太 極 拳 最 高 

健 康 を デ ザ イ ン す る

張三丰 (ちょうさんぼう) 太極拳創始説

2009-08-30 06:06:25 | 太極拳
 1973年の末に、中国の湖南省長沙市近郊の「馬王堆・まおたい」の遺跡から、約2150年前の前漢初期の頃の墳墓が発掘された。そこから発見された大量の古代文献の中に、絹布に色彩豊かに描かれた「帛書・はくしょ」が見つかった。
 この帛書は「導引図」と名付けられ、図解された型の内44の型がはっきりと識別することができた。その導引は今では気功として集約されているが、昔はさまざまに呼び習わされていた。「吐納・とのう・吐古納新・とこのうしんの略」「道行」「按蹻・あんきょう」「行気」「煉丹」「静功」「坐禅」などと呼ばれていた。このような原型からさまざまなカンフーに発展していった。
 そうした中から太極拳に発展したものがある。
 張三丰が太極拳を創始したという説をみてみることにしたい。
 武当山で修行をしていた張三丰が、書斎で読経しているときに、外でただならぬ気配を感じ、窓から外を見てみると、木の上の鵲 (かささぎ) が、地上でとぐろを巻いている蛇とにらみ合っていた。鵲は鋭く鳴きながら枝から飛び降りて蛇に襲いかかるが、蛇はのらりくらりと攻撃をかわし、鵲を寄せ付けない。
 飛び上ってはまた降りて、何度となく繰り返して攻撃するが、蛇は体を変化させて円形を作り、鵲に隙をみせない。ついに鵲は業を煮やし飛び去って行ってしまったという。
 これを見た張三丰は「柔よく剛を制す」の理を悟って易の真理に照らし、陰陽の極意に迫って太極拳を編み出した。という説である。

太極拳の始まりは

2009-08-29 05:47:15 | 太極拳
 太極拳が始められたのは、約四百年ほど前の清の時代 (1616~1911) の初めの頃といわれているが、茶道や禅などと同じように、その極意とか奥儀というものは、門外不出のものとして口伝で継承されてきたから、いつ頃誰によって始められたのかは、文書が残っていないだけに信頼に足る定説がない。
 定説がないながらも、創始者についてはいくつかの説がある。
 明史 (みんし) にあるように道教の仙人「張三丰・ちょうさんぼう」が創始したという説は、氏が少林寺拳法を修めた後、武当山 (ぶとうざん) で修行したとする太極武当説が多くの支持を得ている。
 楊家の始祖である楊露禅 (ようろぜん) が師事した、河南省温県陳家溝 (ちんかこう) の陳氏一族の祖先で、明末の武将「陳王庭・ちんおうてい」という説も有力である。
 また、太極拳経の著者「王宗岳・おうそうがく」創始説も捨てきれない。
 中国民族には、古くから不老長生の強い願望があった。大自然の厳しい環境にわが身の生体を適合させ、外敵から身を守り、人類が安定的に生存するための、生命維持活動の原理原則を探究し、紀元前八~五世紀頃には既に導引、按摩などが行われていたとされている。
 紀元二~三世紀の頃、三国志で有名な曹操の侍医をしていた華陀 (かだ) は、病気をしない動物を見習えば、長生きができるのではないかと考えた。先生は動物の動きがある時は伸び、ある時は身を屈め、跳んでは跳ねるその姿が実にゆったりとして、よどみがなくいかにも自然で、こせこせした人間の動きとは大いに異なることに気が付いた。
 そこで動物の動きを丹念に観察し、五種類の動物「熊」「虎」「鹿」「猿」「鳥」の動きに集大成し、その動きを真似た導引、「五禽戯・ごきんぎ・五種の獣の戯れ」を編み出した。導引というのは、腰を中心にして、体を曲げたり伸ばしたりする運動のことで、呼吸法が加味されている。これが、太極拳の始まりとされている。

簡化二十四太極拳の制定 つづき

2009-08-28 16:20:52 | 太極拳
 伝統的な楊式太極拳は八十一の型で構成されているが、重複する動作を除くと三十あまりの型に集約することができる。その中から楊式の持ち味を生かし、簡単で学びやすく、練習し易いものという原則に従って編纂された。その内容と特徴は以下のとおりである。
1.型は二十四の動作で構成し、楊式太極拳の主要な動作を採用している。
2.技術の内容は、1930年に楊澄甫氏 (ようちょうほ) と李景林氏 (りけいりん)が修正した太極拳新架に基づいている。
そのため型は中正姿勢を基本に、おおらかでのびのびとした動作とし、歩法は軽やかで、手法は簡潔であるという特徴を持つ。
3.編成は前半は易しく、後半は難しくを原則として、全体を八段四組に分けた。第一段は直進する動作、第二段は後退する動作、第三段は横移動の動作、第四段は蹴り、独立、伏せなどの起伏、平衡感覚を養成する動作と転身動作を織り込んだ。このように全体を通して、ブロックごとに、あるいは個別に鍛錬し易く構成されている。
4.鍛錬の効果を、より高度に保つために、動作を左右均等にするように配慮した。
5.型の練習所要時間は、伝統による型の1/3~1/4ほどの、5~6分とした。
6.集団で練習したり、独りで練習するのを容易にするために、沓路 (とうろ) や進退路線図を用意した。
以上のように、さまざまな紆余曲折を経て、簡化二十四式太極拳が1956年に正式に発表された途端、忽ちのうちに広く伝搬し、ブームを呼ぶところとなった。

簡化二十四式太極拳の制定

2009-08-27 06:12:22 | Weblog
 太極拳は保健、体育、医療、芸術などの要素を持つ武術である。それは長い年月を経て、理論的にも技術的にも完成された域に達している。
 しかしながら、禅や茶道などと同じように、長い間門外不出として、師と弟子の間で相伝されてきたから、多くの一般人が知ることはできなかった。
 このような背景があって、1954年に中国国家体育運動委員会は、そうした門外不出の武術を一般に普及させたいとして、世に埋もれた武術を探し出すことにした。それを細部に亘って研究し、体系立てて取りまとめ、世に送り出すことにした。
 その第一歩を太極拳としたのである。このために武術研究室を組織し、陳式の陳発科氏 (ちんはっか)、楊式の田鎮峰氏 (でんしんほう)、孫式の李天驥氏 (りてんき)、呉式の呉図南氏 (ごとなん)、李式の高瑞周氏 (こうずいしゅう) などの著名な太極拳家を招へいし、張文広氏 (ちょうぶんこう)、唐豪氏 (とうごう) らと共に規範となる動作を選択、分類し、太極拳の第一案を制定し公布した。だが、どうしたわけか普及するまでには至らなかった。
 1955年、李天驥氏が国家体育運動委員会に配属になり、唐豪氏、毛伯浩氏 (もうはくこう)、呉高明氏 (ごこうめい) 等とともに、本格的に簡化太極拳の編纂を開始することとなった。研究室では収集したたくさんの資料を丹念に分析し、比較検討が繰り返された。その結果、広く親しまれるためには、多くの人の支持を得ている楊式が最適であるとして、楊式をベースに組み立てることに落ち着いた。

白血球の自律神経支配の法則

2009-08-26 08:54:16 | 太極拳
 これは、斉藤章氏の「生物学的二進法」の理論をベースにして、平成七年、新潟大学医学部の安保徹教授と、福田稔医師によって「白血球の自律神経支配の法則」として発表されたものです。「自律神経が体を守る白血球の働きと、その数をコントロールしている」という理論で、お二人の名前をとって「福田-安保理論」と呼ばれています。
 「病気は、交感神経と副交感神経で構成される、自律神経のバランスが乱れて、どちらか一方に偏ったときに発症する」というものである。
交感神経は、主に運動などの激しい活動をするときに、心臓の拍動を速め、血管を収縮させて血圧を上げ、その活動にふさわしい状態に働くものである。
 自律神経がバランスを崩し、交感神経が優位に働いた場合に出る症状を見ておきたい。
 末端から神経伝達物質のノルアドレナリンが分泌され、五感に影響が出る。すると、先ず知覚が鈍り、味覚がおかしくなる。耳は聞こえにくくなり、視力は低下し、臭覚も鈍感になる。心拍数が増加して興奮と緊張が呼びさまされて、怒りっぽくなり、イライラして落ち着かなくなる。夜も眠れなくなって、睡眠不足になり倦怠感、疲労感が抜けなくなる。
 こうした初期症状のうちに対処しないとやがては病気へと導かれる。

腹式呼吸のこと

2009-08-25 06:55:35 | 太極拳
 太極拳の呼吸法は、原則的には逆腹式呼吸ですが、順式と逆式の両方をご紹介します。

(1)順腹式呼吸法
 息を吸うときにお腹をふくらませ、そこに大量の空気が入ってくるイメージで行います。実際には空気は肺にしか入りませんが、横隔膜を収縮させて下げ、腹筋を緩め、気が背骨に張り付いて、肛門が圧迫されるのを感じ取ります。
 息を吐くときには、反対にお腹をへこませ、横隔膜を上げて緩めます。横隔膜が上下、前後に大きく移動する、健康的な呼吸法です。この呼吸法の一分間の呼吸回数は、6~8回で、脳波は周波数8~13ヘルツの α 波となって、精神的に落ち着きます。

(2)逆腹式呼吸法
 上記の反対に、息を吸うときにお腹を凹ませ、息を吐くときにお腹をふくらませる、順式よりも高度な呼吸法で、長年、太極拳にいそしんでおられる方にお薦めの呼吸法です。この呼吸法をしますと、背骨がスッと伸びて、太極拳の型が決め易くなります。
 コンシャスブリージングという言葉があります。意識的な呼吸のことです。私たちの普段の生活では、ほとんどといっていいほど呼吸に意識を向けることはありませんから、呼吸は浅くて短い自然呼吸法になっています。
 呼吸に意識を向けて、自然呼吸から腹式呼吸に切り替えますと、酸素の供給量が5%以上増え、それだけ細胞が活性化することができます。
 太極拳の呼吸法は、腹式呼吸が基本と申し上げましたが、それにこだわる必要はありません。ともかく太極拳が気持ちよく行えれば、それが一番からだにいいことなので、無理をしてまで、腹式呼吸にする必要は無いということです。ただ動作と呼吸は、できるだけ合わせていただきたいとおもいます。それがコンシャスブリージングの初めですから。
 これまで、太極拳の呼吸についていろいろ申し上げてまいりましたが、呼吸法に興味をお持ちの方のために、こんな呼吸法もあるという情報を記しておきましょう。丹田呼吸法、下丹田呼吸法、双丹田呼吸法、三丹田呼吸法、抜背式呼吸法、火焼臍輪式呼吸法、労宮穴呼吸法、湧泉穴呼吸法、胎息、武息、文息、反文息、停閉呼吸法、提肛呼吸法、小周天呼吸法など。
 呼吸のことを息といいますが、これは「生き」の意味ですから、呼吸を長くすれば長く生きられるということです。そうしてみますと呼吸というのは、生きていく上で一番大切なものということができますでしょう。
 「一息 (いっそく) の生 (しょう) から滅までが息の一生で、生じては消え、消えては生ずる泡沫 (うたかた) の一息一息 (いっそくいっそく) に、人間生命が存続していく」といった人がいます。
 太極拳における呼吸の目的は、酸素をたくさん取ることと、吐く息を長くすることによってリラクゼーション効果を高めることにあります。それは吸うことによって交感神経を刺激し、吐くことによって副交感神経を優位にして、自律神意のバランスを保つということです。
 太極拳が呼吸を大切にする背景には、陰陽思想があります。吸気と呼気、つまり陰と陽とのバランスがとれた状態を大切にしています。陰陽思想はバランス学説といわれるくらい、バランスのことをとても大切にしています。
 陳氏太極拳図説に「天地陰陽の気は即ち人の呼吸の気の如し」とあるのをみましても、呼吸が如何に大切であるかということがわかります。

太極拳の呼吸法

2009-08-23 18:38:30 | 太極拳
4.腹式呼吸法

 太極拳における呼吸法の基本は、「深」「静」「細」「均」の腹式呼吸法が原則です。深は文字通り深いということで、お腹の底まで空気を吸い込むイメージで行います。空気は実際には肺にしか入りませんが、横隔膜の運動量の多さで、おなかの底まで入ったようなイメージがわきます。
 太極拳を学ぶ静は、静かに呼吸することで、呼吸する時の音を自分でも聞こえないようにすることです。細は、細く長く呼吸することです。均は均一の意味で、呼吸を早くしたり、ユックリしたり、大きくしたり、小さくしたりしないで一定に保つことです。
 お腹いっぱいに空気を吸い込みますと、おなかの圧力・腹圧が大きくなり、内臓が圧迫されて腹腔の血液が押し出され、手足や頭に巡ることになります。息を吐くと自然に腹圧が低くなって、血液が素早く腹腔に戻ってきます。このように腹式呼吸には、全身の血液の流れをよくする効果があります。
 腹式呼吸を行った時のX線の観察では、横隔膜の上下動の幅が、胸式呼吸の4~5倍になっていることが確かめられています。これによって吸気時の胸膜腔の陰圧が高められ、心肺の循環機能を改善することができるようになります。つまり横隔膜の上下動によって、心臓や肺、下腹部の内臓などが刺激されて、マッサージ効果が高められ、内臓がリフレッシュされるわけです。
 普通の呼吸法では、腹部はほとんど動くことがありませんから、脂肪が溜まり易くなっています。脂肪が溜まっているお腹は、醜いだけではなく、脂肪が溜まることによって静脈が圧迫され、静脈血の流れが阻害されて、細胞に溜まっている二酸化炭素が排出されなくなり、細胞が元気をなくします。腹式呼吸では、腹の筋肉が動くことによって脂肪代謝がよくなり、肥満の解消に役立つわけです。
 そればかりではありません。血液の循環がよくなれば、顔色もよくなり、しわも少なくなって美容効果は満点で、しかも効果が抜群であるといえます。
 太極拳の呼吸は腹式呼吸が基本です。型に合わせてこの腹式呼吸をします。するとその効果が倍増するわけです。腹式呼吸には二通りあります。

呼吸法のこと

2009-08-20 07:01:05 | 太極拳
 呼吸法には何種類かありますが、普段私たちが行っている呼吸法は、自然呼吸法です。
1.自然呼吸法
 これは無意識で行っている呼吸法で、自然呼吸法とか生理呼吸法と呼ばれているものです。意識に左右されない呼吸法で、むらがなく細く柔らかい呼吸法ですが、短く詰まっているという欠点があります。呼吸に意識を向けない呼吸法は、一分間に15~18回行っています。このときの脳波は、周波数13~30ヘルツの β (ベータ) 波です。この呼吸法は立式鍛錬に適しています。
2.深呼吸法
 自然呼吸法を基礎にした深く長い呼吸法で、鼻から吸って鼻から吐く方法と、鼻から吸って口から吐く、「鼻吸口呼法」(びきゅうこうこほう) があります。鼻吸口呼法で気をつけなければならないのは、吐くときに邪気を出すのだという意識を持つことが大切です。そうしませんと大切な「真気」が出て行ってしまいますから。
3.胸式呼吸法
 胸腔部を拡張したり縮小したりする呼吸法で、息を吸うときに胸をふくらませ、下腹部を少し縮小させます。呼気は逆にします。息を吸うときには、自然呼吸よりも胸がふくらんでくるのを実感しながら行います。
 息を吸うときに、吸った息が、みずおちの後ろの背骨に張り付いて、下から上に上がって行くイメージで行います。呼気はこの逆を行います。
 これは、ふだん私たちが行っている無意識の胸式呼吸とは異なる、意識呼吸です。意識呼吸のことを、コンシャス・ブリージングといいます。

いにしえ人の呼吸法

2009-08-18 20:23:17 | 太極拳
 呼吸法と聞いてすぐに思い起こすのが白隠禅師です。大病を呼吸法で克服した、その道の先達です。禅師は二十五歳で印可を受けた後、沼津の大聖寺の息道和尚が病に倒れたために寺に戻り、修行と看病に明け暮れた末、禅病に罹ってしまいます。
 当時、禅病といいますと、無理な修行による睡眠不足と、粗食の時代にあったことによる、今でいう、ノイローゼと栄養失調のことをいいます。禅師はそれを治そうとして、いろいろなことを試みます。
 そのように努力をし重ねても医者から見放されてしまい、尋ね訪ねて京都の山中に隠棲する白幽老人を訪ね当て、軟酥 (なんそ) の法を授かります。
 この白隠禅師の夜船閑話 (やせんかんな) に「呼は心肺より出で、吸は腎肝に入る。一呼に脈の行くこと三寸、一吸に脈の行くこと三寸、昼夜に一万三千五百回の気息あり。脈一身を巡行すること五十次。火は軽浮にしてつねに騰昇 (とうしょう) を好み、水は沈重 (ちんちょう) にしてつねに下流に務む」 とあります。
静脈血が含んだ炭酸ガスは、吐く息によって心臓から肺へ、そして肺から体外へ排出されます。吸気によって酸素を取り込んだ動脈血は、腎臓と肝臓に入ります。
 一回の呼気と吸気で血は三寸ずつ流れると表現していますが、この三寸という表現は必ずしも三寸を意味するものではなく、流れの速さを表現したものです。一昼夜の呼吸数は1万3,500回、血液が一日に全身を巡るのは50回。
 火に例えられる心臓から拍出する血液は上がりやすく、水に例えられる静脈血は、引力に反して上がりにくいから、からだ全体に気血を行き渡らせるために、呼吸が必要であるということです。

呼吸法再見

2009-08-17 16:56:46 | 太極拳
 呼吸のことを息といいますが、考えてみますと「いきる」というのは「息る」ことであり、「いきもの」は「息もの」であり、「いのち」とは「息の内」であるということができます。生きるというのは、当に「息をする」ということになりますでしょうか。
 人間の呼吸回数は、一日に約2万回、一生を通じては6億回以上も、ひとときも休むことなく続けられています。一分間の平均的吸気量は、安静時で7.6リットル、起床時には15.2リットル、ジョギングをしているときには52.0リットルになります。
 太極拳では呼吸法のことを「調息法」といい、三調の一つとして大切にしています。調身・調息・調心の三調の一つで、太極拳の第二段階ということができます。三調のうちどれが一番大切かということは、鼎 (かなえ) の軽重を問うという言葉の通り、三本足の「鼎」のどの一本が欠けても鼎は倒れてしまいますから、結論を出すのは難しいものがあります。
 ただし三調の第一段階である調身ができていませんと、動作に呼吸を合わせる「調息」をするのは難しいですから、基本は調身であるということはいえますでしょう。
 呼吸を普通に考えますと、生命活動に必要な酸素を取り入れることと思うのですが、実際には逆です。生命活動に害のある二酸化炭素を、体の外へ排出することができれば、酸素は自然に入ってきますから、呼吸の基本は吐く息にあるといえます。

呼吸は生きていることの証し

2009-08-16 12:09:56 | 太極拳
 人の呼吸の回数を調べたデータによりますと、一分間に16回、一時間で960回というのが平均値のようですから、一年間では841万回、一生を80歳としますと6億72百万回ということになります。これだけの回数の呼吸しているのですが、その呼吸に注意を向けることは、ほとんどありません。その結果、胸式呼吸に陥ってしまうことになります。
 私たちが、ふだん何気なく行っている呼吸は、胸式呼吸といわれているもので、呼吸をしているかどうかも分からないような、浅く頼りないものです。
 呼吸の一番大切な役割は、体と心の橋渡しをすることですが、これを認識するには難しいものがあります。西洋では、体は医者で、心は宗教家がという区分けがあります。東洋では逆に、人間は最初、一つの細胞から分裂を起こして人体になるのであるから、心も体も、一つのものという認識があります。
 体といいますのは物体ですから、形を表す「陽」を意味しています。心は捉えどころのない幽体として、「陰」を表しています。それらの陰と陽をつなぎ合わせるのが呼吸の役割ということになります。
 呼吸のことを「息」といいますが、安らかに息づくことから安息、生息などの意となり、生息を意味することから子孫を生むという意が導かれ、息子、息女という言葉も導き出されました。
 荘子の言葉に「眞人の息するや踵を以てし、衆人の息するや喉を以てす」とあり、気息の法は養生の道とされました。このことから安息、休息、棲息などにも使われています。
 呼吸といいますのは「呼」が先に来ていますから、吐く方が先です。気功の前身は吐納 (とのう・吐古納新・とこのうしん) と言われていました。吐といいますのは、息を吐くことで「呼而吐故・こしてふるきをはく」という言葉のように、体内にたまった二酸化炭素を吐きだすことです。納といいますのは、息を吸うことで「吸而納新・吸って新を納める」、新鮮な酸素を吸入することです。
 呼吸は肺が勝手にやっていると思っているかもしれませんが、呼吸に注意を向けずに呼吸をしていますと、弱く浅く力のこもらないものになってしまい、自分では気がつかないうちに気力が衰えて、精神的な逞しさがなくなり、考え方もネガティブになり悲観的になっていきます。
 呼吸と人の能力には因果関係があります。落ち着きのない人や集中力の乏しい人は、決まって呼吸の浅い人です。呼吸が浅いとイライラしたり、キョロキョロと落ち着きをなくしたりします。
 動物のことを英語で animal といいますが、これはラテン語の anima 「呼吸」「生命」からきています。精神・心・霊魂を英語で spirit といいますが、ブランデーなどの強い酒もスピリットといいます。このスピリットの語源は、ラテン語のスピラーレで「息」の意味です。西洋でも息が魂であり、生きる力であったわけです。

 生きている証を、存分に味わいましょう。

今日の自分と明日の自分が同じでないために 呼吸を変える

2009-08-15 06:09:13 | 太極拳
 呼吸を変えれば心が変わる、心が変われば体が変わる、体が変われば人生が変わる。

 食べ物や飲み物は、10日くらい飲み食いしなくても生きていられますが、呼吸の方はそういうわけにはいきません。5分も呼吸が止まったら、ほとんどの人はあの世行きです。
 呼吸のことを「息」といいますが、当に「生き」そのものです。息という字は、自分のことを示す鼻という字と、心臓を表す心という字を組み合わせています。心臓の動きに従って鼻からスウスウと、いきをすることを意味しています。息は生きに通じていますから、息を長くすれば長生きができるということになります。
 呼吸の一般的な空気の摂取量は、一回が大体250~500mlですが、意識的な呼吸・コンシャスブリージングに変えますと、一回に750ml入ってくることになります。これらの内酸素は、20.99%しか含まれていませんから、より多くの酸素を取り入れようと思ったら、質のいい呼吸法が必要になります。
 ここでチョット脳のことを考えておきましょう。脳はおよそ1300gあり、体重の1/60程度しかありませんが、酸素の消費量は殊のほか多く、全体の1/6~1/8という途方もないものです。この大喰いの脳に充分な酸素が行き渡りませんと、頭の回転も鈍ることになってしまいます。
 呼吸の役割は酸素の供給にありますが、もう一つ重要な役割を担っています。二酸化炭素の排出です。細胞に二酸化炭素が詰まっていたのでは、酸素が入り込む。余地がありません。人間の体には60兆個の細胞がありますが、この全てに酸素が潤沢であれば、人は元気でいられるということです。
 バイタリティという言葉があります。既に日本語化していますが、語源は英語の生命力です。この言葉を肺活量として使う時には、「バイタル」を使って、バイタルキャパシティといっています。この時のバイタルは、生き生きした、活気に満ちた、生命維持に必要な、「絶対に必要な」という形容詞になります。西洋でも東洋でも絶対に必要なものは同じなのですね。
 私たちの体は自律神経によってコントロールされています。自分が関知しないところで、心臓は拍動し、肺は呼吸し、胃腸は蠕動 (ぜんどう) 運動を行うなど、勝手に機能しています。この自律神経の中で唯一、自分の意志でコントロールできるのが呼吸です。
 吐く息では、自律神経の内の副交感神経が刺激されてリラックスし、吸う息では交感神経が刺激されて緊張しますから、この両方の特性を理解された上で呼吸され、実を上げていただきたいとご期待申し上げます。
 士は別して三日 (さんじつ) なれば即ち、刮目 (かつもく) して相待つべし。曹操の言葉です。士といわれるほどの人は、三日合わずにいたら、目を見開くように変わっていなければならないということです。
 呼吸一つで、これほど変わるとは思えませんが、ストレス耐性が備わることだけは確かです。

ご幸運を !

経絡・気の流れるルート  16

2009-08-14 05:52:17 | 太極拳
肝経

 「肝心要」という言葉が示しますように、肝臓と心臓は、人が生きる上で大変に大切な臓器であるということができます。肝臓の重要性につきましては、最近になって西洋医学でも注目するようになってきましたが、東洋医学では栄養の「貯蔵配分作用」を担うものとして「肝腎要」の言葉を当て、古くから重視してきました。
ただ、東洋医学で「肝」という場合には、単に肝臓を指すのではなく、肝の持つ働きである血液の運行と体液の代謝の促進、脾と胃の消化への協力と援助、喜怒哀楽などの情志活動の調節などにも関与しています。
 肝経は14穴、両方合わせて28穴あります。足の第一趾の第二趾側の爪の生え際にある大敦 (だいとん) から発し期門 (きもん) まで。この経の走向はおおむね体の側面ととらえることができます。
 肝臓は、右胸の肋骨の下端の肋骨弓の後ろにあり、体の中で最も重く、大きく、高温の臓器であるといわれています。食物の中の栄養分を化学的に処理して、その人の体に合ったものに作り替えて送り出している臓器で、また栄養分を貯蔵して活動のエネルギーとして確保し、活力を養成します。血液の補給、分解、解毒などを行い、活力の維持にも努めています。
 この経に異常がでますと、気分が萎えたり、急にやる気を出したり、癇癪を起し易くなるなど雑音が気になります。このように精神的に安定を欠くようになり、感情が高ぶりやすくなって、大声を出したくなる、目が輝きを失う、物が黄色く見えるようになる、立ちくらみがする、動作がぎこちなくなる、原因不明の発熱がある、前立腺の障害を起こす、仙骨や尾骨が痛む、肋骨の圧迫感がある、痔の痛みが出る、食欲不振に見舞われる、吐き気や頭痛などの症状が出てきます。

経絡・気の流れるルート  15

2009-08-13 10:12:01 | 太極拳
胆経

 胆は肝の下にあって、内に胆汁を貯えています。胆の機能は胆汁の貯蔵と排泄の二つを含み、胆汁は胆に集められて貯蔵され、その後、消化の必要に応じて腸の中に排出され、飲食物の消化吸収を助けています。胆汁は精汁あるいは清汁と呼ばれています。
 「胆は肝の腑、木に属し、昇清降濁をつかさどる」と医学見能にあります。胆は肝の腑と最初にありますが、これは胆と肝の関係を示すもので、臓である肝が陰、腑である胆が陽という関係にあるところから、「肝胆相照らす」という言葉が出来上がっています。これは胆と肝が、五行では同じ木に属するところから来ています。胆の排出する胆汁の中には消化を助ける物質のほか、代謝した廃棄すべきものを胆汁に伴わせて排出しています。
 医原には「胆は肝の右葉内につながり、胆汁は肝を潤し腸を利するなり」とあります。中医の蔵象学説によりますと、胆が属する六腑は「降を以て順とし」と、下がっていくのが当たり前の姿であるとし、「通を以て用とす」通じることこそがその働きであるとしています。それに続いて医原と同じようなことをいっています。「肝は肝葉の間につき、嚢状 (のうじょう・袋状) 器官であり胆汁の貯蔵と排泄は、その主な機能である」とした上で、胆汁は「肝の余気を借り、胆に溢入 (いつにゅう・満ちて入る) し積聚 (せきしゅう・引き寄せるように集める) して成る」つまり、胆汁というのは、肝の気を借りて集めることが可能になるのだといっています。
 胆はまた飲食物の消化を助ける一方で、情動活動に影響を及ぼす関係から、「胆は決断を司る」ともいわれています。胆は「はら」といって、「はら」が座っているとか、また「きも」といって、「きも」が太いなどともいわれています。
 胆は栄養の配分をつかさどり、甲状腺、唾液腺、膵腺、胆汁、腸腺ホルモンなどの消化腺の内分泌の働きによって、全身のエネルギーのバランス調整を行っています。
 胆経は44穴、両ルート合わせて88穴になります。
 この経に異常が出ますと、気をもんだり、胆をつぶしたり、優柔不断になって決断ができなくなったり、いらいらしたり、熟睡できずに睡眠不足になったり、眼精疲労でめやにがたまったり、白眼の黄ばみ、眼圧が高くなる、目がかすむ、手足の関節がこわばって全身が硬くなる、胸やけがして吐き気に悩まされる、胃酸過多になって脇腹が痛む、痰が絡んだ咳が出たりするなどの症状がでます。

経絡・気の流れるルート  14

2009-08-12 06:03:24 | 太極拳
三焦経

 三焦と いう臓器は五臓六腑の六腑に含まれてはいますが、実際には存在しない臓器です。三焦は「上焦・じょうしょう」「中焦」「下焦」の三つのことです。
 上焦は口から鳩尾までの呼吸・循環を司り、中焦はみぞおちから臍までで、消化吸収系を受け持ち、下焦は臍から下で、泌尿・排泄系を担当しています。三焦は「形無くして名あり」と古典にありますように、実態はなく機能だけのものとしてはいますが、実際には末梢脈管系を司り「循環保護作用」を分担しています。
 三焦経は手の薬指の小指側、爪の生え際の「関衝・かんしょう」から始まり、眉毛の外側「糸竹空・しちくくう」まで、23の経穴を有しています。左右合わせて46穴になります。
 三焦は小腸を補佐して、末梢循環と体液移動を管理しており、皮膚、粘膜、漿膜、リンパの働きによって保護作用を営んでいます。上焦は脳膜から胸膜、中焦は臍から上の主要な部分、下焦は下腹部の腹膜、腸間膜、子宮内膜などに分けられ、これ以外にも皮膚や筋肉などの防衛機能も受け持っています。
 この経の症状としましては、周囲に対する気遣いが下手で、過剰防衛になって警戒心が強く、全身がこわばって、いつも手を握り締めて前腕部が硬く緊張し、頭に何かがかぶさったように重苦しく、外界の変化に過敏で、寒暑の急変や湿気が苦手のアレルギー体質、鼻・喉の粘膜が弱く、リンパが腫れやすく、よく風邪を引き、目がチカチカし、胸が締め付けられるような気がしたり、皮膚全体が過敏でよくかゆみを訴えたり、くすぐったがりやで、ジンマシンや湿疹のできやすい体質になります。