鉄人 須藤 將のホームページ

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ロータリーエンジンとモータースポーツ その52

2009-09-13 06:38:02 | 車・バイク
1991年用の4ローターR26Bレーシングエンジンの基本テーマは、マキシマムパワーよりレスポンス重視の中低速トルクの向上、燃費向上、信頼性アップの3点であった。
中低速トルクの向上は、インジェクション・マニホールドに、175mm上下にスライドするエアーファンネルを設け、エアーファンネルの長さを回転数に同調させて変化させるシステムやセミダイレクト燃料噴射の改善によって、最高出力700ps/9000rpmはそのままに、最大トルクを62kg-m/6500rpmに増大し、中低速トルクの向上を図った。
燃費向上は、エンジン制御コンピューターによる空燃比のきめ細かな調整や点火時期制御のチューニングをおこなったが2~3%の向上にとどまった。
信頼性アップでは、サイド・ハウジングの強度アップ、エギゾースト・マニホールドとパイプの形状、熱害対策、振動・排圧を考慮した対策を施した。
さらに、正確な燃焼制御を行うことが目的のフィードバック制御システムが採用され、排気ガス分析情報で燃焼の最適化が図られた。
前年は、エンジン・マネージメント・システムなどエンジン関係の開発に足を引っ張られて、十分な車両の開発ができなかったが、今年は、その反省から重点的に車両の開発がフォローされた。

こうした車両の開発と並行して、横浜研究所では前年採用したマツダ独自の車両マネージメントシステムの改良が行なわれていた。前年のシステムでは6パラメーターであったものが、最大37パラメーターをモニターできるものになった。12のパラメーター・データーは、暗号化されてテレメーターで毎秒1回、走行中の車両からピットに送信される。8のパラメーター・データーはピット前を車両が通過するときに光通信システムでピットに送信され、残りのパラメーター・データーは、ピットストップ時にダウンロードされる。こうしたデーター通信は車両ごとに専用チャネルで行なわれる。ピット内のディスプレイにはレース中の車両の状況をリアルタイムに画像で表示することができる。

マツダ本社では、小早川主査の指示で、シャシー設計部にもル・マン・タスクチームが結成された。エンジンだけでなく、車両全体としての信頼性・性能を確保することがル・マン優勝には不可欠であるという松浦の主張に小早川主査が賛同した結果であった。
リーダーとして貴島を小早川主査は任命した。
貴島の下に、10数名のメンバーが結成された。
貴島は、ドライバーのデュドネからリヤ回りが不安定でコーナーを速く走れない、アンダーステアーかと思えばオーバーステアーになって、マシーンの挙動がが落ち着かないということを聞いた。
貴島は、ボディ剛性の不足が原因と予測した。スタッフと共に787のモノコックの解析をクレイのスーパーコンピューターで行った。やはり捩じり剛性の不足が明らかになった。
解析にあたり、787のモノコックはカーボン・ファイバーが用いられており、量産の鉄板と異なるため入力データーの作成に苦労があった。
レーシングミッドシップでは、エンジンが構造体として扱われている。ロータリーエンジンは、構造上レシプロエンジンのような捩じり剛性を確保できない。
エンジンをマウントしているあたりの捩じり剛性の中心がエンジン上部にある。これはエンジンの下部の剛性が不足していることに起因する。
これが、サスペンションの取り付け部に影響していることが判明した。これを防ぐために、エンジンを支えるストラットバーを左右に2本配置することにした。このストラットバーがボディーアンダーを流れる空気を乱すことと、トラブル時にアンダーカウルを外すのに時間がかかることが問題となった。翼断面形状の採用と、優勝を狙うマシーンがエンジントラブルを起こすようなことがあってはならないとの判断で採用された。これにより、マシーンの挙動は安定した。

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