやホウレン草,大根などの冬野菜もおいしい。
冬になると,露地もののホウレン草はミネラルが豊富で甘みを有することから,特に寒い日の夕採りものがあれば食べたくなる。
大根はブリとの相性は抜群で,みずみずしい新鮮なものをすり下ろし,身の照り焼きやカマの塩焼きにたっぷり添えて食べると,ブリ自体の旨みも増し,胃もたれも起こさない。
ブリのアラと大根を一緒に煮るブリ大根は,ブリの旨みを十分に吸った大根が主役になるが,スカスカの大根を使ってはおいしくならない。
新鮮な大根の甘みが,ブリの旨みと味の相乗効果をもたらすのであろう。
いわゆる高級食材というものは,確かにおいしい。
しかし旬のものにも,安くておいしいものはたくさんある。
「新鮮な旬の食材をつかってその味を最大限に引き出すよう適切に調理して食べる」
それが"gourmet"ということではないだろうか。
「和食」が世界無形文化遺産に登録されているが,決して日本の豪華料理が評価されたわけではない。
この"gourmet"への意識を高めるによって,「和食」の評価がますます上がり,新鮮な旬の食材の需要が増す。
そこに,零細な日本の農業が持続的に発展する鍵があるのではないかと考えている。
<参考資料>
*語源由来辞典,http://gogen-allguide.com/