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ヤマザキ、フリーターを撃て!

タイ エイズ患者と家族の記録

2005-12-31 03:43:13 | ドキュメンタリーとかテレビ
 NHK-BS世界のドキュメンタリー「タイ エイズ患者と家族の記録」を見た。ドイツの制作。エイズに感染した一家が崩壊していく様子が描かれる。父ちゃんが売春婦から感染、母ちゃんにも移って一番下の女の子にも感染してる。上の男女の子は感染してない。既に父ちゃんは発症していて痛々しい姿で病的に痩せている。

 一家は雑貨屋を経営してたんだけど感染がバレてからは誰も買いに来ない。田舎なんでみんな知ってるんだ。友達もいなくなり、長女は学校でいじめられる。教室では二人で並んでるのに長女だけ一人で離れている。彼女は言う「エイズの子ってみんなに言われてる。いじめられるのも両親のせいだ」。はっきり言って死んで欲しいみたいな状況だ。一家全員並んで写真を撮るんだけど長女だけは泣いている。もうこのように家族が一同に揃うことは二度とないってわかってるんだ。そしてこれが子どもたちの強制的な巣立ちだってことも。

 タイには世界最大というエイズホスピスがある。何でもオーストラリアで工学を学んだ住職が始めたらしい。数百人もの死を待つ人間が暮らしてるんだ。えらい美人だった人の生前の写真と共になんと彼女のミイラが展示されている。仏像の前には何かが袋に入れられて積み上げられている。「エイズで死んでいった者達」との掲示。これは骨の山なんだ。

 一家はこのホスピスに入る。様々な人がいて、ここで働いてるオランダ人は言う「ここにいるとすべてがシンプルなんだ。自分の存在意義などについて考えなくていい」。この人は自分の死について悩んできたんだなと感じる。自己の救済としての活動なのかもしれない。しかし一家はここでの生活は持たない。病人の巣窟みたいな場所で暮らすのはごめんだってのと奥さんの自我の強さで共同生活が送れない。

 父ちゃんは死に、母ちゃんはバンコクへ出稼ぎに、上の長女は学費は払えずに祖母と暮らし、長男は孤児院へ、下の感染してる子はエイズ孤児の施設へ入れられていく。母ちゃんは一家を引き取りたいと頑張りながら下の子に会いに来る。泣きながら父ちゃんは死んだよって言う。しかし彼女も発症して行方不明になっていく。家庭は完全に崩壊したのだと終わっていく。
 
 エイズ孤児院ではおいらはエイズの子~って歌わせたり、ホスピスに学生が遠足で来て死体の映像を見ながら爆笑してるなどタイってのは死生観が違うのか理解しがたいところがある。向こうの新聞って平気で死体載せるらしい。だから淡々としてるんだ。おれバンコクってインドのムンバイ行く時に経由で飛行機が止まって窓越しだけからみたことがある。そしたら飛行場からゴルフ場が見えるんだ。飛行場のすぐそこでゴルフしてて、このシュールな光景はおそらくおれには理解できないなと思った記憶がある。こういうのがオランダ人のいうシンプルなのかもしれない。

乙女ごころ三姉妹

2005-12-28 05:57:45 | 映画
 映画「乙女ごころ三人姉妹」

 監督:成瀬巳喜男。原作:川端康成。35年

 完全ネタバレ。浅草六区で三味線片手に歌って流しをしてる女性たち。こういう人たちを門付けと呼ぶらしい。その門付け一家の姉妹物語。三姉妹ってことなんだけど実際は5人出てくる。原作読んでないので彼女たちがどういう関係なのかは詳しくわからない。六区から外れてる吉原のように貧しくて売られてきた女性なのか、本当の姉妹のことなのか、門付け一家から出て行きたい三人なのか、Mr.Booのホイ兄弟みたいに三人と思いきや実は4人とか。

 飲み屋で流してるんだけど芸人みたいなもんであからさまに蔑まされたり、酔っ払いに娼婦のように扱われる。家では山田五十鈴みたいな顔した鬼母ちゃんが待ってる。無駄使いは一切許されない。自分の環境を変えられないと悟った女性特有の意地悪さと見栄で「たいして稼ぎもないくせに」と説教されるのだ。一番上の女性は不良と仲間になって悪さを始める。そしてまともな男を見つけて不良とは別れて同棲して出て行くんだ。その男は真面目なんだけど体が弱いのに無理をして結核になる。幸せはつかの間なんだ。なぜなら彼女たちは芸人だからといわんばかりに。

 外で飯食ってると落としてしまう。それを土を払う仕種、袋についたあんこをしつこく取ってる仕種、悲しいほどに彼女たちの生い立ちが滲み出ている。人間が無防備になる瞬間とは残酷ででわかってしまう。
 最後には上の女は結核の男と田舎で療養することにする。それで上野に下の女性が来るんだ。しかし彼女は不良に刺されてる。無理をして見送った後に三味線を落として静かに眠っていく。貧しさから飛び出して幸せになる姉を自分のことのように見送りたかったんだ。貧しさからのし上がるには代償を伴う。そして下の妹は男を連れながら駅に向かう途中で見送りに間に合わない。小津の「東京暮色」を思い出す。すべてが遅かったのであって知らない方が良かった。かといって知らないではいられない人間のモロさ。逃亡列車は片道切符だ。
 それに愛する女のために結核になった男の何ともいえない気持ち。雨の中を帰宅して何も言わずに暖まってる光景。削られてるからこそ何ともいえない魅力がある。

 よく知らないけど、この成瀬監督はお坊ちゃん育ちじゃないんじゃないかな。小津安二郎とは違った種の残酷さを感じる。
 成瀬巳喜男は初めて見た。これは成瀬初トーキー映画。小津初トーキーの「一人息子」でぶったまげたけど、これも凄い。
 ★★★★

地獄に堕ちた勇者ども

2005-12-26 03:33:09 | 映画
 映画「地獄に堕ちた勇者ども」

 監督:ルキノ・ヴィスコンティ。ダーク・ボガード、ヘルムート・バーガー、シャーロット・ランプリング。69年。イタリア

 タイトルだけ聞くと戦争映画か西部劇みたいで骨太な男たちが戦って散っていきそうだ。しかし全く違う。ドイツ第三帝国のナチスが支配を強める時代、鉄鋼で儲けてる貴族が没落していく話。物語があまりにも複雑なんで難しい。一族の長が殺されて覇権を巡ってこれでもかってほどのドロドロ劇が繰り広げられる。

 息子のマーティンって人は冒頭の誕生パーティーで女装してマレーネ・ディートリッヒのモノマネをしながら踊ってる。どう見てもアブナイ人なんだ。その時にナチスによる国会議事堂放火事件が起こる。彼らの勢力が増してる時で一族は共産主義に共鳴する者は殺される前に逃げていく。一族は一家を守るためにナチスに協力すると決めるんだけど、ナチス自体が滅びるわけで。鉄鋼産業ってことでまさに戦争に直結してるというかそれでのし上がってきた一族なんで体制といかにやっていくかを考えるんだ。

 息子マーティンってのはキチガイなんだ。男色の気もありつつ、10歳もいかないような女の子に執着してついには手を出す。その女の子はショックからか自殺する。その子はユダヤ人だったんだ。そこでこの事件で脅されて取引してナチスにのめりこんで行く。ユダヤ人だから殺されて当然なのだって具合に。終いには一族を乗っ取ろうと画策していた母にまで裸で襲いかかるのだ。母の愛情をずっと求めて苦悩していた彼はそれでも満足しない。もう大暴走。ブルジョワは崩壊してナチスが台頭していく。

 「若者のすべて」もそうだったけど登場人物多すぎで把握に時間かかった。そして退廃の美学みたいなのがこれでもかと迫ってくる。裸の男たちが射殺されて血に染まっていくとかいかにもあっち系の人というのがわかる。三島由紀夫もこの映画を絶賛してたらしい。ヴィスコンティって人は貴族出身なのに共産主義者。当時のイタリアでは認められなかったであろう同性愛者で一方では世界的な監督という面も持っている。矛盾の塊みたいな人だ。そういう人だからこそ描ける世界観なのかもしれない。
 ヴィスコンティ鑑賞3本目。★★★1/2

大理石の男

2005-12-25 03:15:08 | 映画
 映画「大理石の男」

 監督:アンジェイ・ワイダ。77年。ポーランド

 映画を学んでいる優秀な女子大生。彼女は映画制作のために博物館を訪れると奥の部屋に横たわる大理石の像がある。その大理石の男の人生を追い始めるって話。ポーランド50年代前半。時はまだスターリンの時代。一日で3万個もレンガを積み上げる超人レンガ工の男が労働者の英雄に祭り上げられる。彼は英雄になりたくてなったわけじゃない、ただ自分を試したかったんだ。昼食の支給で小さい鰯一匹しかなくて党の委員に怒って投げつけるような人だ。こんなんで働けるかこんちくしょー、本音では何がスターリンだこの野郎って。愚直で決して諦めないマジメ労働者堅物人間。

 そんな彼は周囲の人間に利用される。プロレタリア映画で自分の意思とは関係なく英雄にされ、労働できないような火傷を負わされ、友達を守るために秘密警察に捕まっていく。主人公の映画撮ってる女子大生は彼に関わった人にインタビューしながら人生を断片的に浮かび上がらせる。出資するテレビ会社の人は彼女に言う「アメリカ映画みたいにするなよ」。確かにこの映画はアメリカ映画のような展開にはならない。善の塊みたいな人間の「大理石の男」が社会にまみれていくのは戦前アメリカ映画のようだ。

 現代の女子学生の登場シーンではゴキゲンなサウンドで全く東側って感じはしない。そして大理石の男では労働者ソングにスターリンを掲げてブルーの白黒映像という状態。その両者がマッチするラストは素晴らしい。今聞いても十分新しくて驚いた。堕落しきった資本主義の芸術を見よとかわざとやっててそういう点も楽しめる。3時間近くあるけどまったく飽きさせず面白い。政治思想と芸術をぶつけるなど、どこかイタリア映画と似てるなと思う。この数年後にポーランドではワレサ率いる「連帯」が勢力を増していく。この映画で委員かなんかの偉そうな奴を党の指名から投票で選ぶようになるんだ。時代は変わっていくのだと大理石の男にどう思うかと聞く。彼は秘密警察に捕まってた男だから拷問もされてるだろう。でも彼は言う「悪い事も良いこともあった。だけどおれたちの国なんだ」
 ★★★1/2

逃亡列車は帰ってきませんよ

2005-12-23 05:25:48 | 駄文
 酔ったー、酔ってすと。もういいだろってくらいに思い出すインドなんだ。どんどん変化してる社会なんでまたもや行かなくてはってのがあるんだ。というのも死にかけたってのがあるから。その時に面倒を見てくれたのが病院で手伝っていた乞食ってのが大きいんだ。彼に金を渡すと他のもう助からない死にそうな乞食のために薬を買ってたんだ。自分のためじゃなくて人のため、金をいかにむしり取ろうかと考えてる多くの観光地に集う人間とは違った。彼は言ったんだ忘れないでねって。。何で彼の一言は苦しめるんだろうか。カルカッタでマザーテレサのホームに行ったんだ。でも遅いからまた明日来いって言われた。おれは次の日には他の町へ旅立つ切符があったんだ。片道切符は戻ってこない。今でも何かを忘れた気がする。

 酔うと思い出すんだいろんな事を。南部の海では日本人の浪人生に会った。彼は会った瞬間に目がトンデルので何か吸ってるのがわかった。ここでは海沿いの個室ホテル、ビールつきディナーに日本では違法な何か吸うやつもホテルの人間が売ってる。こんな状況で一日千円で暮らせる。浪人生の彼の気持ちもわからないでもない。とにかく美しい海の景色に食事。ホテルさえ出なければ金魚の糞みたいな連中もついてこない。彼の勉強が進んでいたのかは謎のまま。どうみてもジャンキーなので話す機会もなかった。彼はボーっと何を見ていたのだろうか。駅にいた這ってる男は、骨の飛び出ていた男は、路上で裸で死んでいた少年は、通る人に唾を吐いていた女性は、顔の溶けてる少年は何を見ていたんだ。おれは何を見ているんだ?

 やはり本当のおれはインドで死んでいるのだろうか。