11月23日(金曜) 講師:ジャンルーカ校長(その6)
泣いても笑ってもこの日が最後の講習。「勤労感謝の日」にふさわしく、遠方来てくださった生徒さんに感謝し、毎日おいしい食材を作ってくれたり獲ったりしてくれている農家や酪農家、漁業・林業関係の人たちに感謝しながら最後までお料理を作るのだ。
昼のメニューはリコッタやキノコ、クリスマスのビスケットがあるので肉料理、でも金曜日は伝統的に魚料理の日だし、魚好きの人も多いので夜は魚づくし。すかさずジーノが「先生、魚の掃除と処理はカルリーンが一人でしたいそうです!」と叫ぶ。彼女はやっぱりアングロサクソンにふさわしく「魚料理は大好きだがお腹を出したりおろしたりが苦手」なのでわざと言っているのだが、こういうことを言う男の子ってどこの学校にもいるよなあ(せいぜい中学2年生どまりだとは思うが)。ジャンルーカが2日に1回は「彼には半分トスカーナの血が流れているが、こういうのがイタリア人だと思っては絶対にいけない。彼は(ラテン)アメリカ人なんだ」と力説するのもわかるほど「今晩は魚づくしのあとディスコ大会だぜ。一晩中踊り明かそうネ~、○△子サン。ズム、ズム」と誰彼なしに声をかけ、マリエッラに「以前リヴォルノ人が2人揃って来たときですら、あんた1人よりまだ静かだったわ」と言われる始末。もちろん彼も淋しいに決まっているのだが、「今日で最後なのね」「もうお別れなんだわ」と、別れた後の淋しさを先取りして早くもしんみりする日本人の中にあって、「一緒にいられる時間はもう少ないんだ、だから今を精一杯楽しもう」と逆にひたすら現在に集中するジーノの存在は結構救いだった。
28日目の昼食:
Ricotta fresca 昨日のご夫婦から買った新鮮なリコッタ。ほのかで上品な甘みがあって何もつけなくても十二分においしく、ハチミツをかければこれだけで立派なデザート。「できたてのお豆腐みたい」という声を聞きつけたマリエッラは「全然違うわ!」と反論するが、考えてみれば日本に来たことのない彼女が食べた豆腐なんて、中華料理店のものか中国産の瓶詰め、または「ハウスほんとうふ」みたいなインスタント食品がせいぜいだ。それじゃ本当の豆腐の味はわからないから一度日本に来なきゃダメだね、と言っておいたが、本物のリコッタも、日本ではまず味わえないもののひとつだと思う。
Tagliatelle con salsa di formaggi タリアテッレのミックスチーズソース 4つ(quattro formaggi)どころか、たぶん冷蔵庫の中のチーズで使えそうなものを片端から入れているが、正確な種類と数は誰も見ていなかったチーズのソース。でもこういう全粒粉のパスタには最高。チーズ大好き娘カルリーンが感涙にむせんだことは言うに及ばず。
Funghi del parco con funghi e noci 「公園のキノコ」のキノコソース 「公園のキノコ」って?と思われるのも当然、タリアテッレとこのパスタは、ジャンルーカの知人が勤めている自然公園の中でしか売られていない特殊パスタ。原生種に近い古代麦を3種類かけ合わせて作った交配種を公園内で栽培し、収穫後に粉末(全粒粉)にして作ったといういわくつきのパスタである。もっとアピールしたいから、これに合うソースを考えてほしいという依頼があり、ジャンルーカただいま考案中。
Lasagne al forno ラザニアのオーブン焼き 常連セレーナ先生も今回都合がつかなかったのだが、ラザニアはやっぱりとりあげなくちゃ!と、前日ミートソースだけ仕込んでおき、手打ちパスタとベシャメルソースを作って仕上げた。一番上の層にはミートソースで終わり、表面におろしチーズをかけるのだが「私が習ったのは、最後はパスタ→ベシャメル→チーズなのですが、こっちが正しいんですか?」と言う生徒さん。マリエッラに確認すると「そうよ、ラザニアにはミートソースだけでなく野菜ソースバージョン、魚介ソースバージョンもあるから、何のソースが入っているのか一目でわからないと困るでしょ。だから一番味のはっきりしたソースを一番上に、よく見えるように持ってくるものなの」だそうです。
Insalata verde グリーンサラダ
Befanotti ベファノッティ(写真) 1月6日(公現祭)の日に食べる伝統的なビスケット。ハートや星、ウサギ(なんの象徴なんだろう?)などの形に抜き、シュガースプレーを散らして焼く。「夕食にはどうしても来られない」と昼食のゲストとしてやってきた語学担当のルカ先生は「子供の頃を思い出す」と大喜び。先生はもともとお菓子に目がないが、今回もっとも気に入っていたのがこれと、マヌエラ先生の時に作った「チョコレートのレンガ」だった。素朴すぎる手作り菓子だからレストランでも商店でも見かけず、作る人もめったにいないから心の琴線に触れたらしいのだ。おフクロの味ってやっぱり強いのね。
Caffè エスプレッソコーヒー
28日目の夕食:
Sarde gratinate イワシのグラタン焼き
Calamari ripieni 詰め物をしたヤリイカのソテー
Baccalà fritto e marinato 揚げた塩ダラのマリネ
Crostini con baccalà mantecato バカラ・マンテカート(塩ダラをオリーブオイルや生クリームと一緒に泡立ててムース状にしたもの。ヴェネツィアのロベルタ先生が得意な伝統料理だが、今回来られなかったのでここで紹介)のクロスティーニ
Cacciucco alla livornese リヴォルノ風カチュッコ
Panettoncini 小型パネトーネ サンドラ先生が使ったようなサイズのものはまさか家庭では作れないが、カップケーキ型で焼くこのミニ版なら大丈夫。しかしいつ見ても、pane+-ttone =panettone「大型(で豪華な)パン」+-cino=panettoncino「小型の『大型パン』」という命名はヘンだと思う……。
Torta di recupero 残り物再利用ケーキ 水曜日のお菓子の授業で残った生クリームやチョコレート、タルト生地を主な材料としてマリエッラが作ったもの。
Caffè エスプレッソコーヒー
さて、これで丸4年間続いたこのホテル&レストランでの正規コースは終了。今月末と12月上旬に短期講習でやってくるグループの講習が終われば、いよいよ来年からはVicopelagoでの新生活がスタートだ。
ボストンに帰ったカルリーンはすぐ学生ヴィザを申請し、2月からの本科コースに引き続いて参加の予定だし、モンテカティーニのコーリーも多分やってくる。今回のコースに「まったくの素人」ながら参加したアッコさんはVicopelagoがすっかり気に入り「来年は語学学校に留学しようと思っていたが、なんなら秋の本科に参加したい」と言い出し、カルリーンに「ダメよ、私と一緒に2月にいらっしゃい!」と迫られているし、ジーノも仕事の合間を見つけてはやってくるだろう。他の人たちは?わからない。が……
「ラテンアメリカの人間は、とても誇りが高いんだ。たとえば君がぼくの一家の悪口を言うとするだろう、そうしたら僕は一生そのことを覚えていて、絶対忘れない(それは誇り高いというより、根に持つと言ったほうが正確なのではないか?)」「その悪口が的を得ていても?」「そうさ。それから一度つながりのできた人のことは絶対に忘れない。ぼくたちが今日限りで別れて、30年後にまた逢ったとしても、ぼくは君たちの顔と名前を覚えていて、必ずあいさつするんだ」「よ~し、じゃあ今から約束しよう。2037年11月23日に待ち合わせ。場所は?(←このあたりが日本人)」「会えさえすればどこだっていいさ(←このあたりがラテン人)」
実現しますように。できれば、おいしいワインとパンとあったかいお料理のある食卓を囲んで。
泣いても笑ってもこの日が最後の講習。「勤労感謝の日」にふさわしく、遠方来てくださった生徒さんに感謝し、毎日おいしい食材を作ってくれたり獲ったりしてくれている農家や酪農家、漁業・林業関係の人たちに感謝しながら最後までお料理を作るのだ。
昼のメニューはリコッタやキノコ、クリスマスのビスケットがあるので肉料理、でも金曜日は伝統的に魚料理の日だし、魚好きの人も多いので夜は魚づくし。すかさずジーノが「先生、魚の掃除と処理はカルリーンが一人でしたいそうです!」と叫ぶ。彼女はやっぱりアングロサクソンにふさわしく「魚料理は大好きだがお腹を出したりおろしたりが苦手」なのでわざと言っているのだが、こういうことを言う男の子ってどこの学校にもいるよなあ(せいぜい中学2年生どまりだとは思うが)。ジャンルーカが2日に1回は「彼には半分トスカーナの血が流れているが、こういうのがイタリア人だと思っては絶対にいけない。彼は(ラテン)アメリカ人なんだ」と力説するのもわかるほど「今晩は魚づくしのあとディスコ大会だぜ。一晩中踊り明かそうネ~、○△子サン。ズム、ズム」と誰彼なしに声をかけ、マリエッラに「以前リヴォルノ人が2人揃って来たときですら、あんた1人よりまだ静かだったわ」と言われる始末。もちろん彼も淋しいに決まっているのだが、「今日で最後なのね」「もうお別れなんだわ」と、別れた後の淋しさを先取りして早くもしんみりする日本人の中にあって、「一緒にいられる時間はもう少ないんだ、だから今を精一杯楽しもう」と逆にひたすら現在に集中するジーノの存在は結構救いだった。
28日目の昼食:
Ricotta fresca 昨日のご夫婦から買った新鮮なリコッタ。ほのかで上品な甘みがあって何もつけなくても十二分においしく、ハチミツをかければこれだけで立派なデザート。「できたてのお豆腐みたい」という声を聞きつけたマリエッラは「全然違うわ!」と反論するが、考えてみれば日本に来たことのない彼女が食べた豆腐なんて、中華料理店のものか中国産の瓶詰め、または「ハウスほんとうふ」みたいなインスタント食品がせいぜいだ。それじゃ本当の豆腐の味はわからないから一度日本に来なきゃダメだね、と言っておいたが、本物のリコッタも、日本ではまず味わえないもののひとつだと思う。
Tagliatelle con salsa di formaggi タリアテッレのミックスチーズソース 4つ(quattro formaggi)どころか、たぶん冷蔵庫の中のチーズで使えそうなものを片端から入れているが、正確な種類と数は誰も見ていなかったチーズのソース。でもこういう全粒粉のパスタには最高。チーズ大好き娘カルリーンが感涙にむせんだことは言うに及ばず。
Funghi del parco con funghi e noci 「公園のキノコ」のキノコソース 「公園のキノコ」って?と思われるのも当然、タリアテッレとこのパスタは、ジャンルーカの知人が勤めている自然公園の中でしか売られていない特殊パスタ。原生種に近い古代麦を3種類かけ合わせて作った交配種を公園内で栽培し、収穫後に粉末(全粒粉)にして作ったといういわくつきのパスタである。もっとアピールしたいから、これに合うソースを考えてほしいという依頼があり、ジャンルーカただいま考案中。
Lasagne al forno ラザニアのオーブン焼き 常連セレーナ先生も今回都合がつかなかったのだが、ラザニアはやっぱりとりあげなくちゃ!と、前日ミートソースだけ仕込んでおき、手打ちパスタとベシャメルソースを作って仕上げた。一番上の層にはミートソースで終わり、表面におろしチーズをかけるのだが「私が習ったのは、最後はパスタ→ベシャメル→チーズなのですが、こっちが正しいんですか?」と言う生徒さん。マリエッラに確認すると「そうよ、ラザニアにはミートソースだけでなく野菜ソースバージョン、魚介ソースバージョンもあるから、何のソースが入っているのか一目でわからないと困るでしょ。だから一番味のはっきりしたソースを一番上に、よく見えるように持ってくるものなの」だそうです。
Insalata verde グリーンサラダ
Befanotti ベファノッティ(写真) 1月6日(公現祭)の日に食べる伝統的なビスケット。ハートや星、ウサギ(なんの象徴なんだろう?)などの形に抜き、シュガースプレーを散らして焼く。「夕食にはどうしても来られない」と昼食のゲストとしてやってきた語学担当のルカ先生は「子供の頃を思い出す」と大喜び。先生はもともとお菓子に目がないが、今回もっとも気に入っていたのがこれと、マヌエラ先生の時に作った「チョコレートのレンガ」だった。素朴すぎる手作り菓子だからレストランでも商店でも見かけず、作る人もめったにいないから心の琴線に触れたらしいのだ。おフクロの味ってやっぱり強いのね。
Caffè エスプレッソコーヒー
28日目の夕食:
Sarde gratinate イワシのグラタン焼き
Calamari ripieni 詰め物をしたヤリイカのソテー
Baccalà fritto e marinato 揚げた塩ダラのマリネ
Crostini con baccalà mantecato バカラ・マンテカート(塩ダラをオリーブオイルや生クリームと一緒に泡立ててムース状にしたもの。ヴェネツィアのロベルタ先生が得意な伝統料理だが、今回来られなかったのでここで紹介)のクロスティーニ
Cacciucco alla livornese リヴォルノ風カチュッコ
Panettoncini 小型パネトーネ サンドラ先生が使ったようなサイズのものはまさか家庭では作れないが、カップケーキ型で焼くこのミニ版なら大丈夫。しかしいつ見ても、pane+-ttone =panettone「大型(で豪華な)パン」+-cino=panettoncino「小型の『大型パン』」という命名はヘンだと思う……。
Torta di recupero 残り物再利用ケーキ 水曜日のお菓子の授業で残った生クリームやチョコレート、タルト生地を主な材料としてマリエッラが作ったもの。
Caffè エスプレッソコーヒー
さて、これで丸4年間続いたこのホテル&レストランでの正規コースは終了。今月末と12月上旬に短期講習でやってくるグループの講習が終われば、いよいよ来年からはVicopelagoでの新生活がスタートだ。
ボストンに帰ったカルリーンはすぐ学生ヴィザを申請し、2月からの本科コースに引き続いて参加の予定だし、モンテカティーニのコーリーも多分やってくる。今回のコースに「まったくの素人」ながら参加したアッコさんはVicopelagoがすっかり気に入り「来年は語学学校に留学しようと思っていたが、なんなら秋の本科に参加したい」と言い出し、カルリーンに「ダメよ、私と一緒に2月にいらっしゃい!」と迫られているし、ジーノも仕事の合間を見つけてはやってくるだろう。他の人たちは?わからない。が……
「ラテンアメリカの人間は、とても誇りが高いんだ。たとえば君がぼくの一家の悪口を言うとするだろう、そうしたら僕は一生そのことを覚えていて、絶対忘れない(それは誇り高いというより、根に持つと言ったほうが正確なのではないか?)」「その悪口が的を得ていても?」「そうさ。それから一度つながりのできた人のことは絶対に忘れない。ぼくたちが今日限りで別れて、30年後にまた逢ったとしても、ぼくは君たちの顔と名前を覚えていて、必ずあいさつするんだ」「よ~し、じゃあ今から約束しよう。2037年11月23日に待ち合わせ。場所は?(←このあたりが日本人)」「会えさえすればどこだっていいさ(←このあたりがラテン人)」
実現しますように。できれば、おいしいワインとパンとあったかいお料理のある食卓を囲んで。