LHCのメカニズムですが、1周27キロの超伝導の加速管があって、その中を陽子がグルグル回っています。加速管は1本15メートルで、全部で1232本がつなげられています。加速装置は長さ6メートルほどで、8個設置されています。 pic.twitter.com/6UvfwSju0P
プラスとマイナスの電極を交互に置いて、陽子が通りすぎた時に電荷を逆にすればよいのです。テレビのVHFの3倍程度にあたる400メガヘルツの高周波で、チャカチャカと切り替えているだけです。だから、加速の仕組みは、実はそれほど大したシステムではありません。
1周で加速するエネルギーはたかだか16MeV(メガ電子ボルト)です。小さなエネルギーですが
毎秒1万回転するので、毎秒0.1TeV(テラ電子ボルト)ずつ加速することになり、10分もしないうちにエネルギーを高くできます。
塵も積もれば山となる方式の加速をしているわけで、これが円形加速器のメリットです。実は、陽子をいきなりLHCで最高速度まで加速しているのではなく、マニュアル車のように5段階切り替えで加速していきます。最初がライナックという直線の加速器で250MeVまで加速し、
次にブースターと呼ばれる円形加速器で1GeVまで加速します。このPSをひと回り大きくしたのが、4番目のスーパープロトンシンクロトロン(SPS)です。これは、1983年にW粒子やZ粒子を発見し、カルロ・ルビアらがノーベル物理学賞を取った加速器です。円周5キロの円形加速器で回して
450GeVまで加速し、最後にLHCで7TeVまで加速するのです。
LEPのような電子・陽電子衝突型加速器の場合、加速器を円形にすると電子は曲がりますが、光は曲がらずにまっすぐ行ってしまい、エネルギーが失われるため、加速器の規模に限界があります。リニア・コライダーと呼ばれる直線の加速器にすれば、光でエネルギーを失うことはありませんが、今度は
1回で加速するシステムを構築するのが大変です。LHCのような陽子衝突型の円形加速器の場合は、そういう心配はまったくありませんが、大変なのは、陽子を曲げることです。粒子を曲げること自体は簡単で、フレミングの左手の法則にしたがって磁場をかけるだけでよいのです。
中指が陽子の進む方向で、人差し指の方向つまり上向きに磁場をかければ、陽子は親指の方向つまり左に曲がっていきます。同じように下向きに磁場をかければ、陽子は右にまがっていきます。ただし、陽子は重いうえに、加速した陽子は7TeVという高いエネルギーを持ちます。
こればショウジョウバエがブーンと飛んでいるのと同じぐらいのエネルギーです。何だそれくらいかと思われるかもしれませんが、一個の水素原子がショウジョウバエと同じぐらいのエネルギーを持ち、光に近いスピードで走っているわけですから、そう簡単に曲げられません。非常に強い磁石が必要です。
このため、超伝導の磁石に約1万アンペアの電流を流して、陽子を曲げるのです。