さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

キンミズヒキ

2012-08-12 09:43:08 | 花草木


山に行くと林道脇にキンミズヒキが花盛りだった。といっても大きさは1cmかそこら、花穂は長く伸びてはいてもただ黄色一色、あまり目に留める人もいそうにない。しかしよく見ればほうっと感心するくらいにきれいな整った花だ。ぎっしり咲いている様はまるで満開の桜を思わせる。実際これらは同じバラ科だった。



普通はもう少し小ぶりで花びらの幅も狭いが、ここではなかなか立派な花が咲いていた。真ん中に丸く盛り上がった子房が目立つ。頂上から雌しべが2本出ている。脇からはたくさんの雄しべが放射状に弾かれたように飛び出している。その数は普通は12本くらいらしいが、ここでは18本ほどある。これは変異なのかそれとも環境が良かったりすると数が増えるということだろうか。下の咲き終わりかけた花を見ると雄しべは真ん中に集まって絡まった毛糸玉のようになっている。もしかしたら虫が来なかった時に自家受粉で済ます仕組みなのかもしれない。実際、結実率はかなり高いようだ。



花穂は長く細紐のようだ。この姿がタデ科のミズヒキに似ていて金色なのでキンミズヒキと名付けられたとのことだ。しかしそもそも水引とは進物用の包み紙などを結ぶ細紐でコヨリを固めたものだ。目的によって紅白や白黒、金銀などの色が付けられている。その金色の水引に似ているからキンミズヒキだとしても良いのではないか。似ても似つかぬタデ科の花など、わざわざ本家として持ち出すこともないのにと思う。



キンミズヒキはその果実の姿が面白い。アイスクリームのコーンか何かのような形をして、その縁に棘がびっしり栗のイガのように生えている。これは萼筒と呼ばれ、萼がくっついて円錐状になったものだ。円錐の先の方は5つに別れ普通の萼の形をしている。その境目あたりに、棘がびっしり生えているのだ。こんなものは他でも例があるのか私は知らない。棘は萼の付属物として副萼と呼ばれている。しかし人は名前を付けると安心してしまうのか、残念ながらその起源などさらに言及した文献など見つからなかった。

このよく発達した萼筒は蕾の時からあるのだが、花が終わると目立つようになる。最初は花茎に対し真横を向いているが、果実が成熟するにつれ下向きになる。棘もより大きくなり、先端のカギもしっかりして引っかかりやすくなる。これで通りかかる動物の毛などに絡み付いて遠くに種を運んでもらう仕組みだ。



昔、冬枯れの野で茶色く変色した棘々の塊を見て、こんなとんでもないものが身近にあるのかと驚いたものだった。これとあの黄色の可憐な花と全く結びつかなかった。まだほとんど何も知らなかった頃の新鮮な感動が懐かしい。



キンミズヒキはその葉も面白い。複葉というのは普通は同じくらいの大きさの小葉が規則的に並んでいるものだ。しかしこれは大きかったりひどく小さかったり、そして不規則に、不思議なリズムを刻むかのように並んでいる。さらに面白いことに、付け根には大きな托葉が刀のつばのように平らに広がっている。



キンミズヒキは日本全国どこにもありふれた花で、山がちなところを歩けばだいたい目にする。木陰に小さくそっと咲いていたりするのは可憐で好ましかった。しかしなぜか屋久島では見られず、小ぶりで貧弱なヒメキンミズヒキが少しあるくらいだった。指宿に移って再会できたのはうれしかったが、驚いたことにここでは旺盛に茂って道路にまで侵入していた。まるで迷惑な帰化植物みたいな感じだ。あるいはこのあたりはまだまだ自然度が高く、道路などの環境破壊はかえって良い刺激になるくらいなのかもしれない。