パロディ『石泥集』(短歌・エッセイ・対談集)

百人一首や近現代の名歌を本歌どりしながら、パロディ短歌を披露するのが本来のブログ。最近はエッセイと対談が主になっている。

240321 日本人らしい

2024-03-21 14:47:14 | パロディ短歌(2011年事件簿)
      マイナス金利解除のタイミングが早い

(写真は、マイナス金利を解除した植田和男日銀総裁)
 日銀がマイナス金利を解除した。春闘では満額回答をする企業が続出し、中には要求額以上の回答をした企業も出て、日銀は利上げ(マイナスから0~0.1%へ)のチャンスと捉えたようである。適正なタイミングと評価する声が上がった一方、野党などは遅きに失したと批判している。全く分からない議論である。私などは早すぎるタイミングではないかと疑っている。

 というのは、輸入価格の高騰や人手不足などで数年前から生活必需品が値上げラッシュを迎えていて、今年の春闘はそれを補正する役割を担っただけであるから。新しい経済循環に向けて、ちょうどスタートを切ったというタイミングである。経済が活発化して、その動向に加熱の傾向がみえる、そのタイミングで利上げに踏み切るのが中央銀行の役割で、アメリカのFRBをみるまでもなく、世界の中央銀行はこのように振舞っている。あらかじめ過熱を防ぐという、日本人らしい小賢しい対応ではないか。利上げのタイミングで、バブル崩壊時やリーマンショックの対応など、何度も失敗している日銀が全く勉強していないのは理解に苦しむ。

 日銀のマイナス金利解除後の為替と株価の値動きが興味深い。為替は円高に振れると予想されたにもかかわらず1ドル=150円台の円安に振れた。利上げで株価は下がると予想されたのに4万円台の大台を回復した。これは矛盾する動きである。為替の示すところは、相変わらず日本経済は弱いというもの。日経平均の株価上昇は、マイナス金利解除でこれからの日本経済に期待する動きである。どちらが正しいのかといえば、利上げに踏み切ったタイミングが早すぎるということで、国際的な見方の方に分があるだろう。


(写真は、D.アトキンソン氏と『日本人の勝算』)
 前回のブログ(二つの事件―裏金と性加害―に共通するもの)から2ヶ月以上たっている。こんなに間が空くのは初めてである。しかし、2月にはデーヴィッド・アトキンソン氏の著書『日本人の勝算』(東洋経済新報社、2019年)を読んで、日本経済復活への応援をすべく「この本がいかに秀れているか、著者がいかに誠実であるか」を力説しようとしていた。しかし、「経済成長なんぞ要らない」という迷妄がなくならない現実の前に、気持がなえてしまっていた。

 経済成長不要論を唱えるのは既得権益者で、左翼右翼を問わない。霞が関の高級官僚を筆頭に学者、医者、マスコミ人、野党の政治家などで、彼らには想像力が欠けている。今頃になって、日本が世界経済から置いてきぼりを食らっていることや、二周遅れのデジタル化で人材不足のカバーもままならない現実に驚いているが、すべて昔から分かっていたことである。経済成長がストップするということは、世界の中で日本だけが経済の縮小に向かい、国民の生活も困窮し、社会が不安定になることである。コロナ禍で経済縮小を体験し、不安に駆られた国民は数多く存在する。それを体験したはずなのに、見る意思のない人たちには見えない。

 アトキンソン氏については、このブログで過去に二度取り上げたことがある。23年7月16日付「非常時の手法・最低賃金の引き上げ(D・アトキンソン氏の提言)」と8月20日付「日本人の錯覚・気づいていない現実」である。その時に氏を紹介した一文がある。引用すると―

 氏は1965年生まれのイギリス人。世界第二位の証券会社ゴールドマンサックスでアナリストをつとめ、バブル崩壊後の日本経済を分析し、銀行の不良債権を見積もり、債権放棄への道筋をつけて、不動産業界の再生を手掛けたり、観光資源を活用する方策を政府に提言したりした人物である。データ分析には定評があり、レポートを発表する度に、当の業界から激しいバッシングを受けながら、最終的には彼の分析が正しいと皆が認める…こういう経緯を辿ってきたのが、来日30年の歴史である。2009年に国宝や重文の修復を手掛ける小西美術工藝社に入社、2011年から代表取締役に就任。鮮やかな転身をみせた。

 『日本人の勝算』では数多の図表を駆使して、さまざまな分析と提言をしている。著者いわく「執筆にあたり日本経済を経済事情ごとのパーツに分けて、そのパーツを研究している海外のエコノミストの論文を探し、最終的には118人の外国人エコノミストの論文やレポートに目を通し」「それらの分析結果を日本の事情に当てはめて」「日本経済を維持・成長させるためにどうすればいいか」を考察した…という。

 日本経済の低迷に心を痛めている一人として、このような応援団が存在することは天佑の一つと思う。処方箋が以下の報告である。われわれが心得ておくべき前提がある。われわれの常識となっている「経済知識」は人口増加時代のものであって、人口減少・高齢化の時代には足枷となることを理解しておかなくてはならない。その上で、日本の労働者の質が高いこと(世界第4位、World Economic Forum調べ)と労働生産性が低いこと(世界28位、同)のギャップに目をつける。この事実の意味するところは、日本の経営者が質の良い労働力を無駄に使っている(つまり低賃金でこき使っている)ことで、そのせいで経済は上向かない(つまりデフレから脱却できない)。

 ここにアトキンソン氏はイギリスの行った社会実験を紹介する。それは最低賃金の引き上げである。詳しい経緯は省くが、政府が行った最低賃金の引き上げによって、イギリス経済は復活した。これを活用しない手はない。「賃上げ」「新しい資本主義」…岸田首相の唱えるスローガンが、実はデーヴィッド・アトキンソン氏の説く処方を拝借したもの、という認識は広く知られている。ただ、岸田くんがどこまで深く理解しているかは、今後の政策を見ないと分からない。アトキンソン氏の提言から、すでに5年もたっているからである。遅れた理由は例によって、既得権益者が政策の実現を陰に陽に邪魔をしたことによる。そのことも『日本人の勝算』には記してある。

 今年の春闘の実績はようやくアトキンソン氏の持論が理解されてきたことによる。昨年の最低賃金の上昇率は4%台で、久しぶりに大幅な賃金アップを演出した。ただ、本当に理解されているかは心もとない。『日本人の勝算』は経営者の選別を提唱したという側面がある。賃上げがこれからも継続的に続けば、企業は優勝劣敗の季節を迎える。倒産する企業があっても人手不足により、労働者は痛い目を見ない。淘汰されるのは経営者なのである。そんな新時代を迎える気構えがあるかどうか。それが今日に問われている課題である。いち早く利上げを行い、用心深く小出しに政策を打つのは、日本人らしいといえば日本人らしいが、政府、日銀、財務省などの過剰な心配が、既得権益を守るものであってはならない。そうしたケースは多いからだ。
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