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映画『森の向う側』

2011-06-25 | 身辺雑記帳
今から二十年ほど前にTVの深夜番組で見た映画のことが
長いこと気に掛かっていた。

舞台は雨の降りしきる海辺のリゾートホテル。
麗しくミステリアスな女性客、
闇夜のプールサイドのシーン・・・
直ぐに思い出せるのはこんなところ。
作品のタイトルも出演者も何もかも一切不明のまま
十年の月日が経って、私は芦屋から東京に住まいを移した。

四年前、出演者の一人が突如判明した。
芸能通の知人が一冊の雑誌を私に手渡した。
付箋を貼ったページには女性の上半身が写っており、
一瞥するや否や、私は思わず大きな吐息を吐いた。
歳を重ね髪型も変わっているが、面影は明瞭に残っている。
女性客を演じていたのは<一色彩子>であった。

一昨年に関西へ戻った私は映画の調査を再開し、
暇をみつけては<一色彩子>の出演作品をあたっていった。
資料は極めて少ないが、製作年代などから推測すると、
どうやら『森の向う側』という作品が“それ”らしい。
VHSビデオのパッケージ写真をネットで発見して
いよいよ確信を深めた私は中古品のテープを入手した。

昔のビデオテープ一本をみるだけの目的で、
テレビデオをリサイクルショップにて調達。
ソフトとハードを合計しても数千円で収まったが、
ここへ至るに要した時間と手間は並み一通りではない。
とうとう今朝『森の向う側』を身じろぎもせずに鑑賞した。
映像をみる間に二十年の人生絵巻も再生される心地だった。

女性客の童女めいたキャラクターは今なお蠱惑的である。
彼女の黒目勝ちな両眼の作為的なまでの離隔は、
夢と現実との間に横たわる青い距離の反映のようだ。
蕭々と降る雨に閉ざされた白亜のホテルは絵画的に美しい。

映画の原作もほぼ同時に明らかになった。
村上春樹の短編小説『土の中の彼女の小さな犬』。
じつは本も購入済みで、これから読もうとするところ。
安西水丸の描いたカバーイラストが大そう気に入っている。



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