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この島で生まれた息子はなんと中学生。ほぼ育児日記です。

『サードカルチャーキッズ 多文化を生きる子どもたち』

2019-01-11 | 読書メモ
『サードカルチャーキッズ』の内容に関する覚え書き。


サードカルチャーキッズ(Third Culture Kids = TCK)とは
発達段階のかなりの年数を
両親の属する文化圏(第一文化)の外(第二文化)で過ごし、
第一文化と第二文化のはざまの
第三文化を生きる子どものこと。

大人になってからの異文化体験とは異なる。
安定した単一文化の中で育った大人は、
自分の核となる価値観、
帰属意識や文化的アイデンティティー、
家族や友人との基本的人間関係を既に築いている。
それらを築く発達段階の途上で
多文化に晒されるのがTCKだ。


TCKが大人になると(ATCK:Adult Third Culture Kids)、
複数の文化、複数の言語を器用に操作し、
国際的に活躍する人も多い。
そんなATCKは魅力的だが、
この本ではTCKの利点と難点を冷静に描いている。


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TCKはあらゆる文化と関係を結ぶが
どの文化も完全に自分のものではない。

カメレオンのような、文化への適応能力を磨き
変化に耐え、周囲に溶け込む。
その文化の詳細を理解しないとしても、
周囲を観察して
その文化の表層(言語、行動、外見、文化的習慣)を真似、
その場にあった行動をとることができる。

難点としては、
文化的平衡感覚を一生身につけられない場合がある
ということだ。
文化には表層と深層とがある。
深層文化は観察によって真似られるものではない。


また、TCKは言動を周りに合わせて変えるため、
どの価値観に基づいて行動すればいいのか
自分でも分からなくなるし、
周りからは信用できないと見做されることもある。



あるいは、カメレオンとは真逆の方向、
つまり、周りを敵視し、
「私はあなたたちとは違う」
と主張するばかりの
「反アイデンティティー」を確立してしまうTCKもいる。
そうなると、そのTCKは、TCKの最大の利点である
新しい文化を学ぶ機会を喪失し、
周囲から孤立していくことになる。


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TCKの移動の多い生活は
世界中の人々との貴重な交流につながるが、
同時にその人々との別れと悲しみをも生み出す。

深い悲しみの体験は
他人への思いやりにつながることもあれば、
 自己防衛として他人とのつながりを拒絶することもある

別れのつらい感覚から自分を守るため、
感情を押し殺すことに慣れ、
それがいつしか生活の全ての場で行う人もいる。
自信に満ちて自立しているという長所が、
実は「無関心」の別の形であることもある。


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新しい文化に溶け込むためのステップ
(安定期 → 移動の準備期 → 移行期
 → 新しい環境への立ち入り期 → 再安定期)は
TCKもそれ以外の人も、同じである。
苦労はあっても、いつか必ず安定期に入ると考えれば、
移行期や立ち入り期の不安も
希望を持って乗り切ることができる。

しかし、数年ごとに次の国へと移動する
海外駐在の家族においては、
移行期と立ち入り期だけを経験し、
 安定期と再安定期を体験しない
ケースがある。
鉢を頻繁に変えると植物の根は育たない。
そういう状態が子どもに起きる。


「根無し草」と「落ち着かない感覚」
TCKの特筆すべき特徴である。

落ち着かない感覚は、大人になっても続く。
常に何かが足りない、現状に満足しない感覚につながり、
移動の衝動に駆られる。
非現実的な過去に愛着したり、
「次こそ落ち着く」と思い続けて移動を続ければ、
結果的に学業、キャリア、家族に悪影響を及ぼすことになる。


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TCKに多く見られる思春期や反抗期の遅滞は
サードカルチャーの素晴らしい経験の
副作用のようなものである。

思春期、つまり育った文化の慣習や価値観に
反抗したり取り込んだりして
自信を養い始めようとする時期に、
移動により、世界が一夜にしてひっくり返ると
新しいルールを模索し始めないといけないのだ。

その場に相応しい言動に気を遣うのに精一杯で
自分たちの特技も能力も発揮できるような状態ではない。
自分はなぜ他人と違うのかを問い続ける。

さまざまな文化ルールを学んでいかねばならない子どもは、
一つの安定した支配文化の中で
それが自国文化だという認識を持ちながら育つ子どもとは
違う発達体験をする。

思春期や反抗期が20代、ことによっては40代で
おとずれることもある。
遅れてきた思春期・反抗期は、
10代のものよりも破滅的な形で現れる。



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これらの困難を克服する鍵は、親子関係にある。

人は誰でも
「揺るがない関係」、
帰属感覚、
誰かに育まれ守られているという関係、
内的調和感覚、
自分が有意義な存在だという感覚、
自分で自分を理解し、
 他人からも理解されたいという心理的要求
がある。

これらの感覚の基礎は、親子関係の中で育まれる。

けっきょく、TCKであろうがなかろうが、
あらゆる心理的な問題、発達上の問題の多くは
幼少期の家族関係に起因するのだ。


親が子どもにしてやれる一番重要なことは、
この世界で常に帰れる場所は家庭であり、
自分は家族にとって
何者にも代えがたい特別な存在だということを
子どもが疑わなくても済むようにすることである。

場所が変われば価値観や慣習が大きく変わるTCKの世界では、
この基板が人生を通じた芯の安定への重要な鍵となる。



人間としての基本的要求が満たされれば、
人生の難問に取り組みながら育ったTCKは
強固なアイデンティティーを作ることができる。

そういう経験をせずに育った子よりも
目的意識や価値観に深みが加わる。

どんな文化に身を置いても、
その文化の中で精一杯行きながら、
自分の一部である別の文化も否定しない。

そんなATCKが増えれば
文化の架け橋として活躍することもできるし、
同じ問題に直面しているTCKへの支援もできるだろう。


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世界各国間の移動が容易になり
コミュニケーション手段も発達した現代社会において
単一文化であり続けることはできない。

TCKはやがてくる世界の雛形である。
これまでTCKが直面していきた問題は、
より多くの人々に、世界規模で発生している。

本書を通してより多くの人がグローバル化の影響を考え、
異文化生活の落とし穴に落ちることがないようにと願う。


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