さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

竹山

2012-01-02 11:36:44 | 指宿の自然


薩摩半島の南東端、広々と畑の広がる中にでんと居座っている山がある。山というより巨大な岩が転がっている感じだ。高さは202mとそれほどでもないが、何も無いところににょきっと突っ立ているのでその存在感はすごい。竹が茂っているので竹山と実に素っ気ない名前だが、最近はよくスヌーピー山と紹介されている。確かに漫画の犬の、寝そべって空を仰いで深遠かもしれない瞑想にふけっている姿に似ている。



別な角度からだと全然違う姿になる。巨大な亀が首をもたげてあたりを睥睨して、そのまま数千年の時が過ぎてしまったかのようだ。



この山は指宿近辺のいたるところからその奇怪な姿が眺められる。北東の魚見岳からだと、市街地の向こうに山水画の世界が広がっているかのようだ。たまたま前の山が、二つの影が重なって濃くなった部分のように見えるので、いっそう絵のような感じがする。



近くを通る国道あたりからはたいていこんな眺めだ。この山が海岸にあり陸の輪郭になっていることが判る。その続きにぽつんと小島がある。俣川洲(またごし)と呼ばれる高さ4.4mほどの岩で、横の方に小舟が通れるくらいの洞が開いているそうだ。



海岸に回ってみるとすさまじいほどの断崖絶壁だった。高温の温泉があちこちから湧き出し、海に注いでもうもうと蒸気が沸き起こっている。ここは山川温泉場で、景色の良さとすな蒸し温泉で知られている。またこの近くに地熱発電所があるが、実はその蒸気・熱水の元もこの山の下にあるのだそうだ。



このあたりの光景は屋久島に行く船からも見える。初めて屋久島に行った時、開聞岳を始めとした薩摩半島南端の絶景奇勝には驚かされた。いつかあそこに行ってみたいと思ったものだった。それから10年も経ずに、まさかそのすぐ近くに住むことになろうとは夢にも思わなかった。

竹山も俣川洲もマグマがその通り道で冷えて固まったものだそうで火山岩頸(かざんがんけい)と呼ばれている。当然地下にあったのだが、長年の間にまわりの岩は浸食されてなくなり、硬い火山岩部分だけが残った。ところでマグマの通り道が地面にまで達すれば噴火して火山になる。もしかするとここにはこの山よりはるかに高い火山があったのだろうか。また通り道の長さは数キロとかあるはずだから、初めの頃の竹山は巨大な電信柱のように突っ立ていたのだろうか。そのうち先っぽの方は浸食されてしまったのか、それとも途中でぽっきり折れたのか。この近くに丸太のような岩が横たわっている地形があると面白いのだが。



山に登ってみる。下の方は竹と照葉樹林がうっそと茂って普通の里山の感じだ。地質学的にはわずかな時間だが、たくましい植物たちはもう岩を土に変えてしまっていた。



山頂は風雨にさらされ、がらがらになっている。その割れ目に根を下ろし、垂直近い岩場にへばりついているのはソテツだ。このあたりは自生地の北限だそうでしかもこの環境でよくもまあと思う。ソテツは進化に取り残されたような植物だが、競争に敗れてこんなところに追いやられたのか。ここなら進化した連中など入って来れそうにない。おそらく鳥や風がたくさんの種類の種を運んでくるのだろうが、ここで生きていけるのはソテツだけのようだ。



中腹の岩のくぼみに小さな神社がある。しっかり手入れされていて真新しい国旗と注連縄に飾られている。麓にもっと大きな神社があるが、それは山が崩れて危険になってきたので下ろしたものだそうだ。しかしここまで道はしっかり付いているから、今でもこの奥宮に参拝に来る人はかなりいるようだ。



奥宮近くから下界を眺める。絶壁の下に山川温泉の湯煙が上がる。湾がきれいな弧を描いてその先端は長崎鼻、その向こうに開聞岳がそびえている。悠久の大地とよく言われる。しかしこの竹山はできてまだ5万年ほど、開聞岳など千年かそこらだそうだ。ここはできては消え揺れ動き変転躍動する生きものさながらの大地だ。昨年、とんでもない地震と津波にこの国は襲われた。ここにいるとそうしたことが当たり前に思えてくる。そんな大地にしがみつくしかない人間。我々もまたあのソテツたちのようにぎりぎりのところにへばりついて、それでもなお健気に生きていくのだと思う。

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