初恋~彩

2008年11月23日 23時39分01秒 | Weblog

「おーい! クラス替えの掲示、もう見た? 俺たち、また、同じクラスだぜ~。まぁ・・・一年間、よろしく!」

2組の教室前で、大声で叫ぶ淳の声に、私はどうしても動悸を抑えられない。

どうしてあんなに声を張り上げて・・・みんなが見てるじゃない。恥ずかしいったら、無いんだから。

私と真紀は、5組からクラス替えの発表を見て回っていた。

大抵の子は、1組からチェックしている。混雑を避ける為だった。

淳が言った事は、本当だろうか? 本当なら、もう4組、3組とチェックする必要などない。このまま、2組の教室へ向かえばいいのだ。

(まぁ・・・一年間、よろしく!)

また、同じクラスなんだ・・・・。

淳のことは、嫌いじゃない。

嫌いではないが、淳がいると、落ち着いて過ごせそうに無い。

小学校の頃は良かった。自然に話せて。男子の中でも淳は、比較的、気軽に彩に話しかけてきて、話しやすい方だった、と思う。

だった・・・思う・・・というのは、今では、そうではないからだ。話しやすい相手だった事は、過去の話で、中学へ入ってからは、なるべくなら目を合わせたくは無い存在だった。

例えば、こんなこともあったっけ・・・。

「あっ!」

ある日、淳は、こともあろうか、私の描きかけの風景画のデッサンを取り上げたのだ。

「いいんじゃない? これって・・・もしかして、あの校庭?」

何するのよ! という言葉が スイとは出てこない。

ただ呆気に取られて淳を眺めているだけだった。

淳は隣の席に座っている男子に話しかける。

「彩はさ・・・自分の絵は見られても、人のは無理矢理、見ようとはしないやろ? そこが彩の魅力っちゃ」

何? 今、淳は何って言った?

そこが―?

彩の―?

みりょく???

 

うんうん、と頬の筋肉を緩めながら頷く男子と、満足げな笑みを浮かべる淳の顔を交互に眺める。

私の絵、返して! と言いたくて。

私としては言ったつもりでも、ちゃんと声にはなってはいないようだ。

二人の男子は相変わらず頷き合って、私の顔と絵を見比べていた。

「ほれ! そんなに真っ赤にならなくても・・・」

ようやく自分の机に戻された絵に視線を落とし、私は息を吸い込んだ。

呼吸を止めていたんだろうか?

危うく酸欠で倒れる所だったよ!

言いたいことの半分はおろか、十分の一も言葉に出来ずにいた。

何でも言い返せた小学校時代は 何処へ行ってしまったのだろう。

淳は相変わらず、からかってばかり。

なのに自分は何も言い返せない。こんな不公平なことがあるだろうか。

淳と一緒のクラスで、落ち着いて一年を過ごすなんて。

到底できないな・・・。

 

全身が心臓にでも化けてしまったかのような、硬直した状態で、3組の掲示板前に立ったままでいた。

(また・・・あんな騒々しい一年を過ごすんだ、淳くんと・・・あ~ぁ・・・私はがっかりしてる。そうよ! がっかりしてるんだからっ!)

「彩! 淳が言う通りだよ。私達、みんな2組だ。行こっか!」

真紀の声にハッとする。

「う・・・・うん」

教室へ入ると、窓際に立ち、校庭を見下ろしている淳の姿が目に飛び込んできた。

私の気配を一瞬で感じ取ったかのように、淳がゆっくりと振り返る。

古い映画のワンシーンのスローモーションのように・・・なんていったら、大袈裟かな。

窓から差し込む光を浴びて、微笑みかけた淳が、ほんの一瞬、カッコよく見えたから、不思議。

「よっ! 彩! 遂に観念して教室へ入って来たか」

窓の外を眺めていた淳の横顔は、何故か真剣だったのに、私に目を向けると、にやっと、いたずらっ子のように笑ってみせた。

(あれは、目の錯覚だ、うん)

でも・・・・。

からかわれても、今回は嫌な気がしなかった。

いつか、小学校の頃のように、緊張しないで普通に会話出来る日って、くる?

ねっ?

来ると思う?

淳くん・・・?

 

おわり

 

 


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6 コメント

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Unknown (zenpeichan)
2008-11-24 20:31:28
登場人物のキャラが面白いですね。
すずさんの実生活はどうなんだろう・・・
なんて思いながら読ませていただきました。
zenpeichanさんへ (すず)
2008-11-24 22:55:09
コメントありがとうございます。

>すずさんの実生活はどうなんだろう・・・

私の実生活は、いつものブログの通りでございます。
最近、あまり職場のことは書いていませんが、これまで読んで頂いたとおり・・・といってもいいですよ。
こっちに移動 (ちえこ)
2008-11-25 10:11:36
あれ?
すずちゃんの作品が…消えちゃったと思いました^^
すずちゃんはいつも文章がお上手ですね。
お話の中にグングン引き込まれました。
胸がきゅ~ん賭しました。
次回の公募もこれでOKですね。
がんばってくださいね。
ちえこさんへ (すず)
2008-11-25 10:18:54
ずっと公開しておくのは、恥ずかしいですからね・・・・。
今まで余り小説は読んでこなかったのですが、(よしもとばなな、林真理子といった、お気に入りの作家だけ・・・後は歴史に関する本)
この一年ほど、小説を意識して読むようになりました。
読めば読むほど・・・書けば書くほど・・・
自信を失くします・・・。
公募は私には関係ないんだけど・・・
みたいな感覚までテンション下がってしまいました。
これが正直な今の心境なんです。
でも、ブログだけは続けていこうと、思っています。
大丈夫よ (ちえこ)
2008-11-26 09:34:03
すずちゃんの文章力は大丈夫よ。
初恋だって引き込まれますもの。
自信ねぇ~

私の心は日を追うごとに奈落の底に落ちて行きます。
人に伝えるようなものを書くのは私には無理なのね、と悟りを得ました。
私は飯炊き婆がお似合いだと強くわかりましたよ。

ちえこさんへ (すず)
2008-11-27 00:32:03
次の刊行も決まっていて、しっかりと前へ進んでいらっしゃるではありませんか!
お料理本も出版出来そうな ちえこさん。
このまま、執筆活動も頑張って下さい。

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