昨年9月、『クローズドノート』という映画を観た。私はこの映画がお気に入りで、雫井脩介の原作も買って読んだほど。DVDも発売・レンタルされているので、ご覧になった方も少なくないと思う。この物語の中に、重要なアイテムとして万年筆が登場する。映画や原作にはたくさんの万年筆が登場するが、物語のキーになるのは二種類。一本は、竹内結子演じる伊吹先生が持つ、スイーツ。シックなデザインの万年筆に深みのある赤紫系のインクという組み合わせは、確かにお洒落だと思う。このスイーツは価格設定もお手頃で、もし実在するなら私も持ってみたい一本。残念ながら、物語に登場する「イマヰ萬年筆」のオリジナルという設定で、実際には存在しないモデルだ。
もう一本は、沢尻エリカ演じる香恵が父から贈られた、デルタのドルチェビータ・ミニ。私の感覚では女性向けではないような気もするが、女の子が持てば確かに面白いだろう。ただ、これは間違っても私には似合わないし、仮に似合っても「映画の真似をしてる」と思われるのが関の山だ。お洒落どころか格好悪さ全開になってしまう。それ以前の問題として、逆立ちしたって遊びで買えるような値段ではないのだが.....。
私は黒や青という月並みなインクの色があまり好きではなかったので、大学に入るまでは日常的に緑のインクを入れた万年筆を使っていた。実用というより人と違う色のインクが使いたかっただけなので、ほとんど原稿用紙専用。大学時代は原稿を書く量が半端ではなかったので、無神経に扱っても大丈夫な水性ボールペンばかり使っていた。社会人になってからはキーボードオンリーで、そもそもペンを握って文字を書く機会がほとんどない。こうして私は、万年筆という筆記用具の存在そのものをすっかり忘れてしまった。映画『クローズド・ノート』をきっかけに、お手頃価格の万年筆を一本買ってみようかと思ったのが去年の10月。だが、いざ探してみると、なかなか気に入るものがない。実用品なら低価格でも良いものが山ほどあるが、そもそも私の目的は遊び。選ぶ基準がこれ以上ないほどいい加減なので、自分の求めるものがきちんとした形で見えてこない。半年以上経ってもまだ良さそうなものに出会えなかった。ちなみにインクの方は、どうせコンバータしか使わないので、とっくに好きな色を買ってある。まぁ、普段は頑丈なだけが取り柄のボールペンを使っているので、急いで万年筆を探す必要も特にはなかった。
探し始めて半年が過ぎた頃、たくさんのペンを見て来たせいか、なんとなく自分の中にイメージが出来上がってきた。万年筆のボディは濃い暗色のものが多いようで、明るい色は原色系の派手なものが多いようだ。グレイ系のインクを使いたい私としては、暗色や原色系のボディは今ひとつしっくり来ない。いろいろ見ているうちに、「白いペンがいいかも」という程度のいい加減なイメージが湧いてきた。いざ探してみると、白やアイボリーというのは結構少ない。その中から、『お手軽価格』でコンバータが使えるものを選ぶと、選択肢はほんの数本。その中に、何となく気になるデザインのものを見つけた。
私はデザインのみでペンを選んでいるので、メーカーはどこでもいい。書く文字の半分は日本語だから、出来れば日本製が良いのだが、たまたま目に付いたのは外国製だった。今まで一度も聞いたことのないアキュラという文房具屋と、「修理マニアとマゾヒストしか買わない」と言われるほど故障が多いので有名な自動車屋、ジャガーの合作だそうな。「まともに使えるんかいな」と危惧を抱いていたが、とりあえずはちゃんと書ける。安売り店で買ったので、値段の方も1万円台で収まった。多少、予算をオーバーしたが、結構面白い買い物だったと思う。文房具屋と自動車屋の合作というからには、普通は男性向けのデザインを考えそうなものだが、このペンはキャップをすると、女性が好みそうな滑らかな曲線になる。キャップをお尻にはめて書くときには、それなりにメカニカルな印象になるところが面白い。私が買ったのはアイボリーのボディとローズゴールド(ただのピンクゴールドだと思うけど)の組み合わせで、男女兼用といった感じ。普段、武器になるほど頑丈で無骨な物しか持たない私にとっては相当冒険だったりもしたのだが、たまにはかわいい(というか、武器に見えない)物を持つのも面白い。これでも花屋の常連だし、好きな女の子は広末だし、実は「可愛らしさ」や「壊れてしまいそうな繊細さ」にも敏感、なつもり。個人的には悪くない買い物をしたつもりだが、いざ手に持ってみると、本当に絵にならない。普段、道具類は可能な限り黒一色という人間なので、次に万年筆を買う機会が巡ってきたら、あまり凝ったことを考えず、黒っぽいものを買った方が良さそうだ。
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