【ヤマタノオロチ】
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スサノオノミコトは、大変力の強い神様でしたが、色々と乱暴をしために、神様の国である高天原(タカマガハラ)から追放されました。
ズドーーーン!
「ぐわーーっふ…ここは、どこだ」
そこは出雲の国の鳥髪(とりかみ)という所でした。
目の前には雄大な肥河(ひのかわ)が、
うねうねと曲がりくねって、流れていました。
「ああ…こんな所に流されてしまって、
これからどうしよう」
途方に暮れるスサノオでしたが、
「おや、あれは…」
川の上流から、お箸が流れてきます。
「ほほう、箸が流れてくるということは、
上流に村があるんだな。行って、食い物でも
もらおう」
そこでスサノオノミコトは川にそって
ぐんぐん歩いていきます。
すると、村に出て、立派な屋敷があり、
中からおいおい泣く声が聞こえてきます。
「ん…何かな」
スサノオノミコトが屋敷をのぞくと、
年老いた夫婦と若い娘の三人が泣いていました。
「もし、どうしましたか」
すると老人は話し始めます。
「私はこの国を治める国つ神で名を足名椎(アシナヅチ)、妻の名を手名椎(テナヅチ)と申します。
私たちには以前八人の娘がありましたが、ヤマタノオロチという大蛇に、みな飲み込まれてしまいました。
今年もまたヤマタノオロチが来る時期になりまして、この…最後に残されたクシナダヒメまで
奪われようとしているのです」
「ヤマタノオロチ…はて、それはいったい?」
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「それはもう恐ろしい怪物です!頭と尾がそれぞれ八つずつあり、目はホオズキのように赤くビカビカ光っています。背中には苔や木が生い茂り、その大きさたるや八つの峰、八の谷を這いわたるほどでございます。」
……
"う~ん…話を聞くほどに気の毒なことだ。
そんな怪物に食い殺されるとは、不憫にも
ほどがある。あの少女がそうか''
見ると、クシナダヒメは両親のかげに隠れながら
ブルブル震えています。
(おお…なんというかわいらしさ)
スサノオノミコトはその小動物的可愛さにもう、
一瞬で参ってしまいました。
「わかりました。そのヤマタノオロチというのは
わしが退治します。だから娘さんをヨメにください!!」
「え、そんな急な。だいたい、
あなたは…どういった方ですか?」
「申し遅れました。私はアマテラスオオミカミの弟のスサノオノというものです。たった今、高天原から降り立ったばかりです」
「なんと!そんな高貴なお方でしたか。
これは、ぜひ、お願いいたします」
こうしてスサノオノミコトはヤマタノオロチを退治することになりました。
スサノオノミコトはまずクシナダヒメを髪に差す櫛の姿に変身させ、自分の髪の毛に差します。
こうしてクシナダヒメの身の安全を確保しておいて、それから八つの酒樽にじゃばじゃばじゃばーと酒をつぎ、ヤマタノオロチがやって来るのを待ちます。
しばらくして、ドドドドドと大地をゆさぶり、
見るも恐ろしいヤマタノオロチが姿をあらわします。
ぬおっ!!
さすがのスサノオも、息を飲みます。
ヤマタノオロチには頭と尾がそれぞれ八つずつあり、目はホオズキのように赤くビカビカ光っています。
背中には苔や木が生い茂り、その大きさたるや八つの峰、八の谷を這いわたるほどでした。
ヤマタノオロチは酒樽を見つけると、
ズザザザザザーー、バッシャーーン
八つの酒樽に八つの頭をつけると、ゴクんゴクん、ごくん、ごくん豪快に、飲みまくります。
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しばらくして、すっかり酔っ払ったヤマタノオロチは、ぐてーんと体を伸ばしていました。
(よし。今だ)
しずっ。しずっ。しずっ。
慎重に近寄るスサノオ。そこで剣を振り上げ、
「でやぁぁぁぁぁ!」
ズバッ、ズバッ、ズバア
ギャアアアアアアーーーーーー
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ヤマタノオロチの体をズダズタに切裂きました。
しかし、
「ん?なんだこれは?」
八つの頭、八つの尾のうち一つの尾だけがどうしても斬れません。
なにか固い芯が入っててゴリゴリしてる感じです。
「はて…?なんだこの感じは」
不思議に思ったスサノオノミコトはしっぽの肉を刀の切っ先で丁寧にけずりおとし、中身を取り出しました。
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ヤマタノオロチを退治したスサノオノミコトは、
約束どおりクシナダヒメをお嫁にもらうことになりました。
ヤマタノオロチの血で真っ赤に染まっていた肥川の流れも、すっかりもとの清らかさを取り戻し、
スーッと心地よい風が吹き寄せてきます。
「ああ…すがすがしいな。
この地で、俺は、こんなにもすがすがしいぞ」
ここから須賀という地名が名づけられ、島根県雲南市須賀に、現在まで地名が伝わっています。
スサノオノミコトはこの地に
クシナダヒメとすごす宮殿を作ることにしました。
妻が暮らす部屋のまわりに幾重にも生垣をはりめぐらせます。
なにしろ大切な妻をすまわせるための宮殿です。
まわりを幾重にも生垣でかこみます。
俺だけの妻だ。
ぜったい人目になんかふれさせないぞと!
「あなた、これじゃあ太陽の光がとどかないじゃないですか」
「よいのだ。姫のことは俺がとことん大切にするのだから」
そしていよいよ宮殿が完成した時、何重にも重なった見事な雲が立ち上りました。
「おおっ!!」
「まあ、なんてキレイなのかしら。まさに出雲という地名にぴったりですね」
ひしと手を取り合うスサノオノミコトとクシナダヒメ。
そこでスサノオノミコトは詠みました。
"八雲立つ 出雲八重垣妻ごみに
八重垣つくる その八重垣を"
"幾重にも雲がたちのぼる、その名も出雲の地で、私は妻を迎えた。
この幾重にも重なる雲のように、幾重にも生垣をはりめぐらせて、妻を大切にこもらせよう。
幾重にも生垣をはりめぐらせて"
日本ではじめて詠まれた、和歌のはじまりとされ、紀貫之による「古今集」序文にも引用されています。
スサノオノミコトはクシナダヒメの父であるアシナヅチノカミを宮殿の護衛隊長に命じ、
「稲田の宮主、須賀の八耳(やつみみ)の神」
という立派な名前をさずけました。
スサノオノミコトとクシナダヒメからはたくさんの子供が生まれ、その子がまた子を産み、六代目の子孫が因幡の白兎の話で有名な
「大国主命(オオクニヌシノミコト)」です。