◆離れ瞽女となり、一人旅を続ける市(綾瀬はるか)。ひょんなことから市と関わった浪々の侍、藤原十馬(大沢たかお)。盲目ながら居合いの達人である市と、訳あって刀を抜けない侍の十馬。二人がたどり着いた宿場町は、万鬼(中村獅童)率いる野党の一味にいいように食い物にされていた。街を仕切っていた白河組の二代目、虎次(窪塚洋介)は、万鬼一味を何とか追い出そうと画策していた。勘違いから白河組の用心棒に雇われた十馬。一方市は、探し求めていた盲目の居合いの使い手の消息を万鬼が知っているらしいと聞きつけ、万鬼一味の根城へ向かう。
◆いや、今の時代に良くこの映画を作ったなと思う。私はとても満足。この難しい役柄を23才の女の子がここまで立派にやり遂げたこと、拍手を持って賞賛したい。
私はTVドラマを見ないので、綾瀬はるかはCMと映画でしか見たことがない。映画は、『Jam Films』の"JUSTICE"・『雨鱒の川』の口のきけないヒロイン・『HERO』のちょい役、そして『僕の彼女はサイボーグ』だけだ。私が過去に見たどの映画やCMと比べても、この映画の、ほぼ全編に渡ってボロを身にまとい、たぶんほとんど素顔に近い(男の私にはそう見える)であろう綾瀬はるかは桁違いに美しい。ただもう、ため息しか出てこないくらい綺麗だ。盲目の演技がそうさせるのか、全ての幸せを諦めたような表情がそうさせるのか、とにかくもう、一瞬たりとも目を離していられないという感じ。こんな美しい姿を見られるなら、それだけでもう十分なのだが、一応、映画の中身にも触れておく。ただ、えぇ~と、この映画の感想は凄く難しい。
まず、私も含めて多くの人間が危惧していたであろう、『あずみ』のようなアイドル時代劇とは全然違う。しっかり真面目に時代劇している。下手な笑いや露出、ベタベタの台詞回しなどは全然なく、ヒロインの市はひたすら寡黙。笑顔すらラストまで見せないという徹底ぶりだ。アイドル的な華やかな部分を全部カットしてしまうと、残るは純粋な物語の部分なのだが、斬った張ったの時代劇である以上、逆立ちしても明るい話にはならない。映像そのものは発色が鮮やかで美しく明るい印象だが、物語は辛く悲しい。本作『ichi』は、当然『座頭市』シリーズから来ているわけで、2003年に北野武監督・主演でリメイクされたのが記憶に新しい。北野版はいろいろと斬新な、現代的なアレンジが盛り込まれていたが、本作はオーソドックスな時代劇。「座頭市」と、「宿場を巡る二大勢力の激突」という、どちらも定番中のド定番な設定を掛け合わせたものだ。ここに笑顔を忘れた盲目のヒロインを加えても、ヒット作にするのは簡単ではない。
近年、時代劇でそこそこの興行成績を上げる作品がいくつか出ている。『たそがれ清兵衛』『隠し剣 鬼の爪』『武士の一分』といった一連の藤沢モノもそうだが、藤沢周平の三部作は決して派手さのない、地味な作りの映画だ。観客層がそれなりの年齢だったこともあって受け入れられた。ただ、この映画の場合はどうだろうか.....。
私が観に行ったのは公開初日の18時の回。私の行ったシネコンでは290席ほどの筺があてがわれていたが、観客数は2割にも満たなかった。おそらく40人ほどだろう。その観客の7~8割が女性。しかも、高校生から20代前半だ。さすがにこれは、この日、この回限りのことだとは思うが、客筋は私が予想していたような男ばかりではなく、「女性」、というより「女の子」が多いという傾向なのは確かだろう。小栗旬のような、女の子に人気の役者は出ていないし、北野武のような芸達者も出ていない。せっかくの映画だが、この客筋ではあまりいい興行成績を上げられないのではないか。女の子層を取り込むのなら、大沢たかおが演じた十馬の役を、もう少し違うキャストで考えた方が良かったかも知れない。
本作で悪役の万鬼を演じた中村獅童。多少私怨も入っているが、そろそろダミ声演技のレパートリーも尽きたようで、何をやっても同じ役に見えるのは私だけだろうか。ドラッグダイヴから現場復帰を果たした窪塚洋介は、相変わらず青臭い台詞回ししかできない。この二人ももう少し集客力のある役者に変えて、叶わぬ恋心も少し盛り込んだら、女心をつかめる時代劇になっていたかも。まぁ、そうなったらなったで、私のような男の客筋は離れていくだろうから難しいところだ。
◆いや、今の時代に良くこの映画を作ったなと思う。私はとても満足。この難しい役柄を23才の女の子がここまで立派にやり遂げたこと、拍手を持って賞賛したい。
私はTVドラマを見ないので、綾瀬はるかはCMと映画でしか見たことがない。映画は、『Jam Films』の"JUSTICE"・『雨鱒の川』の口のきけないヒロイン・『HERO』のちょい役、そして『僕の彼女はサイボーグ』だけだ。私が過去に見たどの映画やCMと比べても、この映画の、ほぼ全編に渡ってボロを身にまとい、たぶんほとんど素顔に近い(男の私にはそう見える)であろう綾瀬はるかは桁違いに美しい。ただもう、ため息しか出てこないくらい綺麗だ。盲目の演技がそうさせるのか、全ての幸せを諦めたような表情がそうさせるのか、とにかくもう、一瞬たりとも目を離していられないという感じ。こんな美しい姿を見られるなら、それだけでもう十分なのだが、一応、映画の中身にも触れておく。ただ、えぇ~と、この映画の感想は凄く難しい。
まず、私も含めて多くの人間が危惧していたであろう、『あずみ』のようなアイドル時代劇とは全然違う。しっかり真面目に時代劇している。下手な笑いや露出、ベタベタの台詞回しなどは全然なく、ヒロインの市はひたすら寡黙。笑顔すらラストまで見せないという徹底ぶりだ。アイドル的な華やかな部分を全部カットしてしまうと、残るは純粋な物語の部分なのだが、斬った張ったの時代劇である以上、逆立ちしても明るい話にはならない。映像そのものは発色が鮮やかで美しく明るい印象だが、物語は辛く悲しい。本作『ichi』は、当然『座頭市』シリーズから来ているわけで、2003年に北野武監督・主演でリメイクされたのが記憶に新しい。北野版はいろいろと斬新な、現代的なアレンジが盛り込まれていたが、本作はオーソドックスな時代劇。「座頭市」と、「宿場を巡る二大勢力の激突」という、どちらも定番中のド定番な設定を掛け合わせたものだ。ここに笑顔を忘れた盲目のヒロインを加えても、ヒット作にするのは簡単ではない。
近年、時代劇でそこそこの興行成績を上げる作品がいくつか出ている。『たそがれ清兵衛』『隠し剣 鬼の爪』『武士の一分』といった一連の藤沢モノもそうだが、藤沢周平の三部作は決して派手さのない、地味な作りの映画だ。観客層がそれなりの年齢だったこともあって受け入れられた。ただ、この映画の場合はどうだろうか.....。
私が観に行ったのは公開初日の18時の回。私の行ったシネコンでは290席ほどの筺があてがわれていたが、観客数は2割にも満たなかった。おそらく40人ほどだろう。その観客の7~8割が女性。しかも、高校生から20代前半だ。さすがにこれは、この日、この回限りのことだとは思うが、客筋は私が予想していたような男ばかりではなく、「女性」、というより「女の子」が多いという傾向なのは確かだろう。小栗旬のような、女の子に人気の役者は出ていないし、北野武のような芸達者も出ていない。せっかくの映画だが、この客筋ではあまりいい興行成績を上げられないのではないか。女の子層を取り込むのなら、大沢たかおが演じた十馬の役を、もう少し違うキャストで考えた方が良かったかも知れない。
本作で悪役の万鬼を演じた中村獅童。多少私怨も入っているが、そろそろダミ声演技のレパートリーも尽きたようで、何をやっても同じ役に見えるのは私だけだろうか。ドラッグダイヴから現場復帰を果たした窪塚洋介は、相変わらず青臭い台詞回ししかできない。この二人ももう少し集客力のある役者に変えて、叶わぬ恋心も少し盛り込んだら、女心をつかめる時代劇になっていたかも。まぁ、そうなったらなったで、私のような男の客筋は離れていくだろうから難しいところだ。