さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

ダイコンソウ

2012-08-24 09:42:33 | 花草木


いささか不揃いでいびつな丸い花びらが5枚並んでいる。子供が花を描くとよくこんな絵になる。しかしその真ん中はいやに込み入っていて複雑な構造だ。そうした不釣合いな対比がなんだか面白い。



黄色の雄しべがたくさんある。雌しべもたくさん、緑の針山のようになっている。この感じはイチゴの花に似ている。実際、どちらも同じバラ科だった。しかしこの花はダイコンソウという関係もなく似ても似つかぬ名前が付けられている。



花が咲き終わって子房が膨らみだす頃、意外なことに花柱がどんどん伸びていく。普通だったら役目を終えて、花びらや雄しべと共に枯れ落ちていくところだが。そしてよく見るとその先端がとんでもない形になっている。くるりと曲がり、さらに反転してS字状を描いているのだ。こんなものは他の花でまず見た覚えがない。これはいったい何のためだろう。



さらに果実の成熟が進むと、先端は見事なカギ型になっている。これで動物の毛などに引っ掛かって遠くに運んでもらう仕組みだ。ではどのようにしてこんな形状になったかというとS字状の真ん中の変曲点あたりで、先の方が枯れてぽろっと落ちたのだった。すると残った部分は当然カギ型になるわけだ。ではなぜ最初からカギ型にしなかったのだろう。一説では先の部分はキャップの役目で、果実が成熟するまで引っかかったりしないようカギを塞いでいるとのことだ。しかしそれならカギを柔らかくしておくとか、曲がりを調整するとかもっと簡単な方法があるはずだ。最初はまっすぐにしておいて成熟するにつれ曲げていけばいいし、あるいは逆に円になるほど曲げておいて、後でだんだん開いて引っかかりやすい角度に調整する手もある。わざわざこんな余分なものを作って捨てるなど、自然はずいぶん気まぐれなことをするなと思ってしまう。



ダイコンソウの花は全くダイコンに似ていないし根も太くなるわけでもない。ではなぜダイコンソウかというとこの根生葉が似ているとのことだ。確かに二十日大根などこんな感じの葉が出ていた覚えがある。しかしわざわざこんなところに目をつけなくとも、果実の形など極めて個性的な特徴があるのにと思うのだが。まあ昔の人は食べ物のことで頭がいっぱいだったのかもしれない。



ダイコンソウは山野の少し日陰の湿ったところに群生する。膝か腰くらいの高さに、いささかだらしない感じに伸びてまばらに花をつける。遠目にはウマノアシガタやキツネノボタンなどと似ている。生えている所もほぼ同じだし黄色の5弁花というのも共通していてトゲトゲの球状果も似ている。しかしそれらはキンポウゲ科でずいぶん縁遠い。ウマノアシガタは花びらに艶があってしかもたくさん咲くからあたり一面黄金色に染まって感動的だ。それが咲き終わる頃ダイコンソウが咲き出すので、一見さえない残り花かと思ってしまう。しかし本当は独特の仕組みを秘めた個性的な花なのだった。

ダイコンソウは日本全土に普通だがなぜか屋久島には無かった。ここからは海の向こうに遠望できるほど近く気候も似ていて、それにわずか数万年前まで陸続きだったはずなのだが。屋久島にはこうした当たり前のものが無い例は他にもいくつもある。それに対し指宿では、昔懐かしいものなどたいてい何でもあるのでほっとする。