「ぼくのママはウツです」

ぼく、ひかる。
７さい。
ママと二人ぐらし。



ママはぼくが３さいのときに、ウツになった。



ウツっていうのは、こころの病気なんだって。



ぼくのママの場合は、イライラ、怒りっぽくなったり。突然、泣き出したり。
気持ちが悪くなって、ご飯が食べられなくなることもある。
「もう動けない～」　
って、座り込んで動かなくなったり、まだ夜じゃないのに、
布団にもぐりこんで寝てしまったりすることもある。



そんなときは、話しかけても、返事してもらえなかったり、どなられたりすることもある。



でも、ぼくは、ママがぼくを嫌いでそんなことをしてるんじゃないって、
ちゃんと知ってる。



だって、元気なときのママは、
「ひかるは、神様からの大事なあずかりもの」
「うちに来てくれて、ありがとう」
「ひかるは、ママの光よ」
って、言ってくれる。
ぎゅ～って、してくれることもある。



この前、ママが泣いてたとき、
「ごめんね」
って、思わず言ったら、
ママは、びっくりした顔で、


「ひかるは悪くないよ。
　ママ、ときどき、すごく悲しくなって、泣きたくなるの。
　ママこそ、いつも、にこにこしてるママでいられなくて、ごめんね。」


って言った。






それから、しばらくしてからのある日、ママは
病気のこと、いろいろ話してくれた。
泣いたり、怒ったりしても、ぼくが嫌いでしてるんじゃないって、ぼくに知ってほしいからって。







夏、ぼくは、おじいちゃんと、おばあちゃんの家に行く。




ママが言うには、ママ以外にもぼくのこと、大事に思ってる人がいるって
知っといてほしいんだって。




それに、毎日おばあちゃんの作ったごはんを食べた方が、栄養失調にならないからって。




ぼくはママが大好きだけど、残念ながら、ママは料理が得意じゃない。
給食のなくなる夏休み、ぼくの栄養のことまで考えて料理をするのは、
ママにとっては、とても大変なことらしい。
だから、ぼくは夏、おじいちゃんと、おばあちゃんの家で暮らす。
本当は、夏もずっとママと暮らしたいけど、
ママのこと大好きだから、
ぼくは、おじいちゃんとおばあちゃんの家で夏を過ごす。





夏、ママは、元気になる。



ぼくがおじいちゃんちに行ってる間、
友達と食事に行ったり、映画を見に行ったり、美容院に行ったりするらしい。



それから、夜更かしして、家でごろごろしたり、ビデオや本を好きなだけ読んだりする。
そんな時間を過ごしてママは、夏の終わり、すこしだけ元気になる。



ぼくは知ってる。



いつも、外で一生懸命頑張って働いてるママは、
人一倍、人にやさしくて、傷つきやすくて、疲れやすいって。
そんなママには、気の許せる友達との時間や、一人で静かに過ごす時間が必要なんだって。




夏、ママは一人の時間をゆっくり過ごし、少しだけ元気になる。



夏が終わって、家に帰ると、ママは必ず聞く。
「おじいちゃん、おばあちゃんの家でどんな楽しいことしてきたの？」



それで、ぼくは、
いとこと夏祭りに行ったこと、
花火を見に行ったこと、
おじいちゃんとクワガタを捕まえにいったこと、
畑で虫取りしたことなんか話すんだ。



ママが、あんまり嬉しそうに聞いてくるもんだから、
ぼくは、張り切って話す。



ぼくが話すことが何にもなくなるまで、一生懸命話を聞いて、ママは、
「おじいちゃんと、おばあちゃんに、ひかるをお願いして、やっぱりよかった。」
と安心したように笑う。







ぼくのママはウツです。



だけど、いつもいつも調子が悪いわけじゃなくて、
元気な時には、ぼくのことを第一に考えてくれる、ぼくの大事なママです。



ご飯を作れなくなる日もあるけど、
家がぐちゃぐちゃになることもあるけど、
元気があるときには、
一緒に遊んでくれたり、
寝る前に本を読んでくれたり、
ぼくの小さい時の話をたくさんしてくれたりしてくれる、やさしいママです。



「ママが調子が悪くなって、
　ご飯つくったり、洗濯できなくなっても、ぼくがちゃんと生きていけるように」


って（ときどきママは、すごく心配性になるんだ）、
ご飯の作り方を教えてくれたり、
洗濯の仕方を教えてくれたり、
おじいちゃんや友達の家への電話のかけ方を教えてくれる、
そんな風に、ぼくのことを一生懸命に考えてくれるやさしいママです。





ぼくは、そんなママが大好きです。





ママ、生んでくれてありがとう。




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このお話が、ウツで悩む母たちや、そのもとで生活している子供たちの
心に届き、わずかなり、癒しを得てもらうことができれば、と
祈っています。


今日も読んでくださってありがとう。
今日一日が、あなたにとって素晴らしい一日となりますように。


【2011.5.1追記】
ルビ付きのPDF版をアップしてみました。
印刷を希望される方は、こちらの方がよいかもしれません。
上手く表示されるかどうか分かりませんが、
よかったら、一度見てみてください。
１ページ２枚両面印刷用の設定で作成しています。
「ぼくのママはウツです（PDF版）」


※転載、リンクは自由にしてくださって、結構です。
　もし、よいな～と思ってくださったら、印刷してご家族やお友達に
　プレゼントしてください。
　

このお話を書いた動機についても、こちらに書いてみたので、
よろしければ、ご一読ください。