本当の賢治を渉猟(鈴木 守著作集等)

宮澤賢治は聖人・君子化されすぎている。そこで私は地元の利を活かして、本当の賢治を取り戻そうと渉猟してきた。

『農民文芸十六講』出版後の犬田卯

2016-10-04 10:00:00 | 『賢治、家の光、卯の相似性』
 さて、渋谷の『野良に叫ぶ』が発刊された約3ヶ月後の大正15年10月に犬田卯等は『農民文芸十六講』を出版したことになる訳だが、安藤氏の前掲書によれば
 『農民文芸十六講』という形で「研究会時代の研究結果の集大成」を果たした農民文学運動は「それと前後して、会員の数はいよいよ増し、また会員諸氏は単なる研究という範囲から一歩進んで、各自の制作――小説、評論、詩等を世間的に発表するようにな」る(「農民文芸会略史」――『農民』創刊号」)わけだが、この成立の過程で中枢部はプロレタリア文学とは一線を画し、反マルクス、反都市、反近代という性格を形成する。それは裏を返せば農民主義、農民中心主義という性格付を行ったことを意味する。しかし、まだまだ寄り集まり的性格を有しながら機関誌『農民』発行へと運動は進んでいく。
<『犬田卯の思想と文学』(安藤義道著、筑波書林)41pより>
ということである。この機関誌『農民』の発行はほぼ実質犬田による農民文学運動の一つと言い換えても良さそうであり、彼がリーダーとなって農民を啓蒙せんがために『農民』の発行は続けられていったと考えてもそれほど間違いではなさそうだ。
 因みに、機関誌『農民』等を発行母体によって区分けすると、
 第一期(1927,10~10,6) 『農民』(農民文芸会、編集者犬田卯) 9冊
 第二期(1928,8~28,9) 『農民』(農民自治会、編集者竹内愛国) 2冊
 第三期(1929,4~32,1) 『農民』(全国農民芸術連盟―農民自治文化連盟、編集者鑓田研一・犬田卯) 32冊
 第四期(1932,2~32,9) 『農本社会』(農本連盟、編集者河野康・森田重次郎) 7冊
 第五期(1932,11~33,9) 『農民』(農民作家同盟、編集者犬田卯) 8冊
のようになると安藤氏は前掲書において分析している。
 そして、この〝期〟が下るにつれてますます犬田卯は「プロレタリア文学とは一線を画し、反マルクス、反都市、反近代」の傾向を強め、さらには「反インテリ」も明確にしていったと、同じく前掲書の中で安藤氏は述べている。そしてついにこの機関誌は「三三年九月号で消え、農民文学運動はこの後、有馬頼寧の後援のもとファシズム協力の〝農民文学懇話会〟と姿を変え」ていった、とも。
 ただし、犬田卯自身はこの〝農民文学懇話会〟への参加は拒否し、持病のゼンソクの悪化もあって昭和10年7月に東京から引き上げて故郷牛久に戻り、屋敷を開墾しながら自給自足の生活をしたということである。

 続きへ
前へ 
 “『賢治、家の光、卯の相似性』の目次”へ
  ”検証「羅須地人協会時代」”のトップに戻る。

《鈴木 守著作案内》
◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 500円、税込)が出来しました。
 本書は『宮沢賢治イーハトーブ館』にて販売しております。
 あるいは、次の方法でもご購入いただけます。
 まず、葉書か電話にて下記にその旨をご連絡していただければ最初に本書を郵送いたします。到着後、その代金として500円、送料180円、計680円分の郵便切手をお送り下さい。
       〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木 守    電話 0198-24-9813
 ☆『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』                  ☆『宮澤賢治と高瀬露』(上田哲との共著)

 なお、既刊『羅須地人協会の真実―賢治昭和二年の上京―』、『宮澤賢治と高瀬露』につきましても同様ですが、こちらの場合はそれぞれ1,000円分(送料込)の郵便切手をお送り下さい。
 ☆『賢治と一緒に暮らした男-千葉恭を尋ねて-』        ☆『羅須地人協会の真実-賢治昭和2年の上京-』      ☆『羅須地人協会の終焉-その真実-』

◇ 拙ブログ〝検証「羅須地人協会時代」〟において、各書の中身そのままで掲載をしています。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿