遠山を望むが如く

しんちゃんの雑録

交通系ICカードの名称に見られる地域特性

2016-07-07 00:38:39 | 日記
交通系ICカードが普及してずいぶん経つが,便利になったのは2013年3月の全国相互利用サービスが開始されてからであろう。
Suica(スイカ)があれば北海道や九州でも乗車できるし,ICOCA(イコカ)を使って東京駅の売店でちょっとした買い物もできる。
これらのカードの名称は「○○カ」と「カ」で終わる3文字のもの(カタカナ表記の場合)が多いが,これには地域の特徴が結構出ているのではないかと思ったので,ちょっと調べてみた。
ただし,今や中小事業体もどんどん導入しているので,知名度を考慮して「交通系ICカード全国相互利用サービス」に対応するカードのみを対象とした。

・Kitaca(キタカ)
JR北海道が導入しているICカード。「JR北(キタ)海道のカード」なので,そう名付けられた。
シンプルだが,芸もひねりもない。
北海道へは北陸からの開拓者が多かったので,北陸人が言う「来る(行く・来る両方の意味で使われる)」にちなんで,北海道へ「来たか!」と掛けているかとずっと思っていたが,どうやら違うらしい。

・Suica(スイカ)
JR東日本が開発し,交通系ICカードの先駆けでもある。
名称は “Super urban intelligent card” に由来し,「スイスイ行けるICカード」の意味合いも持たせている。
また,親しみやすくするため果実のスイカと語呂合わせし,カードデザインもスイカ風になっている。
キタカに比べると考えて名付けられているようだが,私には「電車に乗ること」と「果実のスイカ」との関連が全く分からない。

JR東日本は,かつて国鉄から分割民営化された際,「国鉄近郊区間の電車」の略称である「国電」に代わるものとして「E電」という愛称を決めた(これは一般公募では20位)が,定着することはなかった。
また,東北新幹線が八戸まで延伸した際にも,「はやて」というマイナー(一般公募19位)な名称を採用した。

公募しても,結局のところエラい先生方(著名人)の意見で採用が決まるので,JR東日本は民意?を軽視しているようだ。
JR東日本の命名は,理性的のようだが,押しつけがましく権威主義的な感じがする。

・PASMO(パスモ)
関東地方を中心とする鉄道・路線バス事業者延べ101事業者が加盟する共通乗車カードである。
磁気カードによるプリペイドカード式の乗車カードシステム「パスネット」を前身とし,PASMOはパスネット (PASSNET) の“PAS”(パス)と「もっと」の意味を表す英語“MORE”(モア)の頭文字“MO”から名付けられた。
「モ」は日本語の係助詞でもあり、複数の交通機関に対応できることを表している。

「通り過ぎる」や「乗車券」の意味がある“PAS(S)”は分かるが,“MO”(モ)をつける理由がかなりこじつけているように思われる。
“PASCA”(パスカ)でもいいだろうと思ってしまうが,「モ」である必然性が全く分からない。

・TOICA(トイカ)
JR東海が提供する在来線のIC乗車券サービスの総称である。
TOkai Ic CArd”(東海ICカード)の頭文字から命名された。
それだけである。
キタカと同様のシンプルで芸のなさ。
「トーカイ」の語順を変えて「トイカ」なのではないかと穿っていたが,全く違っていた。

・manaca(マナカ)
名古屋鉄道や名古屋市交通局の関連会社が発行するICカードである。
名称は「日本の真ん中」にある中京圏の公共交通機関が協力したことなどから来ており,「日本の真ん中をつなぎ,くらしの真ん中をつなぐICカード」をコンセプトとしている。
コンセプトの意図するところは分かるが,マナカの使用で何がつながるのかイメージがわかず,このコンセプトは抽象的すぎると感じている。
名鉄の“m”,名古屋の“na”を入れてこじつけたように思えてならない。

・ICOCA(イコカ)
JR西日本が発行するICカードである。
ICオペレーティングカード (IC Operating CArd) の略称であるが,関西方言の「行こか」(「行こうか」の意味)とも掛けた親しみやすい名称としている。
「イコカで行こか!」というキャッチフレーズは大変分かりやすく,移動手段に必要なものという認識が一発ですり込まれた。

・PiTaPa(ピタパ)
スルッとKANSAI協議会(近畿圏の公共交通機関のネットワーク)が展開する乗車カード機能を基本に据えたICカードである。
プリペイド式のカードシステムが前身というのはパスモと同様だが,ピタパは他のカードと異なりプリペイド方式ではなく,公共交通機関の乗車ICカードとしては世界初のポストペイ(後払い)方式を採用しているため,ピタパはクレジットカードに分類される。

名称は「Postpay IC for "Touch and Pay"」の略であり,キャッチフレーズは「ピタッとタッチするだけでパッとスピーディーに!」。
これはちょっとまわりくどい。
「ピタッとあわせてパッと通れる」でよいではないか。
いずれにせよ,きわめて感覚的に訴えられており,とても分かりやすい。
何かよく分からなくても,こうすれば使えるということが伝わるネーミングだ。

・SUGOCA(スゴカ)
JR九州が導入した在来線用ICカード乗車券である。
Smart Urban GOing CArd”の略称であり,「凄い」を意味する肥筑方言「凄か」にかけた名称でもある。
何がすごいのか分からないが,博多弁で「スゴか!」と言われると,本当にすごいのかと思ってしまう。
イコカ以上のインパクトがあった。
CMなどでは「スッ!とゴー!でSUGOCA」といった表現も使われているようだが,名前だけでは交通系カードと分かりにくい。
しかも,4番目の“O”の右端の色を反転させて“I”に見せて,隣の“C”と合わせて“IC”と見せているのはかなりのこじつけであり,残念であるが,ポジティブな感じが強いネーミングだ。

・nimoca(ニモカ)
西日本鉄道が導入したICカードだが,西鉄以外の九州の鉄道・バス事業者でも導入が進んでおり,九州の交通系ICカードでは最も発行枚数が多い。
名称は“Nice Money Card”の略(NiはNishitetsuのNiを兼ねている)と,「バスにも,電車にも,買物にも,いろいろ使えるオールラウンドなカード」という意味が込められており,唯一「マネーカード」であることを前面に出しているカードである。
しかし,マナカ同様に名称からは伝わりにくいコンセプトである。
私は「西鉄モバイルカード(西鉄で移動しやすいカード)」の略かと思っていた。

・はやかけん
福岡市交通局が導入したICカードであり,福岡圏だけ地下鉄と民鉄が別々にカードを発行している。
全国相互利用サービス対応のICカード乗車券としては唯一ひらがな表記となっており,「は」=速くて,「や」=優しくて(環境や人に),「か」=快適な,「けん」=券(カード)であることを,「速いから」という意味の博多弁「速かけん」にかけた名称である。
つまり,「速か券」。
他のカードと一線を画す,とても個性的なネーミングである。

以上,独断と偏見に満ちた考察ではあるが,総じて東日本側でのネーミングは表面的あるいは理性的であるものの,使用者にはその利便性が伝わりにくい。
どことなく事業者の「上から目線」を感じるし,使用者もそれを甘んじて受け入れているようだ。
言わば,縦のつながり(階層化された関係)で成り立っているように思われる。

一方,西日本側でのネーミングは感性的であり,使用者に利便性を直接訴えかけている。
地域方言に掛けて共感を抱かせようとしており,横のつながり(フラットな関係)が重視されているように思われる。

この境界は,中京エリアと関西エリアの間にある。
一般的には日本の東西は箱根で分けられることが多いが,やはり天下分け目は関ヶ原ということなのだろうか。

<出典>
各カード名称の由来については,全てWikipediaを参照した。