パロディ『石泥集』(短歌・エッセイ・対談集)

百人一首や近現代の名歌を本歌どりしながら、パロディ短歌を披露するのが本来のブログ。最近はエッセイと対談が主になっている。

2018年エッセイ・雲7 箸にも棒にも②

2018-03-26 16:16:47 | 雲エッセイ
          国家予算と家計を比較する愚かさ

 こんなにバカな議論は、とっくに終わっていたと思ったら、3月23日、フジテレビのバラエティ「政治家の面白いトコロ集めました 加藤浩次vs政治家」という番組で、性懲りもなく国の予算と家計とを同一視したデマを平気で流したのには驚いた。番組のプロデュース側から出たデマだろうが、MCの加藤浩次が訂正するわけでなし、出席していた評論家の有馬晴海も宇野常寛もあんぐり口をあいているだけ。安藤優子には、およそ意味が分からないだろう。ひどい番組だった。箸にも棒にもかからぬ、とはこのことである。
 
 予算を家計に例えるとは、こういうことである。日本一家の収入は400万円しかないのに、支出は525万円。125万円も借金して生活している。こんな生活を続けていいのか?いずれ消費税をドッカンと上げなければ、日本の国は破たんするのではないか? 借金の実額はとっくに1,000兆円を超えていて、その額は、生まれたての赤ちゃんからお年寄りまで、国民一人当たり850万円の借金になる。いまから10年前くらいまでは、よく聞いた議論である。

 この議論(?)の進め方は財務省が編み出したものである。しかし、この話は詐話(作り話)である。結論を消費税増税へ持っていくための話である。以下がその証拠。家計といえば、一番の支出は食費である。支出に占める食費の割合をエンゲル係数といって、この割合が高いほどその家庭が貧しい…ということも皆が習ったはずである。それほど大事な食費だが、国家予算のどこに食費に相当するものがあるだろうか。服を買うお金は、被服費に計上される。国の予算のどこに被服費があるのか。国家予算と家計を同一視するのは、単に項目だけでなく、全く別もので、そもそも比較するのがおかしい。

 国は国民生活を安全に維持するため、さまざまな投資を行う。高速道路を建設したり、国民が働きやすいように保育園を建設する費用を補助したり、ずっと働き続けてきたお年寄りに年金を支給したりする。家計の項目に、こんな支出はない。投資や福利厚生という意味からいえば、国の予算は企業の貸借対照表、損益計算書の方に近いのだ。

 試みに貸借対照表を調べてみよう。表の左側には現金預金や土地建物など会社の資産があがっている。右側には借入金など負債があり、資本金や利益(場合によっては損失)が記入されている。左と右の金額は一致する。貸借対照表によって、会社の資産と負債がはっきりするのである。実は国の貸借対照表が作られたのは、そんなに昔ではない。あとで記す本の著者、高橋洋一氏が大蔵省(財務省の前身)で20年以上前に試算し、10年後には財務省も公表しなければならなくなった。それまでは国の運営も大福帳式で、極端にいえば、税金を掴み金として適当にばらまくだけのことに過ぎなかった。その中で剰余金をつくり、自分たちの特別勘定へ金を流し込む…という役人天国を作ってきたのである。

 国の借金1,000兆円以上…というなら、国の資産も勘定しなければ理屈に合わない。ざっとした金額を言えば500兆円の資産があり、外国から貸したり借りたりしている金を精算すると、250兆円の貸付金が残り、結局、250兆円の借金ということになる。庶民の感覚からすれば、250兆円の負債でも、びっくりするような金額かもしれない。国民一人当たりに直すと、約215万円の金額に相当するからだ。

 でもね~、ここで間違ってはいけない。借金は「日本政府の借金」。それでは貸し主は誰か? 大部分は日本国民が政府に貸し付けているのだよ。みなさんの家族の中には、国債を買ったことがある人たちもいるだろう。なにも、直接買わなくったって、たいていの人は銀行預金をしているに違いない。銀行がその預金を使って、国債を買っていることをご存じだろうか。つまり、私たちは間接的に国債を買っていて、日本政府へ貸しつけているわけ。政府は債務者で貧乏だが、国民は債権者で金持なのだ。

 政府が貧乏なのは、なにか大きな失敗をしでかしたからではない。先ほども言ったように、政府は国民生活を快適なものにするために投資をし、福利を充実させているわけ。そのためには、借金も許される。これはどこの国でもやっていることだ。ちなみに日本政府の支払っている金利は世界のどの国よりも少ない。アメリカよりもドイツよりも少ない。それは日本国債の金利が圧倒的に低いから。何故低いかといえば、それでも日本国債は売れるからである。

 世界経済が低迷すると、世界中の人が争って日本国債を買う、という話は聞いたことがあるに違いない。最も安全な資産が日本国債だからである。それでも、国債の外国人比率は10%前後である。よく引き合いに出されるギリシャとはわけが違う。ギリシャの場合は、100%が外国の銀行などだった。日本にたとえたら、アメリカや中国や韓国から借金しているような状態だ。国民が債権者…という日本とは大違いである。日本という国は、国民が政府をしっかり支えている立派な国なのだ。こうした、当たり前の事実を認めない代表が新聞やテレビをはじめとする、旧マスメディアである。役人も旧マスメディアを利用しているからご注意を。

 日本の国家予算を家計にたとえて、大変だ大変だ、と騒いでいた人たち。これ以上、デマを流さないようにしよう。偽の噂の発信元は「いつでも増税」を宗旨とする財務省である。危機感をあおれば、国民も増税に賛成してくれるだろう、という見込みだったが、悪あがきはやめてほしい。私が共産党の政策で、唯一評価しているものがある。消費税を5%に戻せという主張だ。その方が景気がよくなるのではないか。役人たちは自らの利益しか考えていない。筆者が常々敬服している高橋洋一氏の著書の中に、次のようなくだりがある。

 …あるテレビ番組で、政府の資産が500兆円あることをいうと、ゲストから「資産といっても処分できないものばかりでは?」と質問があった。多くの資産は金融資産です、と返事すると、具体的な名前を…といわれたので、日本政策投資銀行やUR都市機構など特殊法人、独立行政法人に対する「貸付金」「出資金」をあげた。それを回収するとどうなる?…と、更に尋ねられたので「特殊法人などを民営化または廃止することになると回収できる。その代り、官僚たちは天下りできなくなる」とお答えした。以上、実はCMの最中のやり取りである。ゲストの方々が、一様に感想を漏らしたのは「CM中の方が勉強になる」。下記の本の中で語られたエピソードである。また、同じ本から平成24-25年度の日本政府発表の貸借対照表を掲げておく。



 著者(高橋)いわく、この連結決算では債務超過が490兆円になっているが、日本銀行を連結の対象としていないのは不可解である。日銀決算を連結すれば、日銀の資産としての国債が198兆円あり、債務はぐっと少なくなる。日銀引き受けが増加している現在では、もっと少なくなっているはず、という。筆者も賛成である。

参考にした本は、以下の通り。
 高橋洋一『数字・データ・統計的に正しい日本の進路』(講談社α新書、2015年)
 三橋貴明『だから、日本経済が世界最強というこれだけの理由』(WAC、2013年)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2018年事件簿4 森友事件(続編) | トップ | 2018 エッセイ・雲8 大相撲の... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

雲エッセイ」カテゴリの最新記事