仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

「セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴」 島田荘司

2006-07-02 18:45:08 | 讀書録(ミステリ)
「セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴」 島田荘司

お薦め度:☆☆☆
2006年6月22日読了


事件の依頼に事務所を訪れた老婦人から話を聞くと、御手洗潔は「これは大事件ですよ」と斷言した。
事件を調べて行くうちに、この事件の背後には、ロマノフ王朝から明治政府に贈られたといふ、
「セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴」が關係してゐるらしいことがわかる。

この靴が本當に存在するものなのかどうか、私は知らない。
しかし、この本での説明を讀んでゐると、いかにもありさうな氣がしてくる。
エカテリーナ二世が作らせた靴で、それがアレクサンドル二世の時に明治政府に贈られたのだといふ。
五稜郭の戰のあと明治政府に入つた榎本武揚がロシアに行つて受け取つて來たのだが、
これにはペルーの奴隸船「マリア・ルス號事件」と「千島・樺太交換條約」の成立が關係してゐる。
「マリア・ルス號事件」は日本が開國直後の治外法權撤廢へむけての國際裁判で、これを裁いたのがアレクサンドル二世。
明治政府はこの裁判を勝ち取るために、樺太の領有權を手放し、千島の領有權と交換した。
もちろん領土としての價値は樺太のはうがずつと大きいので、いはば裁判を有利にするための贈賄だつたのだ。
樺太を受け取つたロシアは、日本に裁判を勝たせるとともに、この靴をいはば謝禮として明治政府に贈つたのである。

明治といふ時代は日本が近代化の道を歩み始めた時代である。
西歐列強に國を蹂躙されぬやう、日本人が精一杯の努力をした時代だともいへる。
さういふ時代に、かういふ靴があつたとすれば、まさに國寶として後世に傳へるべきものだらう。
ミステリーとしてはさほど特筆すべきものでもないが、かういふ歴史的背景そのものが面白かつた。


2006年6月22日讀了


セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴

角川書店

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