豪華な花束より小さなブーケ 時代を映した新規格、生産地にも恩恵
花の生産地に変化が起きている。きっかけは4年前、切り花の長さに新しい規格ができたことだ。豪華な花束から小さなブーケへ。需要の変化に対応するためだったが、思わぬ好循環も生まれた。 【写真】10センチ短い規格のおかげで、生産地では「今までに絶対なかった光景」が見られるように 切り花の値段は、市場の競りで決められる。その基準は長さと質。例えば小菊の場合、以前は長さ80~90センチがランク上位「秀」の条件で、そこから段階式に値段が下がっていった。40年前ごろから、業界の慣行として続いてきたという。 2019年、卸最大手の「大田花き」(東京都大田区)などで作る「フラワー需給マッチング協議会」が、従来より短い「スマートフラワー」といわれる規格を作った。スマートという言葉には、無駄を無くすという意味を込めた。小菊の場合は70センチだ。 背景には、消費者のニーズの変化がある。バブル時代は、プロポーズにバラ、誕生日にはカサブランカの花束を贈るのが「憧れ」とされ、銀座のクラブにはコチョウランが並べられた。葬式では、大きな祭壇に花が飾られた。 ■豪華で高価な花より、野に生えた草花を 「大田花き花の生活研究所」の桐生進所長によると、最近は豪華で高価な花より、スイートピーやヒメヒマワリなどが好まれる。さらには、野に生えている小さな草花を家に飾りたいという人も多いという。「家族だけで結婚式や葬式をする人も多い。主役が家から個人に移って彩り方も変わり、ライフスタイルの変化に合わせて売り方も多角的になってきた」と話す。 大田花き営業本部の大西克典副本部長によると、リンドウやキキョウなど、長さよりも品質が重視される花もあるが、生産者は「長くて立派なものをつくって評価されたい」という意識で花を育てるため、1本あたりの単価が重視されてきたという。ただ、それではスーパーなど、同じ品質で、決められた量を定期的にほしいと考える顧客には対応しにくい。最近は、スーパーから短く切ってほしいと依頼を受けることも増えていたという。 ■スーパーで買う人も増加 消費者の新たな開拓へ 大田花きのまとめでは、切り花の購入先は94年には花屋が7割、スーパーが1割ほどだったが、19年には両者が3割強で拮抗(きっこう)している。農林水産省の作況調査によると、切り花の出荷量はピーク時の96年の57・5億本から、21年は32・4億本に減った。従来の規格を保ちつつ、新規格の追加で販売先の需要に応え、消費者を開拓する狙いがあるという。 消費者の購入代金には、不要な枝や葉を捨てる費用も含まれていたが、こうした無駄がなくなった。生産地からは短い花も出荷できるようになり、葉を落とすため、箱に詰められる量も増えた。輸送コストも減ったという。(江戸川夏樹)
朝日新聞社
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