さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

ムラサキニガナ

2012-08-18 08:36:57 | 花草木


ムラサキニガナの花を今年初めて見かけたのはもう2ヶ月ほども前のことだ。梅雨時の湿った林の下でその薄暗さに溶け込むように小さな花が咲いていた。花の径は1cmほど、淡くほんのりとした紫色、そろってうつむいて密やかではかなげな感じがする。



花を持ち上げて中を覗いてみる。細い筒が何本も見える。筒は雄しべがくっついたもの、その中を雌しべが突き抜けて先端から二又になって出ている。これはキク科の特徴で、この花はこんな貧弱に見えてもキクの仲間だった。普通のキクだと小花は何十あるいは百以上もあって豪華な感じだが、この花ではわずか12個ほどしかない。筒状花はなく舌状花だけが不規則に束ねられている。



花粉をいっぱいつけた雌しべが並んでいる。こんな地味な花にも来る虫はいるようで、虫の止まった刺激で雄しべ筒が縮んで、内側の花粉が雌しべによって掻き出されたのだ。小さくてもキク科の花の原理はしっかり働いている。



赤紫のきれいな色の花もあった。これは花びらではなく位置からして総苞ということだろう。根元近くに瓦状に重なったものと、その内側にすっときれいに伸びたものと2種類ある。後者は一色に濃く塗られたものと白く縁取りされたものと交互に並んでいる。なかなか芸が細かいなと感心する。



今頃の時期はもうほとんど花は終わり小さな綿帽子になっている。これを見ると確かにタンポポと同じ仲間だなと思う。綿の量はぐっと少ないがこれはこれで線香花火のようできれいだ。黒い種のように見えるものは実際は果実で、柔らかい果肉はないが黒い果皮に包まれその中に種子が入っている。同じように見えてもトウワタの場合は種子そのものがむき出しになっていた。



花はうつむいて咲いていたが種ができる頃は上を向く。そうして風をとらえようとしているのだ。中には枯れ残った長い総苞片で押さえ込まれてちゃんと開けないのがあった。いやこういうのが結構多いのだ。それでも風が吹くと隙間からこぼれるように一つ二つと種は飛び立っていく。



ムラサキニガナは葉が面白い。何か大根の葉かあるいは昔のほうれん草を思い出す。結構大きく、暗い林の中で見かけるといったい何が出たかと驚くくらいだ。茎はここからまっすぐに出て、ひょろひょろ1mくらいにも伸び、その先に小さな花を散漫に付ける。花は午後になると閉じるし天気が悪いと開かない。それでもこの独特の葉を覚えておけば見落としはしないだろう。全国に分布し珍しくはないそうだがなぜか今まであまり見た覚えがなかった。指宿では市街地の外れの林の崖に点々と咲いている。