80歳に向けて・「新風来記」・・・今これから

風来居士、そのうち80歳、再出発です。

シャボン玉 (1)

2019年01月25日 12時42分05秒 | 創作
 風温むうららかな春の日でありました。
 朝なのに、いつになくのんびりとしていたのは、多分、その日が
日曜日だったせいでしょうか?

 私はふらり、表に出ました。
どこに行こうという当てはなかったと思います。

 たばこ屋の角で、白い煙が輪になってふわりふわりと昇っていく
のを見かけました。
角を曲がると、たばこ屋の板壁にもたれて、若い男の人が、片手を
ポケットに、のんびりとタバコをふかしておりました。
見上げる私と目が合いまして、男の人は何故か照れたように、ニヤ
リと笑ったと思います。

私を見下ろした目が、ウインクして、ゆっくりと唇をすぼめると、
ゥワッ・・・と煙を吹き出しました。
白い煙のかたまりは、ゆっくりと膨らんで、ふわふわと大きなドー
ナツになっていきました。

私は煙草の煙の輪がふわりふわりと大きく膨らんでいくのに合わせ
て、ぽかーんと口を広げていったようです。
ふと男の人と目が合って、私はふいに気恥ずかしくなって、白い煙
の輪が風に吹かれて壊れるのに合わせて駆けだしていたと思います。

気が付くと私は公園の入り口でハァハァと大きく息を吐いており
ました。
かなり勢いよく駆けてきたようでした。
しばらくしてようやく落ち着いたと思います。

ふと見上げると、公園の小さなブランコに女の人が乗って、ゆらゆ
らと揺れておりました。
美しい人でした。
私は、この人をよく知っていたと思います。
見つめていると、女の人も私に気づいたのでしょう、ブランコを止
めて、私に向かってひらひらひらと手招きをするのです。

私は妙に照れて、その場にしゃがみ込みました。
そこにあった小石を拾い、地面に丸を書いたと思います。
大きな丸、小さな丸、ひしゃげた丸、また丸、も一つ丸、丸、丸、
丸・・・、いくつも、いくつも描いたと思います。

誰かが私の肩に手を触れたようです。
振り向くと男の人がニヤリと笑いかけました。
先ほどの若い男の人だったと思います。

「ボク、こんな所で一人で遊んでいると、危ないよ。」
私を見下ろして、そう言ったと思います。

私が立ち上がると、男の人の肩越しに、ブランコの女の人が、私を
見てうなづきかけました。
「そうね、もうちょっと奥で遊んだ方がいいかも・・・。」

「公園で遊びなよ。」

私は何故かホッとして、大きくうなずいて、向こうの砂場まで駆け
ていったはずです。
砂場に立って、私は振り返ったと思います。

女の人がニコニコして、男の人の横で白い手を振っておりました。
ひらひら、ひらひら・・・と。
白い手のひらが、まるで白いチョウチョのように見えました。
ひらひら、ひらひら・・・と、白いチョウチョは舞い踊るのです。
その横で、男の人がタバコをふかしています。

男の人がふかすタバコの煙、その崩れかけた煙の輪を、白いチョウ
チョがくぐり抜けます。
ふと、気が付いてみると、今そこにいた男の人と、ブランコの女の
人は、もうどこにも見えなかったと思います。

考えてみると、私は、あの二人をよく知っていたようなのです。
確か、以前もどこかで二人を見かけていたと思います。

多分、今日、二人はここで待ち合わせていたんだと思います。
私と出会うこの公園で・・・。