初恋~ありがとう~

2008年11月30日 23時38分12秒 | Weblog

街中がクリスマス一色になる頃、学期末試験の結果も出て、いよいよ冬休みが始まる。ジングルベルがデパートから聞こえてくる頃って、一年で、一番楽しい時期かもしれない。勿論、この年齢で、サンタさんを信じている訳じゃないけれど、なんとなく・・・うきうきした気分になるのは私だけじゃないと思う。

だって、クリスマスケーキも食べるでしょ? それに、冬休みだもん。寒い中、中学へ登校しなくてもいいし、家族と一緒に年末やお正月番組を観ながら、こたつで丸くなっていたい。

あと、数日で終業式という日の朝、私と真紀が一緒に登校すると、クラスの女子が淳くんを取り囲んで何やら騒いでいるのが目に入った。気のせいか、淳の顔が赤く紅潮している。

又ぁ~! 先生にナイショで見ちゃいけない雑誌とか・・・自宅から持参したんだろうか。最近の淳は、とにかく目立ちたがり屋で、皆の注目を集めやすい。

わざと悪ぶっている気さえする。暇さえあれば女子をからかうのも・・・小学生の頃と変わらない。 でも・・・・ね。 ちゃんと分かっているから、私。 修学旅行のバスの席順を決める時、「彩は乗り物酔いするなら、一番前の窓際がいいんじゃないかなー」って、さりげなく先生に忠告してくれたこと。 今でも忘れない。 あの時も、ほんの一分前は隣の席の子をからかっていたのに。肝心なところは、ちゃんと聴いていて、優しい心遣いを忘れない。 それをさりげな~く、何でもないことのように言うんだから・・・。 憎いといえば、憎い。 でも、優しいの。 悪ガキだけど。

今回の騒ぎ? もきっと、そんなことなんだろう。私は何も言わずに席に着いた。私がバックの中身を取り出すのと、担任の先生が教室へ入ってくるのとは、ほぼ、同時だった。

今日の日直が号令をかける。全員が起立し、一礼する。

「おはようございます」

「着席!」

いつもの朝の日課だ。 今日の日直は、淳だったんだね。 何度聞いても・・・彼の声は良く透る。 あと、何回くらい、この号令を彼の声で聞けるだろう。あと、4回くらい? 回ってくるかなぁ、日直。

「今朝のホームルームでは・・・まず、みんなに知らせなきゃいけないことがある」

先生は、一旦、ここで言葉を切ると、淳の方へ向き直る。

「淳、いいか? ここで今朝、発表しても・・・?」

一体、何事なんだろう・・・? 何か入選でもしたのだろうか? 先日の美術で描いた風景画とか・・・? 先生は・・・真剣だ。私は淳の顔をちらっと見た後、再び先生の方を見る。 淳は真面目な顔で、担任に向かって、こくんと頷いただけだ。

教室中が、ざわめき始めた。 先程、淳を取り囲んでいた女子達が何か、ささやきあっている。

いつからって? 遠いの? そんな単語が耳に届き、次第に鼓動が早くなっていくのを感じていた。 先生、何をもったいぶっているの? 早く、話して!

「静かに!」

「・・・・・・・」

私は斜め後ろに座っている淳へ再び視線を走らせた。 いつになく、真剣に先生の顔をじっと見ている。

「一部のみんなは、もう、本人から聞いて、知っていると思うが・・・」

私は何も聞いてはいない。 何なの? 一体? 淳がどうしたっていうの? 次々に浮かんでくる疑問。

「淳は今学期限りで転校するそうだ。お父さんの急な転勤が決まったらしい。残りの二日間、悔いのないよう仲良くするように。 以上」

何? 今、先生は・・・何て・・・言った? 転校って・・・誰が・・・・? 淳のお父さんが転勤? 私のお父さんじゃなくて? 転勤族は、うちなんだよ! 淳くんの家が引っ越すの? だから、転校なの? 嘘だ。 だって、ずっと一年間、同じクラスだねって。腐れ縁だって、淳くん、笑ってたじゃない?

先生が教室を去ったあと、教室中は、いつも以上に ざわついていた。

クラスメイトが一斉に、淳の席へ集まる。

ただ、一人・・・。

私だけは・・・思考停止したかのように、身動き一つせず、いや、出来ず、着席したままだった・・・・・。

その日は一日、淳とは一言も言葉を交わしてはいない。 いつも、人のことをからかってばかりいる彼なのに、全く話しかけてこない。翌日も、そうだった。最後の日なのに、結局、何も話せなかった。 声をかけることも、顔だってまともに見ることすら出来ずに昼休みも終わろうとしていた・・・。

「彩! これなんだけど・・・」

真紀が私の机の上に置いた、一枚の色紙。 そこには、クラスメイトたちの『お別れの言葉』が書かれてある。

「最初は、男子だけで・・・ってことだったらしいんだけどね。 アイツ、あれで結構、女子にもモテたんだね。知らんかったわ。私も一言、書きたいって女子、多くてね。結局、クラスの女子、殆ど一言メッセを書いたわけよ。 彩も折角だから、書きな! いつも、淳に何か言われて嫌がってたみたいだけどさぁ。 あっ、嫌ならいいよ。 でも、書かなきゃ、かえって目立つかなーとも思って。 どうする? やめとく?」

色紙へ視線を落としたまま、無言でいる私のことを 嫌がっているんだと真紀は判断したのだろう。

無理強いはしないから・・・と、色紙を手にし、立ち去ろうとした・・・そのとき。

何処から声が出たんだろう、と後になって思うほど大きな声で、立ち去ろうとする真紀を止めた。

「待って、真紀! 私も書くよ」

真紀は振り返ると、意外そうに瞬きしながら私を見た。

「分かった、じゃ、渡しとくね。 形式的でいいよ。みんな、お元気で、とか、新しい学校でも頑張って下さい、とか。そんな風に 当たり障りの無いことを書いてるからね」

「うん」

私が義理で書く決心をした・・・とでも思ったんだろうか、真紀は。 いつも、彼のこと、嫌がってたからね、私。 どちらかといえば、彼を避けていた。

でも、違うんだ。 ほんとは、そうじゃなくて―。

考える必要は無かった。 何が言いたいか、分かっている。

ただ、勇気が無かった。 そう、勇気が・・・・無い。

サインペンを持つ手が震える。 下手な字が益々醜くなってしまう。

それでも・・・最後くらい、素直になりたかった。

そう、今日まで一度も素直になんて、慣れなかったから。

 

「2組のみんなを忘れないでね! 彩」

 

勇気を出して―

色紙に書いた、

そんな一行。

 

そう・・・・。

忘れないで欲しい。このクラスの、みんなのことを。

そして、そして・・・・。

私のことを・・・・。

ほんとはね、こう書きたかったの。

私のことを忘れないで って。

遠くへ行っても忘れないでね、って。

ほんのメモ程度でいいから、覚えていてねって。

次の休み時間、色紙を受け取りに来た女子は、私が書いた一行を見て、目を丸くした。

「ね、これって・・・・?」

「え~? 彩が書いたの? 信じられないなー」

形式ではない・・・友達ことば。

思い切ったことをした・・・と、自分でも思う。

 

冬休みに入り、美味しい筈のクリスマスケーキの味は、なんだか塩味がして湿っぽくて。 レコード大賞も誰が取ったか、紅白のトリは誰だったかすら、今は覚えていない。 こたつで丸くなって、時々、思い出しては泣いていた。 明日から新学期。

でも、居ないんだ。 淳くんは・・・・。

一年間、宜しく! と言っていた人は・・・・。

 

真紀の自宅のチャイムを鳴らす。

「彩、悪いんだけど、先に行っていて! 寝坊しちゃったから、私」

「あ、ごめん。私が早くきすぎちゃった」

新学期の朝は、どういうわけか、早く目が覚めて、自宅を出た時間も いつもより10分も早かった。

しーんとした廊下を一人、歩く。 木造2階建ての古い校舎は、ぎしっ、ぎしっと私の体重がかかる度に鈍い音を立てて、きしむ。 まだ、誰も教室には居ないようだ。

淳くんと別れた教室。

彼の机にそっと、触れた後、自分の席に静かに座る。

そして顔を上げる。

目の前の光景を見て、思わず息を呑んだ。

黒板だ!

黒板いっぱいに・・・・文字が書かれてある!

 

 2年2組のみなさんへ

突然 転校することになったけど、みんなと過ごせて楽しかった。

ほんとに、ほんとうに、

ありがとう。

2組の みんなのことは、決して忘れません。

             淳

 

2組の・・・みんなのことは・・・・決して・・・忘れません・・・・。

ほんとうに?

本当に、淳くん・・・・?

私は線が引かれた最後の一行を何度も、何度も読み返した。

 

みんなが下校したあと、淳くんは、一人、ここに残って、メッセージを書いてくれたんだ。 どんな気持ちでこれを・・・? こんなに上手な字だったんだ。大人が書いたみたいじゃない。恥ずかしいよ、私。あんな下手な字で色紙に書いちゃって。

何だか、温かいものが後から、あとから頬を伝って流れ落ちる。

わけも分からず、わーっと何かが胸に押し寄せては溢れてく・・・。

ありがとう。 ほんとに・・・ありがとう。

そして・・・・さよなら、淳くん。 最後に そっと認めるね。 ほんとは好きだったって。

ずっと、好きだったって。

からかわれても、ちっとも嫌じゃなかったよって。

もう、会えないって分かってるけど、今、認めるから。

遅すぎるけど・・・好き、だった。

さよなら、

私の初恋。

おわり

 

 

 

 


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2 コメント

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(。・ω・)ノ゛ コンチャ♪ (あき)
2008-12-01 14:22:52
すずさん こんにちわ

お布団を干したんですね
フカフカになって気持ちがいいですよね
私も干したてのお布団は大好きです
童心に戻れましたか?

お母様との大切な思い出ですね^^
あきさんへ (すず)
2008-12-02 09:51:51
はい、良い思いでです。
干したてのお布団って、気持ちよく眠れますよね。母の愛情を感じます。

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