SUN PATIO

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二・二六の日、古書肆にて

2011-02-26 | 身辺雑記帳
大阪で古書探しをするなら、天神橋筋または中崎町である。
規模は比較に成らぬが、東京の神保町界隈に相当しようか。
そう云えば東京では昨日「春一番」が吹いたらしい。
私が暮らしていた頃も、毎年計ったように
2月25日頃に吹いたのを思い出す。
当日に限って気温が急上昇するものの、翌日以降は
三寒四温の言葉通り天候が推移するのも例年通りであった。

今日は昼前に天神橋筋商店街に立ち寄った。
ここは南北方向に全長2.6キロメートル、
約600店舗を擁する日本一長い商店街だ。
古書の類いを商う店の数は概算で30前後。
それら一軒一軒を丹念に見て廻れば相応に時間を費やすが、
愛書家や古書蒐集家にはこの上ない悦楽であり贅沢だろう。
纏まった金銭は有るのに纏まった時間が取れぬ、若しくは
その逆の状態は過去に幾度となく経験しているけれども、
古書たちは歴年の時を吸って其所此所に残り続ける。
日焼けした背表紙を書棚から抜き出す刹那にも、
経年で黄ばんだ函から本体を引っ張り出す間にも、
また、微かに黴の臭い立つ頁を繰る際にも、
視えない“時の砂”が沙羅沙羅と音を立てて流れ出す。

とある古書肆の天井まで届く書架の一隅に見出したのが
『現代日本文学アルバム16/三島由紀夫』。
三島由紀夫から連想されるもののひとつ「二・二六事件」
は奇しくも75年前の今日の出来事であった。
実は十代半ば頃に舐めるように繰り返し繙いたもので、
疑いもなく国文学への関心の起点となった一冊である。
これ以外に本日は『連環画・中国の故事名言』を発掘した。
故事名言の由来を中国人画家の挿絵とともに語っており、
細緻な筆遣い、動感ある画面構成は賛嘆に値する。
こちらも面白さの余り綴じ糸が解れる程に読み込んだ記憶
があるが、後に東洋史や東洋思想を探求する端緒となった。
二冊で可成りの重量となり、商品を容れて貰った紙袋の底
が今にも破れそうで心許なかったが、無事に帰り着いた。



思うに、心の世界にもバランスシートのようなものが在り、
現世で当人がそれまで何を獲得して何を棄損してきたのか、
その一切があちら側の世界の尺度・単位で記録されている。
それは象徴の世界、非計量の世界の存在で客体化すること
能わざるものであるから、仔細に閲覧することなど固より
叶うまいが、時折それを覗き見したい衝動に私は駆られる。
それ無しには腰を入れて前進する気運が内側から生じない。
一生涯に繰り返される再生に欠かせぬ作業とも言えようか。
私にとって、そのよすがとなるのは人生の各タームごとの
愛読書なり愛玩物であることが少なくない(ラジオの旧い
曲が沈降した記憶を蘇らせるよすがとなる方も多かろう)。
ノスタルジーに耽る地点から更に奥へ踏み込んでみれば、
意想外の省察や気づきが得られるかもしれない。


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