さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

ホトトギス

2012-10-17 09:46:05 | 花草木


ホトトギスの花は豪華だ。白地に赤紫の斑点は薄暗い木陰ではっとするほど目を引く。奥には派手なオレンジ色も見える。そして極めて立体的な構造をしている。そんな花が押し合い圧し合いするほどびっしりと咲く。



この斑点状の縞模様が鳥のホトトギスの胸の模様に似ているのでその名をもらったということだ。確かにこの模様はいささか動物的な感じもする。またホトトギスの雛の喉の中は派手な紅色だがそれも似ているかもしれない。しかしホトトギスの縞模様は濃い灰色でずっと地味だ。またこんな模様はカッコウも同じだし鷹の仲間にもよくある。なぜホトトギスなのかいまひとつ納得がいかない。もしかしたら鳴声がなかなか甲高いので特によく目に付いたということなのだろうか。



大きめの笹のような形の葉が茎の左右にびっしり付いている。あまり間隔がないので互生なのに対生に見えるほどだ。そして花がそれぞれの葉腋から2つづつ出るので茎上にびっしり並ぶことになる。横から見ると3枚の外花被片の根元がこぶになっているのが面白い。この内側に蜜が出ているのだが袋の中にたっぷりたまっているというわけではないそうだ。蕾の形も面白く昔のロケットか砲弾を連想する。それを無理やり押し広げるようにして雄しべ雌しべの噴水のような構造物が現れてくる。



日差しの中でとてもきらきらしている。よく見ると雌しべには水滴のようなものがびっしり付いている。これは腺毛の類だそうだがいったい何のためか。もしかしたら虫を呼ぶために遠くからでも目立つようにした電飾看板のようなものか。



この噴水のような奇妙な形は実はとても理にかなっている。送粉者であるマルハナバチが来て蜜を吸うため花の中に潜り込もうとする。すると背中がちょうど雄しべの葯に触る。そうして背中は花粉まみれになる。



数日もすると斜め上に向いていた雌しべがぐっと曲がって柱頭が葯より下になる。そこにハチが来ると、今度は柱頭がその背中に触る。ハチはたいていほかの花で花粉を付けてきているからそれを受け取ることになるわけだ。マルハナバチは太っちょのハチで、花の隙間はちょっと狭いのでかなり強引にかき分けて入り込む。だから確実に雄しべ雌しべに触れる。もし小さな虫や口の長いチョウなどだったらそうは行かない。しかしなぜかここにはマルハナバチばかりが来ていた。独特な色と形は他の虫には蜜があるようには見えないのだろうか。ところでトケイソウの花もよく似た構造をしている。今、我が家のフェンスでは毎日たくさん咲いて魅力的な香りまで漂わせているが、なぜか虫が近付くのを見たことがない。



さて作戦成功ということか3角柱の果実がにょきにょき立ち並んでいる。花の残骸というのは普通は哀れさを催すものだが、ここでは古い着物を脱ぎ捨てているようで、さっぱりすがすがしい感じがする。



分布は関東あたりから西ということだから暖かいところが好きのようだ。しかし暑すぎるのも苦手のようで、だいたい林の陰の湿ったところに生えている。よく庭などで目にするのは丈夫で暑さに強いタイワンホトトギスだが、花はずっと小さく錆びたような色合いでとてもこんな風情は感じられない。ホトトギスにはどこか神秘的な雰囲気があり、山歩きなどで目にすると感激したものだ。しかし東京近辺ではもっと小さく地味なヤマジノホトトギスなどが普通で、なかなかこの花に出会うことはなかった。ところがここ指宿周辺の山地ではもういたるところ驚くほど群生している。場所によっては最もありふれた雑草と言えるほどだ。ホトトギスの仲間は世界で20種ほどだが分布域が狭くそのうち半分が日本固有種だそうだ。そのため日本原産ではないかと言われているが、このあたりの様子を見るとなるほど彼らの故郷かなという気がしてくる。

コメントを投稿