北風の向こうから、春がやってきた。
頭のてっぺんで柔らかな日差しが、静かにまどろんでいる。
同時に快いけだるさが足元からゆるゆると昇ってくる。
そう、春とは何と素晴らしい季節なのだろうか。
道端に咲くタンポポの黄色が鮮やかだ。
時折、ほの暖かい風が頬をかすめていくのが気持ちいい。
私の靴音が、軽やかにアスファルトに響く。
そこの犬小屋では、大きな黒犬が体半分はみ出したまま眠りこけて
いる。
道端で、びしょ濡れの雨蛙が、腹を見せて、日光浴の最中だ。
おい、どうだ。
こんな日に部屋にこもって出てこないなんぞは、どう考えても、
犯罪だぞ。
同じごろ寝でも、野っ原で太陽の光をいっぱいに浴びながらのほうが
よほど気持ちがいいというものじゃ・・・
ええっ?! まぁ・・・、それは人それぞれ、
・・・分かった!!、分かった!! 好きにするさ。
確かに、お前は、昨晩徹夜だったものな。
いいさ、好きなだけ布団でも、何でもひっ被っているさ。
俺は一言、言ってみたかっただけだ。
そう、言うべき時に言うべき事を言う勇気を持たないと、結局何も
言えなくなる。
そんな気がしたんだ。
そう・・・、で、俺は表に、お前はここに・・・。
・・・・・
痛っい・・・!!
横から何かが勢いよくぶつかってきた。
まぁ、よくある事だ。
・・・・・・・・・。
瞬間、見回したが、何がぶつかってきたのか?
それらしき物は何も見えない。
野良犬か、それとも野良猫か、・・・まぁ、そんな事はたまにある。
・・・エッ? 犬や猫がたまにでもぶつかってくるかって・・・?
そりゃ、あるだろう。
けど、見回してみたが、犬も、猫も、鳥も、近くには見えない。
何も見えない。
まわりがやたらに明るい。
何やら、騒がしい。
何、何だって・・・?
何故か、背中が温かい。
この光の柔らかさ・・・!!
あぁ、満ち足りた気分・・・などと言うのはあまりに陳腐だ。
今は春・・・。
柔らかな風。
眠気を誘う心地よさ。
世界は今、春真っ盛り・・・。
すぐ向こうで、騒々しい足音と物音が聞こえる。
こんないい日に、よりによって・・・、どなたかは知らぬが、何と
も因果なお仕事だ。
近くで、また犬の声・・・。
傷んだ外套を着た男は、快い振動に運び去られた。
後に、盛んに吠え立てている野良犬。
ひそひそとお互い呟き合いながら、その場を離れがたそうな野次馬。
プファー、プファー・・・、プファー、プファー・・・、
これは、何と間の抜けた音なんだろう。
それにしても春、・・・どうにも、眠くて仕方がない。
このまま、眠り込んでしまっても、後で誰か起こしてくれるよな。
北風が、心地よく足元をすくって通りすぎていく。
<了>
頭のてっぺんで柔らかな日差しが、静かにまどろんでいる。
同時に快いけだるさが足元からゆるゆると昇ってくる。
そう、春とは何と素晴らしい季節なのだろうか。
道端に咲くタンポポの黄色が鮮やかだ。
時折、ほの暖かい風が頬をかすめていくのが気持ちいい。
私の靴音が、軽やかにアスファルトに響く。
そこの犬小屋では、大きな黒犬が体半分はみ出したまま眠りこけて
いる。
道端で、びしょ濡れの雨蛙が、腹を見せて、日光浴の最中だ。
おい、どうだ。
こんな日に部屋にこもって出てこないなんぞは、どう考えても、
犯罪だぞ。
同じごろ寝でも、野っ原で太陽の光をいっぱいに浴びながらのほうが
よほど気持ちがいいというものじゃ・・・
ええっ?! まぁ・・・、それは人それぞれ、
・・・分かった!!、分かった!! 好きにするさ。
確かに、お前は、昨晩徹夜だったものな。
いいさ、好きなだけ布団でも、何でもひっ被っているさ。
俺は一言、言ってみたかっただけだ。
そう、言うべき時に言うべき事を言う勇気を持たないと、結局何も
言えなくなる。
そんな気がしたんだ。
そう・・・、で、俺は表に、お前はここに・・・。
・・・・・
痛っい・・・!!
横から何かが勢いよくぶつかってきた。
まぁ、よくある事だ。
・・・・・・・・・。
瞬間、見回したが、何がぶつかってきたのか?
それらしき物は何も見えない。
野良犬か、それとも野良猫か、・・・まぁ、そんな事はたまにある。
・・・エッ? 犬や猫がたまにでもぶつかってくるかって・・・?
そりゃ、あるだろう。
けど、見回してみたが、犬も、猫も、鳥も、近くには見えない。
何も見えない。
まわりがやたらに明るい。
何やら、騒がしい。
何、何だって・・・?
何故か、背中が温かい。
この光の柔らかさ・・・!!
あぁ、満ち足りた気分・・・などと言うのはあまりに陳腐だ。
今は春・・・。
柔らかな風。
眠気を誘う心地よさ。
世界は今、春真っ盛り・・・。
すぐ向こうで、騒々しい足音と物音が聞こえる。
こんないい日に、よりによって・・・、どなたかは知らぬが、何と
も因果なお仕事だ。
近くで、また犬の声・・・。
傷んだ外套を着た男は、快い振動に運び去られた。
後に、盛んに吠え立てている野良犬。
ひそひそとお互い呟き合いながら、その場を離れがたそうな野次馬。
プファー、プファー・・・、プファー、プファー・・・、
これは、何と間の抜けた音なんだろう。
それにしても春、・・・どうにも、眠くて仕方がない。
このまま、眠り込んでしまっても、後で誰か起こしてくれるよな。
北風が、心地よく足元をすくって通りすぎていく。
<了>