80歳に向けて・「新風来記」・・・今これから

風来居士、そのうち80歳、再出発です。

春の幻想

2019年01月19日 18時42分14秒 | 創作
北風の向こうから、春がやってきた。

頭のてっぺんで柔らかな日差しが、静かにまどろんでいる。
同時に快いけだるさが足元からゆるゆると昇ってくる。
そう、春とは何と素晴らしい季節なのだろうか。

道端に咲くタンポポの黄色が鮮やかだ。

時折、ほの暖かい風が頬をかすめていくのが気持ちいい。
私の靴音が、軽やかにアスファルトに響く。
そこの犬小屋では、大きな黒犬が体半分はみ出したまま眠りこけて
いる。

道端で、びしょ濡れの雨蛙が、腹を見せて、日光浴の最中だ。

おい、どうだ。
こんな日に部屋にこもって出てこないなんぞは、どう考えても、
犯罪だぞ。
同じごろ寝でも、野っ原で太陽の光をいっぱいに浴びながらのほうが
よほど気持ちがいいというものじゃ・・・

ええっ?! まぁ・・・、それは人それぞれ、
・・・分かった!!、分かった!! 好きにするさ。
確かに、お前は、昨晩徹夜だったものな。
いいさ、好きなだけ布団でも、何でもひっ被っているさ。
俺は一言、言ってみたかっただけだ。

そう、言うべき時に言うべき事を言う勇気を持たないと、結局何も
言えなくなる。
そんな気がしたんだ。

そう・・・、で、俺は表に、お前はここに・・・。

・・・・・

痛っい・・・!!
横から何かが勢いよくぶつかってきた。

まぁ、よくある事だ。
・・・・・・・・・。
瞬間、見回したが、何がぶつかってきたのか?
それらしき物は何も見えない。

野良犬か、それとも野良猫か、・・・まぁ、そんな事はたまにある。
・・・エッ? 犬や猫がたまにでもぶつかってくるかって・・・?
そりゃ、あるだろう。

けど、見回してみたが、犬も、猫も、鳥も、近くには見えない。

何も見えない。
まわりがやたらに明るい。
何やら、騒がしい。

何、何だって・・・?

何故か、背中が温かい。
この光の柔らかさ・・・!!
あぁ、満ち足りた気分・・・などと言うのはあまりに陳腐だ。

今は春・・・。
柔らかな風。
眠気を誘う心地よさ。

世界は今、春真っ盛り・・・。

すぐ向こうで、騒々しい足音と物音が聞こえる。

こんないい日に、よりによって・・・、どなたかは知らぬが、何と
も因果なお仕事だ。
近くで、また犬の声・・・。

傷んだ外套を着た男は、快い振動に運び去られた。

後に、盛んに吠え立てている野良犬。
ひそひそとお互い呟き合いながら、その場を離れがたそうな野次馬。

プファー、プファー・・・、プファー、プファー・・・、
これは、何と間の抜けた音なんだろう。

それにしても春、・・・どうにも、眠くて仕方がない。
このまま、眠り込んでしまっても、後で誰か起こしてくれるよな。

北風が、心地よく足元をすくって通りすぎていく。
   <了>


つかみ所のない毎日、そして明日。

2019年01月12日 09時40分32秒 | 考える
退院から少し経てば、体力も戻ってくると思っていたが、
どっこい、逆に体力は衰えるばかり。()
溜息ばかりの今日この頃だ。

つかみ所のない毎日、そして明日。 ()
自分がどう考えていようが、70代とは、老年期である事に間違いはない。
年が変わって、もう随分とたった気がしていたが、カレンダーのチェックを見れば、
まだ1月も半ばすら過ぎていない。

この所、いつの間に打ち付けたのだろうか?・・・胸の辺りの痛みが止まらない。
次第に、外出が億劫になってくる。
日々、少しずつ、人間に会うのが面倒になっていく。
・・・そう、口先とは裏腹に・・・。

朝方咳が出て、もう一眠りと布団にに潜り込んだら、気が付けば、3時半。
まぁ、たまには (この所、しょっちゅうなんたけど) いいか、取り立てて、約束も、
仕事もあるわけもでなし。

時折聞く言葉、「お宅は一つでもいいところがあるから良いね。」
う~む、一つ取り柄があるとは、他に大した取り柄が無いという事にもなろう。
これを可とするか、不可とするか?

大体、大怪我ではないにしても、怪我をして、血止めが必要な時に、いくら歌唱力が
あってもどうにもならないとも思ってしまう。
とは言え歌唱力があるなら、それが豊かであるか、未熟であるかに関わらず、持って
いて損はないとも思う。
未熟な点は、継続していく事で、後からいくらでも補っていけるのだ。

ひかり

2019年01月09日 14時23分50秒 | 創作
おそらく光線の加減だったのだろう。

まるで初めての街だった。
どこにでもある町並み、それでいて見知らぬ街。
交差点の真ん中に立って、一人当惑している自分に気づく。

「ここは、どこだったろうか?」

朝日の生まれたての光。
赤ん坊の、あの強烈とも言える新鮮さ。
どこまでも若々しい光に包まれて輝いている。

が、それはほんの一瞬でしかなかった。
見失ったいつもの町並みが戻ってきた。
・・・いつもの電柱、いつもの通り、いつものポスト。

「ウム・・・。」

脈絡もなく、ふっと、高校時代を思い出す。
柔道の試合だった。
明らかに力の違う相手・・・。

送り襟締めにとられ、突然周囲の音が消え、時計が止まった。

姿三四郎だったらどうする・・・?
そうだ!! ここは巴投げしかない。
そんな事を考えていた。
いくらでも考え続ける事が出来、何でも出来そうな気がした。
そのくせ、何もせず、何も出来ずに、気が付けば試合は終わっていた。

そう、いつだって、何だって、そうだった。
ひょっとしたら、私はいつも、進まない時計の針先でもがき続けて、いや、もがこうとしていただけだったのかも知れない。

見上げれば、朝の街角、朝の空。

そうか、逆なのだ。
見る方向がいつもと反対なのだ。

出掛ける目。 
・・・そして、戻っていく目。

日曜日、朝帰りの風景。    

槿花亭綺譚 (槿花一日の栄え・槿花一朝の夢)

2019年01月07日 11時19分12秒 | 創作
槿花亭綺譚 (槿花一日の栄え・槿花一朝の夢)
槿花とはムクゲの花。
槿花は朝開いて夕方にはしおれてしまい、その華麗な花も一日だけのものであることから、はかない栄華のたとえ。

ああ、のぞめば道遙か、振り向けば日は黄昏れて、今、山に沈まんとする。
現世は幻なりと観じてみたとて詮もなし。
思えば遠き青春の、熱き想いを今ここに、背負いし罪科を顧みて、玄武の甲羅に譬えれば重ねし苔の幾層か。 
思えば胸の痛むなり。


☆「秋桜のこと」
10月も半ばを過ぎ、吹く風の爽やかな中にも、時折、何となく冷たさを感じさせるような、そんな季節でありました。
いつもの散歩道を、私の目の前にどこからでしたろうか?
ふわり、薄紅色の何とも艶やかなスカーフが一枚、飛んできました。
爽やかな秋風に乗ってどこからともなく流れてきたようでありました。

急ぐ様子でもなく、と言って、ただのんびりとそこら辺をただよっていたという様子でもなく、
どこかに向かってふわりふわりと飛んでいく途中ですといった風でありました。
スカーフは一体とこに行くつもりなのか? これは、誰かがはっきりさせる必要がある。
そんな気が致しました。

と言って、見渡せば近くには私以外、ただ一人の人間もおりません。
とすれば、私がそれを確かめずに一体誰が確かめるというのでしょう?

いつしか私はスカーフを追ってふらふらと歩いておりました。
ふわりふわり・・・、スカーフは、早過ぎもせず、かといって遅すぎもせず、私の歩みに会わせるように、
そう、まるでそよ風に舞う蝶のように飛んでいくのでした。

街角を何度か曲がって、ふと見上げると、いつの間にか、私は桜並木の下に立っておりました。
私は思わず目をこすりました。 二度三度、瞬いてもみました。

それは間違いもなく桜の花、桜の林の中でした。
満開の桜が、辺り一面、これでもかと言わんばかりに咲き誇っているのでした。
花と花が、幾重にも幾重にも重なり合って、ここに立って見上げていると、まるで一塊の雲・・・。
夕焼けの、終わり間際のあの薄紅色の雲のように見えました。

私を包み込む甘い香りは、それこそ息苦しいほどの香りでした。
これが桜の香りなのでしょうか?

考えてれば、私はこれまで桜の香りというのを知りませんでした。
何やら頭のてっぺんを突き抜けていくような強い香り・・・。
魅惑的とでも言ったら良いのでしょうか? 
・・・そんな感じでした。

思いもかけぬ桜の香りに戸惑う私の耳に、突然、何やら低い声が、つぶやきのような声が聞こえました。
向こうの木の陰から聞こえてきたような気が致しました。
耳を澄ませば、木の葉のざわめきのようにも思われました。
小鳥のさえずりだったのかも知れません。

ヒュンッ・・・、これは風でした。
桜の林を一陣の風が、駆け抜けていったようです。

狂おしい桜の香りが渦を巻いて私を包み込みました。
瞬間、辺りがしんと静まりかえり、ややあって再び、峠に薄い霧の降りかかるように、さらさらと
あの呟きが舞い落ちてきました。
さらさら、さらさらと呟きが私の足元に積もり重なっていくようでありました。

とはいえ、そのために桜の花びら一枚、あるいは桜の葉一枚が舞い落ちたわけでもなかったようです。
時折、薄紅色の花びら、しなやな枝がなまめかしく身をくねらせる。ただそれだけの事でした。

ヒュンッ・・・と風が吹き抜けて、さりとて、何一つ変わった様子もなく、ただ桜の森は
得体の知れぬつぶやきとささやきとに満ちあふれていくようでありました。

時は10月、人知れず、桜の森に棲むは魔物か? 
私は何を思うでもなく、その場に立ち続けていたようでありました。 <了>

今年も相変わらずよろしくお願い申し上げます。

2019年01月07日 08時42分25秒 | 考える
じゃ~~ん!!
遅ればせながら、風来居士、新年のご挨拶。
明けました。
おめでとうございます。
皆様、本年も相変わらずよろしくお願い申し上げます。

実は先月、年末も年末、12月30日真夜中、ちょっと具合が悪くなりまして、
弟にタクシーを呼んでもらい、町田の病院に急遽入院しました。
翌朝、タクシーに乗って、慶応医大へ。
3日ばかり入院、先日帰ってきました。

いやはや、何とも年は取りたくないものですね。
この歳になると、いくら口先で強い事をいっていても、周囲に迷惑を掛けて
いるという気持ちが実感として押し寄せてきます。
対して、何の礼というか、何の対応も出来ない歯がゆさが枕元に押し寄せて
きます。

これから、どう生きていくのか?
そんなことばかり考えている、昨日、今日です。
まぁ、年も明けたばかりですし、取りあえずは、干支にちなんで「猪突猛進」
などと、言葉遊び・・・。
ゆっくりと(?)今後の事を考えていきたいと思っています。

皆様、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
平成31年1月7日(月) 晴れ