パロディ『石泥集』(短歌・エッセイ・対談集)

百人一首や近現代の名歌を本歌どりしながら、パロディ短歌を披露するのが本来のブログ。最近はエッセイと対談が主になっている。

2020年 岡目八目1 無垢の日本2(性善説)

2020-01-20 09:30:56 | 対談
            日本人が性善説にかたむくわけ

 1月4日からはじめた「無垢の日本」シリーズ。前回はこう解説した。
「無垢の日本」とは、先験的な意味や差異(日本は先進技術国だとか侵略国だとか)をすべてはぎとった、いわば「無指標の日本」である。現実の日本ではない。思考実験のために仮定された日本である。この日本にはアメリカ軍の基地もない。CHINAや韓国からの非難もない。全く白紙の日本である。ただし、時期的にいえば「世界の中の日本」を意識した明治維新以降の「日本国」および「日本国民」を対象とする。今回は対談形式で。

(八)カルロス・ゴーンが密出国して、日本は大騒ぎですね。
(冬)意見として、ゴーンを非難する論調が多いのは当たり前ですが、取り逃がしてしまった「日本の司法」も非難されています。まず、「逃亡しない、逃亡させないから」と保釈を申請した弁護人。保釈を認めた裁判所。
(八)逃亡しても罪にならない「お人よしの法律」を指摘する声もあります。
(冬)そうですな。裁判に出頭を要請された刑事被告人はみな恐れ入って出頭するという前提で、そこに穴が開いている。
(八)被告が逃げることを想定しない前提で、日本の法律は作られているわけです。
(冬)江戸時代のお白州の感覚と変わりがない(笑)。 お上が何か一言いえば「ハハーッ」と平伏する、とでも思っているんでしょうかね(笑)。
(八)ゴーンの前に、昨年は横浜でも大阪でも、刑事被告人の逃亡事件がおきている。総体的に検察はゆるんでいるんでは?
(冬)法改正を考え始めたようですが、ね。
(八)法律というものは便利なようでいて、不便なものです。つまり、法律を言葉で書く限り、必ず「法逃れ」の部分が出てくるから、ですね。
(冬)たしかに、法は万全ではない。遺漏があります。
(八)そんな場合、日本人はこう考える。「漏れたところは人間の善意に任せようではないか」。
(冬)日本人に特有の「性善説」ですな。
(八)日本国内ではずっとこれで通ってきました。いい社会ですね(笑)。
(冬)そうですな。なにかユートピアみたいなものを感じます(笑)。オッと、笑ってはいけない、かな。
(八)まず、性善説が成り立っている社会の利点をいいましょうか。お互いの間に暗黙の信用があるから、社会が整然としていますね。
(冬)大災害に際しても、日本国民が秩序を崩さないのは、世界が認めましたね。
(八)経済活動も「信用」の度合いが大きい。信用できればできるほど、大きな取引ができる。経済が大きくなる。
(冬)ところが、他の国が「性善説」で動いているかといえば、そんなことはない。
(八)日本のプロ野球選手が、大リーグに行くと、膨大な契約書にびっくりしますね。
(冬)「この辺は適当によろしく」式の日本では、決してお目にかかれない。
(八)アメリカの社会は、人間を善・悪両面で見ています。
(冬)どんな条件についても、逐一、条文で定めないと安心できないのでしょう。宗教も習俗も違う多民族国家だから当然、といえば当然なのですが、実はキリスト教が絡んでいる面もある。
(八)キリスト教が支配している国では、多かれ少なかれ、微にいり細にわたった契約を結ばされる。多民族国家でなくともそうである、というわけですか?
(冬)キリスト教世界では、個人個人が神(GOD)と契約を結んでいる。人と人は直接つながっているのではなく、神を介して「隣人」であるわけ。
(八)隣人は私の権利を侵しに来るかもしれない、というわけですね。もっとも、だからこそ信教の自由とか思想の自由とか、個人の自由を守る近代社会を生み出したわけですが…。素朴な性善説は成り立ちようがない。
(冬)その証拠かどうか、キリスト教では、神と悪魔の二元論が普通である。
(八)日本人の個人認識は全く違います。天地を創造した圧倒的な神様がいない。それどころか、人間を頼ってくる「貧乏神」のような神様もいる(笑)。
(冬)神様はアテにできないということ(笑)。
(八)結果として、日本では人が人を保証することになった。日本人の「私」は「あなたが見たあなた」という構造になっています。

(写真は、イザヤ・ベンダサン著『日本教について』ー文春文庫)
(冬)山本七平さんが規定した「私」イコール「お前のお前」という関係ですね。
(八)「相身互い」という言葉がありますが、日本では「私」と「あなた」が互いに保証するんです。 その象徴が天皇と国民の関係で、天皇は国民の安寧を常に祈り、国民は天皇を鏡として自らの生活を律するわけです。
(冬)お互いが信じあい、和をもって事に当たらなくては社会が崩壊しますね。ここでは「性善説」以外に成り立たないんですよ。
(八)クリスチャンが神(GOD)に保障されているのとはずいぶん違いますね。
(冬)「性善説」が成り立たないのは、CHINAでもそうです。
(八)「上に法あれば、下に対策あり」(笑)といいますね。法逃れが常態化していることの証ではありませんか(笑)。
(冬)そういう工夫は悪いことではない。当たり前のことなんです(笑)。
(八)最大の対策は「金(かね)」でしょうな(笑)。
(冬)先祖のお墓の前で、あの世でもお金に不自由しないよう、おもちゃの紙幣を焼く民族ですから(笑)。隠れた宗教は拝金教。
(八)人口が多いが故に、いつも過当競争にさらされている環境では、こうなるんでしょうね。
(冬)ある意味では仕方がない。性善説では遅れをとりますね。
(八)一つだけ、日本の性善説には欠点があるんですよ。
(冬)ほう、何でしょう?
(八)他の民族を、同じと思いこむんですな。見境いなく、同化しようとする。また、同化してもらえるものだと思っている。
(冬)ははあ、朝鮮のことですね。
(八)どうですか? 現在の惨状は?
(冬)ひどいものですな。当時の日本は、国家予算の中でも、ずいぶん、朝鮮に持ち出している。
(八)そのころに比べたら、日本も「性悪説」を理解し始めた、とはいえる。
(冬)昔は日中、家にカギをかけないのが普通でしたから。
(八)世界に開いている以上、世界標準にあわせることは必要。ゴーンのような被告の逃亡を禁じ、罰するのは当然です。
(冬)しかし、信用がものをいう世界は強いですから。伝統は残してほしい、というところでしょうか。
(八)日本人の自己認識(人が人を保障する)は、徐々に広まっていくと思いますよ。なにしろ、欧米のキリスト教離れは少しずつ進んでいくはずですからね。
(冬)CHINAと韓国はどうでしょう?
(八)二つの国は、いまだに儒教国家です。変なプライドが高すぎる。日本を格下とみているのは、無意識の領域なんです。日本と協調することは、これからもあり得ないんじゃないか。そう覚悟している方が、間違いを犯さなくてすみますね。
(冬)そう決めてしまえば、方針がたちます。まず、何より気楽ですな(笑)。

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