奥崎さんはそういうふうに、自分が戦うべき相手を設定して、自分の感情をそこへ向けて、コントロールしていくとでもいうのかな。それで、ある限度を越えたら自分はそれをやらなくちゃいけない。やらなくちゃいけないっていうふうに自分の中へぎゅうっとエネルギーを溜め込んでいって、その事態が来た時にはもうそのエネルギーが充填されている。
~中略~。そういう風に奥崎さんという人は自分が本当に戦っていたり、やばい状況の中で、自分を守る本能とでもいうのかな、そういうものがある。ある状況を読む。状況の中で、自分が負けられないというか勝つその手段---勝つ手段というのは武器の問題ではなくて、自分の精神をコントロールしていくということ。で、臆病な自分をよく知っていて、その臆病さをコントロールして逆手にとってそれをエネルギーに変えていく。
原一男「踏み越えるキャメラ」より。
奥崎さんとはドキュメンタリー映画「ゆきゆきて、神軍」の奥崎謙三のこと。意外なことに彼は臆病な人らしく撮影の前に震えてたという。人を殺したりしてたような人間なのに。負けないように狂気を呼び込むことによって戦っていたらしい。戦うためには非力な自分のために"理"が必要だ。それが天皇より上回る神様だったようだ。本人は戦争責任なんてやりたくなくて当時から既に宗教がどうたら言ってたようだ。
自ら狂気だとわかっていてその中に自分で飛び込む。それが本物の狂気になってしまう。この映画だと段々と彼の顔つきが険しくなってる。それは彼の中の狂気が近づいてるんだ。そして銃撃事件を起こす。そして捕まった彼が言った言葉が「私の演技どうでした?」。他者の目とは恐ろしい。