今日もママはいない 20
ミスターヒステリーピースは喋っているのか歌っているのか、よくわからないがとにかくその内容が独特であった。
「隣りの外科医は酔っぱらいで消毒用の焼酎を口から噴くつもりが間違って飲んでしまった」
何が言いたいのか、さっぱりわからなかったが面白かった。皆、笑っていた。ウータンなど腹を抱えて転がっていた。
「彼女のミニスカートはひらひらと風に舞ってそのまま隣町まで飛んでいったら山田さんのご主人とバッタリぶつかった」
「東京スカイツリーってホントは木じゃないんだよ、ハヤシだよ」
意味不明の歌詞ばかりだが、娯楽として上等だ。
15分ほど経つと、ミスターヒステリーピースの演奏は終わった。
瞳は相変わらず、司会気取りだ。「では、5分間の休憩のあと、追浜ゴジラさんに演奏してもらいます」
ウータンが叫んだ。「俺にも歌わしてくれ」
「やめとけ」パワーゴングがウータンを制した。「お前の歌ならいつもイヤというほど聞かされてる」
「なんだよ、つまんねえな」ウータンはふてくされた。
パーマがミスターヒステリーピースに話しかけた。「面白いわ。誰の曲?」
「バカ」ボケチャがパーマを羽交い絞めにした。「こんな変な曲、こいつが自分で適当に作ったに決まってるだろ」
「離して、ボケチャ」パーマは助けを求めた。「カラーマン、こいつ、何とかしてよ」
「わかった」カラーマンはパチンコをボケチャの背中に命中させた。「ナイスショット」
「俺を的にすんなよ」ボケチャは振り向いた。「冗談だよ、パーマ、ほら、もう離しただろ」
瞳が紹介した。「では、お待ちかね、本日のトリ、追浜ゴジラさんです」
追浜ゴジラは黙々とギターを弾き始めた。とても上手いのは素人の11人にもわかった。聞き入ってしまった。インストルメントの曲なのかと思ったら、3分くらいしたら、追浜ゴジラが急に歌い始めた。
「ウゴゴゴゴー。グガー、ギョアー」
歌というより叫び声でとにかく酷かった。ギターは美しく、歌は汚く、それが追浜ゴジラの方針のようだ。それからも心地よい音色と聞き苦しい叫び声が交互に繰り返された。
「どうもありがとうございます。追浜ゴジラさんでした」瞳の声に続いて、11人は喝采の拍手をした。