◆素直で愛らしい9才の少女、シャロン(ジョデル・フェルランド)。赤ん坊の時にローズ(ラダ・ミッチェル)とクリストファー(ショーン・ビーン)の夫婦に養女として引き取られ、幸せな毎日を送るシャロンには、自分でも知らないもう一つの姿があった。夜中に夢遊病のように歩き回り、「サイレントヒルへ、家へ帰る」と口走ることがあり、成長に連れてその回数はどんどんと増えていく。だが、目覚めたシャロンにはその記憶が全くない。医者に診せて治療を始めたが、症状はひどくなるばかりだった。思い余ったローズは、バージニア州にサイレントヒルという街があることを突き止め、シャロンと二人でその街に向かい、原因を確かめようと決意する。30年前の大火で住民の多くが死に、廃墟となったサイレントヒル。大火から30年の時を経ても地下の石炭が燃え続けているため、街全体が危険地域として閉鎖され、地図からもその名を消された街。
妻と娘が地下火災の続く危険なゴーストタウンに向かったことを知ったクリストファーは、ローズの携帯に連絡して何とか思いとどまらせようとするが、思い詰めたローズは取り合おうとしない。一日遅れでサイレントヒルに駆けつけたクリストファーが見たのは、乗り手を失った妻の車と、二人を追っていたベネット巡査(ローリー・ホールデン)の白バイ、そして事態を調べに来た警察の姿だった。消えた三人の姿を求めて、火災前にサイレントヒルで暮らしていたグッチ巡査(ウィリアム・コーツ)とクリストファーは、廃墟と化した街へ足を踏み入れた。だがそこには、ローズ、シャロン、ベネット巡査の姿はなかった。二人が探したのは、サイレントヒルの表の世界。そしてローズたち三人が迷い込んだのは、サイレントヒルの裏の世界。そこは、悪夢が現実に変わる絶望の世界だった。裏の世界では、姿を消したシャロンを求めてローズが廃墟をさまよっていた。
◆怖い。いやぁ、久しぶりに怖い映画を観た気がする。怖い映画、刺激の強い映像が苦手な方は、避けて通ることをお勧めしたい。本作が提供するのは、絶望と悪意、凄惨な復讐、そして終わりのない悪夢だ。救いはどこにもない。
コナミのゲーム「サイレントヒル」シリーズを原作にした、カナダ・フランスの合作映画。監督・原案は、自身も原作ゲームの熱心なファンという、『ジェヴォーダンの獣』のクリストフ・ガンズ。ゲームのプロデューサーだった山岡晃も、製作総指揮と作曲で参加している。
私は原作のゲームは「サイレントヒル 2」しかやったことがないのだが、ゲームの雰囲気・救いのない世界観を見事に映画化していると思う。おなじみのグロテスクなキャラクターたちも、ゲームと同じ独特の動き方で登場する。これがまたエグい。
「怖い」という言葉の意味が、現在のホラー映画では変わってしまっているような気がする。大音響とともにいきなり何かが飛び出してくるのは、「怖い」ではなくて「びっくり」という感情だ。確かにその場は驚くが、ただのこけおどしにすぎないから、観終わった後には何も残らない。ホラー映画でその種のショック演出を多用するのは脚本も世界観もいい加減な作品の特徴なのだが、悲しいかな、大多数のホラーはこけおどしで成り立っている。だが、本作『サイレントヒル』は違う。その種のこけおどしを全く使わず、観客をじりじりと確実に、「絶望に支配された悪夢の街」に追い込んでいく。いやもう、デリケートな人なら夢でうなされそうな、その完成された世界観の描写はお見事。雰囲気ばっちり怨霊どっぷりの悪夢そのものだ。
本作は、終盤まではショック演出を避けた絶望的な世界観と、ゲームに登場した不気味なクリーチャーたちの気持ち悪さで観客を追い込んでいく。そして終盤で、グロテスクなスプラッタ系の雰囲気を帯びてくる。『ヘルレイザー』や『死霊のはらわた』をハンバーガー片手に観ていた私のようなマニアは、「なんか懐かしい雰囲気になってきたなぁ」と感心していたが、ショック演出に頼った最近のホラー映画しか観ていない人には、かなりグロテスクに感じられる部分もあるだろう。そのへんの迫力はゲームよりもずっと上だ。当然、PG12指定になっている。
さて、物語の方だが、原作ゲームの経験者なら説明不要で理解できると思うが、ゲーム未体験だと分かりにくい部分もあるかと思う。別に序盤でなくても良いのだが、サイレントヒルについて、もう少し説明があっても良かっただろう。原作ゲームもホラー系ゲームも未経験という方にはちょっと展開が唐突かもしれないが、完成された世界観と雰囲気を楽しむ映画なので、細かいことは考えずに楽しめると思う。
序盤の導入部、サイレントヒルへ向かうシーンはちょっと気になるところ。シャロンの夢遊病の謎を解くためにサイレントヒルに向かう娘思いの母親が、あんな無謀なことをするだろうか。雨に濡れた初めての山道、しかも長期間閉鎖されて路面状況も全く分からない上に照明もないという悪条件のもとで、娘を乗せた車でゲートの鉄柵に突っ込んで突破、白バイを振り切って暴走しながらゴーストタウンに向かうのだ。状況を考えれば非常識で説得力がない。一歩間違えば、娘もろとも谷底に落ちて即死という状況だし、夜中にゴーストタウンに到着しても出来ることは何もない。娘のためを思う母親がそんな危険なことをする「動機」が映画の中では描かれていないのだ。妻と娘を危険なサイレントヒルに向かわせまいとする夫が、警察に要請して二人を保護させようとしているという一応の設定はあるので、それを振り切ろうとしたのだろうが.....。それで娘を事故死させては本末転倒なわけで、娘思いの母親がやることとは到底思えない。この導入部を観ていると、「自分の思いこみで娘の命を危険にさらす馬鹿でヒステリックな母親」という印象を強く受ける。また、実際に事故を起こして娘と離ればなれになったローズが、自分の軽率な行動を後悔するシーンが一度もない。アレッサの精神的な支配がローズにも及んでいた、という設定なのかもしれないが、それならそのことを描いてみせる必要があるだろう。
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